辺境伯への仕官

第6話 旅立ち


 師匠の屋敷に居候して五年の時が経った。


 俺は毎日ゴーレム魔法を鍛え上げて、魔力強化のためにコアを飲み込み続けた。


 トラブルの類も少しはあった。例えばゴミクズの配下の輩が、師匠の屋敷におびき寄……襲撃してきた。


「これは人の剣術を学ばせたゴーレム二号じゃ! 剣技で勝負!」

「へっ! こんなおせぇ剣なんて食らうぐへぇ!?」

「うーむ……剣より拳の方が百倍強いのう……」


 師匠はゴーレムに剣を持たせたが、上段で斬り下ろすことしかできないので敵である男には当たらない。


 結局剣を持っていない左側の拳で殴って倒した。


「これは投石機能を持たせたゴーレム八号じゃ! でも石がないのう……」

「ならただのゴミじゃねぇぼへぇ!?」

「やはり殴った方が強いのう……」


 投石ゴーレムは投げる石を用意できなかったので、結局侵入者を殴って倒した。


 こんなことを繰り返した結果、ゴミクズの舎弟はもう屋敷に来なくなってしまった。


「のう弟子や。侵入者はまだかのう……」

「いやですね師匠、もう散々おかわりしたじゃないですか」


 そして俺は五年の成果としてすさまじい量の魔力を得て、超絶技巧のゴーレム魔法の腕を手に入れた。


 特に尽力したのはゴーレム魔法の効率化、そして実用化のための改良。


 ゴーレム魔法でのし上がるのに必須なことを、この五年で解決できたのは非常に僥倖だった。


 そして今日、十三歳の誕生日を迎えた。とうとう俺は成人になったのだ。


「弟子よ、誕生日おめでとうじゃ! お主は成人になったらこの領地を出て行くと言っていたが、その気持ちに変化はないな?」

「ありません! 俺はゴーレム魔法で立身出世して大金持ちになって、ハーレムを築きます!」


 俺はもうこの領地から出て行く。この領地に残っても未来はないからな。


 本当ならゴミクズを殺ってから去るべきかと迷った……あいつを放置していると領民が不幸になりかねない。


 だがあいつは襲うのは舎弟に任せて、俺を避けて逃げ回っている。


 しかもあんな奴でも殺人したら罪に問われてしまうので、現状では流石に殺れないのが悔しいところだ。


 まあこないだ偶然出会ってゴーレムで腕の骨を片方折ったけど。


「なればよし! お主が活躍すればゴーレム魔法も見直されて、ワシも鼻が高いのじゃ!」


 五年過ぎたことで更に白髪が進行した師匠が、ヨボヨボの身体を杖で支えている。


 本当ならこの人にもついてきて欲しいが、流石にもう旅は難しい年齢だろう。


「あのー……坊ちゃまが出て行ったら、メイルはどうすれば……」


 メイルは五年で大きく成長していた。胸以外は。


 今や家事洗濯に計算、護身術にゴーレムの知識を兼ね揃えた才女になっている。


 俺達の話を散々無駄に聞かされたからな! 


 ゴーレム魔法をロクに使えもしないのに、ここまでゴーレムに詳しいのは世界広しと言えどもメイルくらいだ! 物好きかな?


「俺についてこい。メイドとして雇ってやる!」

「! ……でも坊ちゃまって給与払えます?」

「大丈夫だ。街に出たらすぐにゴーレムで活躍して金持ちになる予定だから。というか……お前、この村に残ってもゴミクズ共に襲われるだけだぞ」


 ゴミクズは俺達を襲撃するのを諦めていないはずだ。


 師匠が生きている間はメイルも守ってもらえるだろうが……亡くなったらよってたかられて薄い本確定だ。


 流石に寝覚めが悪すぎるし、彼女を巻き込んだ俺にも責任があるので面倒は見る。


 ハーレム希望しといて女の子への責任取らないとかクズだからな! 


