第2話 ゴーレム魔術



「やれっ、ゴーレム! 我が屋敷に侵入する愚か者に裁きを!」

「ごおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」


 ゴーレムは野太い声のようなものをあげながら、こちらにゆっくりと近づいてくる。


「ワシの研究成果の盗人よ、もはや逃がしはせぬ! ボロ雑巾にしてやるっ! 例えどんなことがあろうとも、我が研究成果を見た以上は許さぬ!」


 勝手に見せて来たのに何という言い草だろう。


 美人局もビックリの恐喝罪ではなかろうか。


「はぁ……おい! 俺はファリダン家の四男だ! あんたが税を滞納してるから徴収に来たんだが?」


 このゴーレム屋敷の住人。数年分くらい税を滞納していた。


 だがこいつに対して、うちの親父たちは触らぬゴーレムに祟りなし。


 どうせもうすぐ寿命で死ぬだろうから、その後に残った遺産を奪えばと放置してたが……流石にダメだろそれ。


 別に俺も税を徴収する気はない。だがせっかくなので悪用させてもらうことにした。


 流石に領主の息子には逆らえないようで、ゴーレムが非常口の看板の人みたいな走るポーズで停止した。


「…………お入りくださいじゃ。入って正面の扉の部屋じゃ」


 声に従って屋敷の中に入館。廊下を歩いて正面の指示された部屋に入った。


 ……そこは工房だった。いくつものゴーレムが停止して寝かされたり、立ってたり逆立ちしてたり。


 更に岩や土の塊などゴーレムの素材に使うであろう物も用意されている。


「よくいらっしゃいましたのう! この世界一のゴーレム工房に!」


 白衣を来た白髪の爺さんが杖をついて俺の方へ歩いてきた。


「この工房は世界最強のゴーレム魔法使いのもの、つまり凄まじい価値があるのじゃ! なので見物料で税まからないかの?」

「まかりません」


 冷たく言い放つと爺さんは「むぅ」とため息をついた。


 この爺さんは世界最高かは知らないが、この国で最高のゴーレム魔法使いだ。


 何故断言できるのかって? この国でゴーレム魔法使いはこの爺しかいないからな!

 

「いやのう。ワシも納税は考えておるじゃがな? ほれ? ゴーレムの研究に全て費やしたいというか……その方がこの世界のためにもなるというか……の?」

「じゃあ俺にゴーレム魔法を教えてください。そうすれば税は死んだ後の遺産からの徴収にします」


 ゴーレム爺さんは俺の方をまじまじと見た後。


「……それも嫌じゃ! ワシには時間も貴重なのじゃ! やる気のないどうせすぐ飽きるガキに、時間を浪費するなんて論外じゃ!」

「なにおう! 俺はやる気あるぞ! 信念のためにな!」

「じゃあ何故にゴーレム魔法を学ぶのじゃ! どうせ軽い気持ちじゃろ!」


 ゴーレム魔法を学びたい気持ちが軽いだと? そんなわけがあるかっ!


 俺はな、転生前から二十年以上積み上げてきた想いをゴーレムに託すんだよ! 


「刮目せよ、俺の信念を! 俺は…………ゴーレム魔法で儲けてハーレムの費用を稼ぐんだよ!」

「帰れクソマセガキ! お主には銅貨一枚分も教えてやるものかぁ! ハーレムなら他の魔法で稼げ!」


 しっしっと杖で俺を追い払おうとするクソジジイ。


 なんて野郎だ! 俺のこの崇高な願いを理解しないなんて! 


「俺はゴーレム魔法なら大儲けできると確信がある! 他の魔法じゃダメなんだよ!」

「なら独学でやるんじゃな! ワシはずっとそうやってきたのじゃ!」


 それだとゴーレム魔法の学習だけで、ジジイになりかねないだろうが! 若いうちに金を稼げないだろ!


 くそっ、もういい! こんな奴に習おうとしたのが馬鹿だった!


「ハーレムの価値を分からないとはこの石頭……いやゴーレム頭め! 覚えてやがれっ!」


 そう言い放ってクソジジイから背を向けて部屋から出ようとすると、急に後ろから呼び止められた。


「……待てっ。ゴーレム頭じゃと……?」


 ……やっべ、言いすぎたかも。ここで激昂されてゴーレム消しかけられたら、ミンチにされてしまうやも!?


 急いで逃げようとするが、クソジジイに腕を掴まれて逃げられない!?


 やめろっ!? 俺に乱暴するつもりだろっ!? ゴーレムみたいに!?


 だがクソジジイは想定外に震えだした。


「そんな……そんな褒め言葉、言ってもらえたの初めてじゃわぃぃぃぃぃ!」

「……へ?」

「お主のゴーレムへの愛は本物じゃ! 疑ってすまなんだ! 教えてやる、いくらでも教えてやる! お主をワシの後継者にするっ!」

 

