第4話 ゴーレムの風評は酷い


 俺は食堂で椅子に座らされて、家族から説教を受けていた。


「……ベギラ。どういうことか説明して欲しい」

「村の大変態からゴーレム魔法を習いました。それだけです」


 単純明快である、それしか説明することないからな。


 親父は顔を手でおおって天井に顔を向け、少ししてから震えだした。


「ま、まさか……ベギラに魔法使いの才が……っ。どうやって生きて行くのだと不安に思っていた末っ子が……」

「まじかよ、ベギラすげぇ。すげぇがゴーレム魔術て」

「偶然得た黄金を肥溜めに投げ捨ててんぞお前」


 次男と三男は俺に対して忠告してくる。


 ゴーレム魔法使い、それはこの国において異常なほどに最低の評価をされている。


 なので俺の家族の反応は普通なのだ。街中でゴーレム連れ歩いたら奇異の目で見られる。


「えっ? ゴーレム魔法ってそんなにダメなんです?」


 メイルが小さく首をかしげる。彼女は魔法に関しては世間知らずなので仕方ないか。


 こんなド田舎で世間に詳しくなるなど不可能に近いからな。


 ベギラは本が好きで色々と知識を貯め込んでいたが、それも貴族のボンボンだからこそできたことだ。


 平民はそもそも本なんて買えないどころか、文字を読めない者だって多数いるのだから。


 中世ヨーロッパくらいの文明レベルの世界なので、識字率が低いのは致し方ない。


「そうだな。確かにゴーレム魔法は現状だと、存在価値のほぼないゴミ魔法と言われている」


 重機やロボットみたいにすごく使い道のありそうな魔法、なのに動くスクラップレベルで酷い風評なのには理由があった。


 この世界は地球の中世ヨーロッパ時代に沿うように、常に様々なところで戦争が起きている。


 敵国が攻めてくるのは日常茶飯事だし、こちら側から侵略しに行くのだって普通にある。


 何なら民を食わせるのを目的に隣国に侵攻して、略奪経済みたいなのをやってる国だってある。


 具体的にはアメスデスの西に位置するアイガーク王国とか。


 つまりこの世界で最も求められるのは武力。どれだけ役に立つ魔法だろうが、国が攻め滅ぼされて全国民奴隷にされたら意味がないからな。


 そしてゴーレム魔法だが……武力においては最底辺の扱いだ。


 ゴーレムはそこらの兵士より強い。なので武力も優秀に思えるかもしれない。


 確かに一般兵よりは強力だ。だが魔法使いを相手にすれば簡単に壊されて、また造るのに時間がかかるので兵士として向いていないのだ。


「でもゴミクズ様をぶちのめしましたよ?」

「そりゃゴミ相手ならそうだ、でもゴーレムが競合するのは魔法使いなんだよ。例えば中堅レベルの魔力を持つ普通の魔法使いと、同じ魔力のゴーレム魔法使いを比較するとしよう」

「はい」

「ゴーレム魔法で数か月に一体ずつ、頑張って岩ゴーレムを造るとしてだ。並みの魔法使いならそのゴーレムを一日で五体は破壊できる」

「つまり一年以上頑張って造ったゴーレム、一瞬でただの瓦礫になるんですね!」


 メイルの言葉にうなずいておく。


 ゴーレムは永久に動くが壊されたらそれまでだ。


 ここからは俺の予想だがもしゴーレムを軍でうまく運用するならば、機動力がないので文字通りの壁として最前線に配置することが多くなる。


 後方に配置したら機動力不足で、戦線にたどり着くころには戦の趨勢が決まってしまう恐れがあるからな。


 だがそうすると敵の魔法使いの矢面に立つことになる。後は壊されるだけだ。


 なのでゴーレム兵は生存率がすごく低く、永久に動くというメリットは軍において存在しないに等しい。


「ゴーレム魔法使いからすれば、一年かけて準備したんだからその分の給与が欲しい。だが兵を扱う側からすれば並みの魔法使いを一日雇う方が安くつく。なのでゴーレム魔法は全く儲からないから、魔力を持つ者は敬遠する」


 それに戦争は数日続くこともあるからな。


 二日目以降でも並みの魔法使いは魔法を撃てるが、ゴーレムの尽きたゴーレム魔法使いは何の役にも立たない。


「でもゴーレムは土木作業にも使えますよね? 永久に動くなら他の使い道も……」

「ゴーレムを造るのには並みの魔法使いが数か月全部つぎ込むんだ。当然ながらコストが物凄く高騰する。それに労力を人からゴーレムに変える時には初期費用がすごくかかるわけで、それなら人を雇い続けた方がとなる」

「ならゴーレム魔法使いを安く雇えば……」

「そうすれば役に立つだろうな。だが魔法使いになれる時点ですごく貴重な才能なんだ。儲からないゴーレム魔法よりも、他の魔法覚えると思わないか?」

「あう……」


 なのでゴーレム魔法は不人気というわけだ。


 現代地球でIT化が進まない原因に初期費用がかかるというのがあるが、少し似ている気がする。


 まあそれ以外にも色々理由があるがな。そもそも中世文明なので奴隷とかいて人の値段がかなり安いとか。


 ゴーレムは力自慢数人がかりのパワーを出せるが、逆に言えば力自慢数人揃えれば代替も可能だしな。


 人に任せられない危険な作業でもゴーレムなら任せられる? この世界なら危険でも人にやらせるよ。


 人件費も大してかからないし人権団体もいないからな。何かあってもそこまで問題にならない。


「でもでも……」

「まあそういうことだ。納得できないところも多少あるかもしれないが、国全体としてゴーレムは存在価値なしと共通認識持たれてしまってるんだ」


 なおも食い下がるメイルにくぎを刺す。


 俺としてもゴーレムの評価には少し違和感は持っている。魔法使いや普通の人間にはできない使い道もすぐにいくつか思いつく。


 だがゴーレム魔法は使い物にならない。これがレーリア王国全体で認められているので仕方がないのだ。


 歴史でも優れた物が評価されるとは限らない。


 例えば鉄砲も日本に伝来してからしばらくは、対して役に立たないとか弓の方が優れていると考える者も多かった。


 まあ鉄砲の性能が低かったとか手に入りづらいなどのもあるが……ゴーレム魔法使いも現状ではそんな感じだしな。


 誰もならないのでゴーレム自体が入手しづらく、他で大抵は代用がきくのでまあいいかと思われている。


 ようはゴーレムは世間から舐められているのだ。これはつまり俺がゴーレム魔法で活躍する第一人者となりやすいということ。


「まあともかくだ。俺は不当な評価を受けているゴーレム魔法を、有用にする方法を思いついている。これを利用して立身出世するんだ」



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