 俺が現代日本でハーレム諦めたのも、法などの問題で責任取れないからだよ。


「ですよねぇ……とりあえずついていって、ダメそうならお貴族様のメイドで雇われますです」

「それがよいじゃろうな。ではワシから選別じゃ! 金貨十枚をやろう!」


 師匠は金貨袋を俺に手渡してくる。


「いいんですか?」

「うむ! ワシのゴーレム魔法の価値を証明する夢は、お主に託すことにした!」

「師匠……わかりました。必ずやゴーレムで儲けてハーレムを築いてみせます!」

「なんか微妙に夢が食い違ってる気がするです」


 俺は師匠から金貨袋を受け取った。そして旅の準備をして、師匠の屋敷から出て行く。


「お主はゴーレム魔法の救世主! 必ず敵を倒してくるのじゃー!」


 師匠に見送られながら俺は屋敷を離れて行く。


 ……ところで敵って誰なんだ。まあ師匠の言葉をいちいち気にしても仕方ないか。


 さて本来ならばここで自宅にも戻るべきだろうが……ゴミクズがいたら面倒なので立ち寄ることはできない。


 手紙を送っておいたのでよいだろう。別に今生の別れというわけでもあるまい。


 そしてしばらく街道を歩き続けるが、誰ともすれ違うことがない。


 流石はド田舎のファリダン領だ。誰も入ってこないし出て行かない。


 そろそろ隣領に入りそうなところでメイルが話しかけてきた。


「坊ちゃま。これからどこに向かうんですか?」

「この国の西端、ライラス領のリテーナという都市に向かう予定だ」


 俺はペンで雑に描かれた地図を広げて目的地に〇をつけた。

    


       ┃   エルフ公国    ┃

       ┃━━(レーリア王国)━━┃

アイガーク王国┃     ¦      ┃

       ┃〇    ¦★     ┃

       ┃╌╌╌╌╌¦      ┃

       ┃     ¦      ┃

==============================

         海   


「地図なんて初めて見ました!」

「師匠の手書きなのでかなり雑だけどな……」

「ちなみに小さな黒星は何ですか?」

「ファリダン領の土地」

「プチッと潰されそうなくらい小さいです……」

「弱小領地だからな! とりあえずライラス領に入って、近場の街で馬車で移動を……」


 そこで俺は話を中断した。


 前方に覆面をつけた男の集団がメイスなどの鈍器を構えて、明らかに俺達を待ち構えているからだ。


 盗賊の態をとってこそいるが……まず間違いなくゴミクズの舎弟だろうな。


 奴らは俺達の方に勝ち誇った笑みで近づいてきた。二十人ほどいるな。


「ようやくあの頭おかしいジジイの屋敷から出て来たな」

「よくも今までやってくれたなぁ! てめぇは楽には殺さねぇ! そこの女は俺達の性奴隷だ! 安心しな、お前の見ているところで犯してやるよ!」

「ミクズ様に逆らったお前が悪いんだ。散々後悔してから死ね! 自慢のゴーレムを今から生み出すか? 一体じゃこの人数を相手できないだろ? ん?」


 はぁ……なんというか、本当にあのゴミクズは……。


 まあ仕方ない。俺もゴミ掃除をして少しは親孝行していくか。


 あのゴミクズの舎弟が減れば、少しは親父の助けにもなるだろうし……そもそも俺も腹が立ってるんだよ。


 こいつらも足りない頭なりに考えて、ゴーレムに有効な鈍器を用意したのだろうが……俺の修行の成果、少しは見せてやるか。


 俺は意識を集中してゴーレムコアを一から造り始める。


「おいおいおい! 今からゴーレムのコアを造り出してどうするんでちゅかー? 一日目なんざ小石ほどのゴーレムも造れないでちゅよー??」

「言ってやるなよ。泣きそうなのを必死にこらえてるんだからさぁ!」

「俺達はもうな、そこらの魔法使いよりゴーレム知ってるんだよ! 散々やられて研究したからな!」


 どうやら師匠のゴーレムに散々やられた結果、色々と勉強したらしいな……わざわざご苦労なこと。


 だがおかげで俺が今からすることに、より面白い反応を示してくれそうだ。


「《コア・クリエイション》」

「だから今からゴーレムなんて造れるわけが」

「《レストリクション・ファイブミニッツ》」

「「「……は?」」」


 野球ボールサイズの巨大なコアが俺の掌に出現する。


 放り投げたコアは地面にズブリと沈んでいき、人サイズの土のゴーレムが生えるように出現する。


「ば、バカなっ!? 人サイズのゴーレムを生み出せるコアは、精製に最低でも一ヵ月はかかるはずだ!」

「よく知ってるな。でも俺はその弱点を改善したんだよ」

「ば、バカな……ま、まあいい! たかが土ゴーレム一体程度、数で俺達の方が勝ってる!」

 