 ……振り向くと感動にむせび泣いているクソジジイ。


「??? 坊ちゃま、私にはメイルには何が何だか分かりません!」


 事態に全くついていけずにずっと黙っていたメイル。もう最後まで口閉じていてもよかったのに。


 だがまあせっかくなので彼女にも、この歴史的瞬間を見届けてもらおうか。


「……ふっ、俺のハーレムへの第一歩が踏み出されたということだ」


 こうして俺はゴーレム魔法を習うことになった。





~~~~~~~~~~~~~




 俺達は改めて工房でゴーレム魔術を教えてもらうことになる。


「お主は生まれ持って結構な魔力を持っておるな。なれば現時点でもゴーレム魔法を扱うことも可能じゃろう。見本を見せてやろう、『コア・クリエイション』!」

 

 ジジイが呪文を唱えると、天井にかざした手に野球ボールほどの光の玉が出現した。


 ゴーレムとは魔導生命体だ。岩や土などで主に人の形になって、外傷がなければ永遠に動く存在。


 ゴーレムは例外なく心臓部分コアを持っていて、そこから動くための魔力などを発生させるのだ。


 つまり心臓部分コアはゴーレム魔法の肝だ。このコアを岩などに埋め込むだけでゴーレムが形成される。


「この魔法は発動自体は難しくない。やってみるのじゃ」

「『コア・クリエイション』!」


 俺もジジイと同じように唱えると、手の前に卓球ボールほどの球体が発生した。


 それと同時に身体がかなり怠くなり、思わずへたりこみそうになるのを必死に耐える。


「お、おおできた……が、小さいな」

「いやいや初めてにしては上出来じゃ。さてとお嬢ちゃんも唱えてみい」

「はい! 『ゴア・クリエイション』! ……あれ?」


 メイルは元気よく叫ぶが光の玉は出なかった。


 それもそのはず、ゴアを作ってどうするというのだろう……。


「……うーむ。詠唱を間違えておるが、そもそもお嬢ちゃんには魔力がほぼない。魔法を使うのは無理じゃろうなぁ」

「そんなぁ!? 私も魔法使いになって贅沢に暮らしたいのに!?」

「なるほど……長く生きた者として助言を送ろう」

「お願いします! 私、お金に不自由なく暮らしたいんですっ! 何卒助言を……!」

「人生、諦めが肝心じゃ」

「うえーん!」


 悲しいがこれが現実だ。


 この世界において魔法使いとは、選ばれたエリートしかなれない。


 おそらく魔法使いになれるほど魔力を持っている者は、千人に一人……いや万人に一人だろうか? 


 何にしても魔力持ちというだけで食いっぱぐれはない。


 というか俺も魔力持ってない可能性あったな……なんか頭になかったよ。


 まあ持ってたのでよし! やはり俺はこの世界でハーレムを作れるのだ!


「ではこのコアを……」

「使ってゴーレムを作るんですね!」

「いやこんな魔力籠ってないのじゃ無理じゃのう。最低でも一ヵ月はコアに全魔力を注いで、ようやく子供サイズのゴーレムが造れるかといったところじゃ。これから毎日来るのじゃぞ」

「うっす!」

「ちなみにそのコアを消費するまでお主の身体に眠るので、新しいコアは製造できん。次からは《コア・インジェクション》でそのコアを体内から出して、魔力を補充してまた眠らせるのじゃ!」


 そうして俺は毎日、このゴーレム屋敷に通うことになった。


 晴れの日も。


「おおおおおお! 《コア・インジェクション》!」

「その意気じゃ!」


 雨の日も。


「《コア・インジェクション》! か、からだ寒いっ!?」

「魔力全部使ったら、身体は大きく弱るので注意じゃ!」


 風邪の日も。


「はっくしょん! 《コア・インジェハクション》!」

「そんな呪文はないわい!」


 また風邪の日も。


「《はっくしょん・はっくしょん》!」

「違う、《コア・インジェっくっしょん》!」

「二人とも風邪ひいてるので寝てくださいです」


 俺はこうしてコアを毎日頑張って作った。


 そして二ヶ月後……コアは青く輝いてその力を大きく増したのだった。


「師匠! これでどうですか!」

「うむっ! 用意しておいたこの大岩に、そのコアを思いっきり叩きつけるのじゃ!」

「はいっ! これが俺のゴーレム第一号だぁ!」


 俺はゴーレムコアを力強く鷲掴むと、振りかぶって勢いよく……投げたっ!


 渾身の真っすぐは岩に一直線に進まずに、逸れてジジイの顔面にデッドボール! やっちまった!


 地面にコロコロ転がるコア! 悲鳴をあげてゴロゴロのたうちまわるジジイ!


「ぬおおおおお!? ワシにぶつけてどうする!」

「すみません! 次はもう少し狙いをつけて投げます! コントロールには自信がないので、次も当てたらすみません!」

「投げるな! 普通にコアを持ったまま岩にあてればよいじゃろ!?」

「あ、そうか」


 無難に岩にコアを押し当てると、ズブリと水に手を入れるかのように飲み込まれる。


 そしてコアを飲み込んだ岩はぎちぎちと音を立てて変形し、人型へと変貌していく!


 そして……ゴーレムへとその姿を変えた!


「ごおおおおおおぉぉぉぉぉ」


 ゴーレムは誕生の雄たけびをあげた。せ、成功だっ!


「師匠やりもうした! 俺はゴーレム作れました!」

「うむっ! まずは自由に命令してみよっ! そのゴーレムはお主の相棒に等しい存在じゃっ!」

「よしゴーレムよ! 俺を肩に乗せて運んでくれ!」


 ゴーレムは俺を手で救い上げると、右肩にちょこんと座らせてくれた。


 八歳児で身体が小さいのが幸いしたな。もう少し大きかったら肩車になっていただろうか。


「よし、ゴーレム。前進だっ!」

「ごおおおおおぉぉぉぉ」


 ゴーレムは俺を肩に乗せたまま、ゆっくりと前進し始める。


「おおおおおおお! 動いてる! 俺の造ったゴーレムが動いてるぅ!」

「これがゴーレム魔術の始まりじゃ! これからバシバシ鍛えて行くからなっ!」

「えっ。もしかして坊ちゃま、これからもずっとこの屋敷に……? じゃあメイルもついていく羽目に……」


 俺のゴーレムライフはここから始まるんだっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る