第3話 ゴミは粉砕


 ゴーレム一号を完成させた日の晩。


 俺は家の屋敷の食堂――大きなひとつの長机を囲むように椅子が置いてある部屋――で家族と晩餐を行っていた。


 相変わらずの薄い豆スープに、日持ちさせるために黒くなるまで焼いた硬くてマズイパン。


 だが今の幸せな気分の俺には苦痛ではなかった。確かに美味いメシはクオリティオブライフの上で超重要だ。


 だがそれ以外で幸せを補えるならメシが微妙でも何とかなる! 俺は充実しているのだ!


「あ、メイル。そこのパン取って」

「はいお坊ちゃま」


 メイルはメイドではあるが同じテーブルについて、一緒に飯を食べている。


 普通なら小間使いは主人の後に食事が礼儀だ。主人とメイドが同じ席で同じ物を食べるなど言語道断らしい。


 だが所詮は貧乏貴族だしマナーなんて知らぬと家族同然に食べている。そちらの方が食事も早く終わって効率的だからな!


 それに小間使いの食事が主人の後なのは、基本的に彼らの食事は残飯になるからだ。


 こんな黒いパンとスープで残飯も何もないからな! 全員で残飯漁ってるようなもの!


「おや、ベギラ。随分とご機嫌だが何かあったのかい?」


 この世界での俺の父親が優しく話しかけてくる。


「いえいえ何もありませんよ!」

「いや絶対何かあったろ。笑みがこぼれてんぞ」

「それな」

 

 次男と三男の兄からも指摘されてしまった。どうやら俺の機嫌は家族共通の認識らしい。


 実際、隠しているつもりだが顔がにへらと笑ってしまうので是非もない。


 だが俺が魔法を使えることは隠しておかないとな!


 魔法使いであると知られれば、お家のために生涯尽くせとか言われる可能性もある。


 俺はハーレムを築きたい。だがこのツェペリア家にいてはきっと叶えられない。


 成人したら家から出て行く予定なので情報を教える必要はない。まあ仕送り位はするから。


 この世界の成人は十三歳。俺は八歳なので残り五年は臥薪嘗胆に暮らさなければな……流石にもう少し成長しないとハーレムは無理だし。


 そんな俺の人生計画はすぐに砕け散った。


 いきなり勢いよく扉が開かれて、死ぬほど人相の悪いゴミクズと呼ぶにふさわしいカス男が入って来たのだ!


 なんと気持ち悪い平坦な鼻! 醜いオーガも真っ青な醜悪短い金髪ヘア! カメムシも真っ青になりそうな匂いを纏っているだろう醜い姿! 


 おそらく年齢は十六くらいの輩だ!


 誰だこいつ! 何故か分からないが生理的に無理だっ! こんなに他人に嫌悪感を持ったことは二回生まれて初めてだぞっ!?


 そいつは俺の方を見るといきなり舌打ちをして詰め寄って来る。


「おいベギラぁ! なんでてめぇ生きてるんだよ! 死んだって聞いて喜んで戻って来たのに! 死んどけよ!」


 ……は? なんだこのゴミ! 何様のつもりだっ!


「やめろミクズ! ベギラはお前の弟だぞ!?」


 お、弟……!? ま、まさかこいつはまだ見ぬツェペリア家の長男!?


 何故か長男だけベギラの記憶になかったのだが、もしかして存在自体を記憶にとどめておきたくなかったのか!?


 い、いやだ……こんな醜い怪物と血がつながっているなんて!? 全身に鳥肌立ったぞ!?


「弟だから死ねって言ってるんだ! こいつが生きてる分だけ食費がかかるだろうが! ……お前も一人前にメシ食ってるんじゃねぇよ!」

「げふぅ!?」


 いきなり腹に痛みが走り、座っていた椅子から転げ落ちてしまう!


 ……ゴミクズめ! 座っている俺に対して、いきなりみぞおちに拳を叩きこんできやがった!?


 しかも食べている途中だったから、おええええええええぇぇぇ!


「ミクズ! やめろと言っている! ツェペリア家を継がせないぞ!」


 いいぞ親父! そのままそのゴミを廃嫡しろぉ!