 確かにその通りだ。


 土ゴーレムは大した脅威でもないからな。一般兵でも数人がかりで戦えば、普通に勝てる様な相手だ。


 岩や鉄などの硬い物質をゴーレムにすれば話は別だが、近場には土しかなかったからな。


「そうだな、なんか希望持たせて悪かった。《コア・クリエイション レストリクション・ファイブミニッツ》」


 俺は更に追加でコアを作成して、放り投げて土ゴーレムを発生させた。


 もちろんまだまだ終わりはしない。


「《コア・クリエイション レストリクション・ファイブミニッツ》、《コア・クリエイション レストリクション・ファイブミニッツ》……《コア・クリエイション レストリクション・ファイブミニッツ》」


 何度も唱えてはコアを投げ、コアを投げ……俺の周囲には五十体ほどのゴーレムがたむろしていた。


 ゴミクズの舎弟たちは顎が外れるほど口開けて、茫然と我が即席ゴーレム軍を見ている。


「なっなっなっ……そんなバカなっ!? こんなことあり得るわけが!」

「現にあり得てるだろうが。さてと……蹂躙せよ!」

「「「「「「「「「ごおおおおおおおお」」」」」」」」」


 ゴーレムたちが男たちに襲い掛かっていく。


 土で造られているゴーレムは弱い。身体も硬くはないので何度も武器で叩けば崩れる程度だ。


 だがそれでも並みの男よりはよほど力もあるので……一方的な蹂躙になっていた。


「や、やめへぇ!? と、取り込まれ……」


 男のひとりがゴーレムの身体に飲み込まれていく。


 と言ってもゴーレムに消化能力などはないので、窒息させた後は排出するが。


「ぎへぇぇぇぇ!? やめてくれぇ!? 身体が、身体が潰れるぅ!」


 更に男のひとりが倒れているところを、ゴーレムに踏みにじられている。


 他にもアッパーをくらって吹っ飛んでいたり、タックルされてぶっ飛んでいたり……まあ蹂躙劇が起こっていた。


「ど、どうなってるんだ! 何でゴーレムをこんな短期間で大量発生できる!」


 とある男が必死にゴーレムの死角をついて、攻撃を避けまくりながら俺に叫んでくる。


 あれはさっきのゴーレム勉強君だな。なら彼の知識に敬意を表するとしよう。


「教えてやろう。ゴーレム作成に莫大な魔力が必要なのは、永続に動くための魔力精製機関の核を造らなければならないからだ。ならば……それを排除すれば? 有限の時間しか動けない代わりに、少ない魔力で作成できるはず」

「なっ!? 理論上はそうだろうが、そんな発想……それに成し遂げるのは容易では!?」

「そうだろうな、だが俺は成し遂げた。普通のゴーレム使いとは核が違うんだよ」


 俺はなんか格好よく決めセリフっぽく呟く。


 ……相手が男なのがなー。せっかく女の子にモテるために練習したのに。


 予行練習と考えればいいか……うん。マントとか欲しいな、バサッとやったら見栄えそう。


「ば、バカな! こんなことが、こんなことがぁ!?」

 

 最後に立っていた男が断末魔の悲鳴をあげながら、ゴーレムにのしかかられた。


 そしてそれと同時に周囲のゴーレムたちが全て土くれへと戻り、地面にぼたぼたと落ちていく。五分の制限時間が過ぎたか。


「やれやれ、俺は掃除業者じゃないんだがな……まあ降りかかる火の粉は払わせてもらった。ふっ……」

「坊ちゃま、恰好つけようとしてるのでしょうがむしろダサいですよ」

「えっ? ダメ?」

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