「はぁ? もしそうなったら俺の舎弟でこの領地荒らすぞああ!? そうすりゃツェペリア家は身内争いで国から取り潰されて、一族郎党どうなると思ってやがる!」

「……ぐっ」

「これは兄弟げんかでだ! 黙って見ておけ! こいつはサンドバッグにするくらいしか価値がない!」


 親父ぃ!? そこで諦めるな親父ぃ!? 


 くそっ、親父はもうグロッキーだ! こうなりゃ屋敷の外に隠しているゴーレムで、この男を粉砕したいが……そうすると家族にゴーレム魔法がバレる!


 ここが我慢だ……! 将来のハーレムライフのためにも……!


「や、やめてください! 殴るなら坊ちゃまではなくてメイルを!」

「どきやがれ! お前に用はねぇ!」

「きゃあっ!?」


 ゴミクズは思いっきり足を引くと、メイルの胸元を勢いよく蹴り飛ばした。


 吹き飛んで床を転がるメイル……は? 少女だぞ?


「ゴーレム! そのゴミクズを文字通りゴミクズにしてやれっ!」

「ごおおおおおおぉぉぉぉ」

「な、なぁ!? なんだこいつは!?」


 俺の怒りの叫びに応じて、扉をぶち破ってゴーレム見参!


 師匠の元で造った岩ゴーレム! 武器も持たない素人風情が、勝てると思うなぁぁぁぁぁぁ!


 ゴーレムはゴミクズに正面突撃して、その醜い図体を吹き飛ばす!


 その瞬間、俺はこいつに抱いていた不快感の理由が分かった。


 こいつ……地球で俺を突き飛ばした奴にそっくりなんだ! それにさっきのサンドバッグという言葉は、この世界にはないはず!


 まさか……こいつも転生したのか!? 俺が転生してるのだから他の奴もしてたっておかしくないし試してやる!


「川上下組!」

「!? な、なんでその言葉を知ってやがるっ!」


 俺が死ぬ直前に聞いた単語を叫ぶと、ゴミクズは驚愕の表情を浮かべた!


 やっぱりこいつが俺の前世の仇! もはや加減も問答も無用! どれだけやってもやり過ぎるということはないっ!


「てめぇ……俺の正体を知る奴は生かしておけねぇんだよ!」


 ゴミクズが叫んでくる。また俺を殺すようなことも言いやがったな? 


 この野郎、絶対に許さんっ! 俺の前世、そしてメイルの仇を討つ!


「岩石アッパーだ! 顎をくだけぇ!」

「ごぶぅ!?」


 ゴーレムの岩石の腕によるアッパーが、ゴミクズの顎に直撃して奴の身体が宙に浮く!


「腕をへし折れぇ! 次は足だぁ! 二度と何も出来ない身体にしてやれっ! メイルの仇だぁ!」

「みゃ、みゃてやめほぉ! おあじぃ! とめてくれぇ、おやひぃ!?」

「べ、ベギラ! やめるんだ! やりすぎだ!」


 我を取り戻した親父がゴーレムとミクズの間に立ちふさがるだと!? どいて、そいつ殺せない!


「これは兄弟げんかでです! 黙って見ておいてください! 因果応報という言葉をその身に叩きつけてやるんです!」

「おいおいベギラやるなぁ。ベギラの勝ちに明日のパン賭けるわ」

「もし兄貴が死んだら、俺がこの家を継承することになるな……ベギラ、いいぞもっとやれ!」

「お前ら止めんかぁ!」

「坊ちゃまやめてください! 私は死んでませんよぉ!?」

「ごおおおおおおおお」

「おはすけぇ!?」


 しまった! ゴミクズがこの混乱に乗じて、部屋の外に逃げ出してしまった!

 

 くそっ! 最初に顎を砕いだのは失策だ! 足から潰すべきだった!


 ゴーレムは足が遅いから今からでは追い付けない……!


 こうしてミクズと俺の争いの緒戦は終わってしまったのだった。


 まさかこの一方的な蹂躙もとい争いが長く続くことになるとは、誰もこの時は予想していなかった。



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