第30話 MMOらしさ

「顔色が悪いですよ、ミツクモ。本当に大丈夫なのですか?」


 不安そうに俺の顔を覗き込むアリスに、なんとか愛想笑いを返した。小一時間前、散々な心識の洗礼を受けた俺はしばらく部屋の中で息を整えてからアリス、たこらいすの二人と合流し、レベル上げのためにス・ラーフの郊外へ出たのだが、数分間でリセットが効くほど俺の心の傷は浅くなかった。


(……今の俺にとって、アレは猛毒だ)


 あの日の敗北。俺を縛る全ての呪いは、ゴルディアスの結び目のようにあの日に収束している。必死に記憶の底にしまい込んでいたはずだったのに、このゲームはそれを俺の鼻先に突きつけてきた。

 視界の隅に見える【ログアウトしますか?】の表記を無視しながら、二人を安心させるために口を開く。


「ちょっと色々あってな……思い出したくないものを思い出しただけだ。身体を動かせば、すぐに忘れる」

「そう、ですか」

「……お兄さん、もしかして心識開けた?」

「……あぁ」


 やけに鋭いたこらいすの予想に首を縦に振る。すると彼は納得がいったように苦笑した。


「あ〜……人によりけりだけど、心識ってマジで嫌なものが出てきたりするよな〜」

「……たこらいすもそうなのか?」

「んー、まぁーね。適当ぶっこいてる俺だけど、それなりに生きてるからさ。……普通に生きてたら見ないフリ出来るんだけど、このゲームってそれを許してくれないんだよな〜」


『心が読めるゲーム』って前フリするだけあるわ〜、とたこらいすは笑った。口調こそいつも通り軽いが、彼の赤茶色の瞳は苦々しく、遠い砂丘のさらに向こうを見つめているようだった。

 相変わらず俺とたこらいすの会話について行けないアリスは無表情ながらオロオロとしており、それを見て少しだけ気持ちが引き締まった。これ以上、引きずるのは止めておこう。……色々と考えるのは一段落ついて、誰もいない時にするべきだ。


 深く息を吸って気持ちを切り替える。俺の様子を見たたこらいすが、ちらりと周囲に目を向けた。ス・ラーフの街中から離れた砂漠は、ハッキリ言って何も無い。

 波打つように砂丘があり、転々と大岩、サボテンが配置されているばかりだ。時折他のプレイヤーを見かけるが、だるような暑さに文句を言いつつモンスターと戦っている。


「『告別砂丘』は正直うまみゼロだから、もうちょい進んだ場所にある遺跡都市まで行くよ〜」

「ダンジョンが集合したみたいな場所って言ってたが、具体的にはどういう場所なんだ?」

「まあ、端的に言っちゃうとピラミッドなんだよね。地上、地下に分かれたダンジョンでさ〜、それぞれが地下で繋がってたり、話によると地下に都市があったり?色々面白い場所なんだわ」

「向かっている方角からして、三百年前に『ガラドリエル』の首都があった場所でしょうか」

「そうそう。遺跡都市ガラドリエルってヤツ。確か昔の砂漠の帝国的なのの跡地らしいね〜。……アリスちゃん、この辺りの土地勘ある感じなんだ」


 たこらいすの言葉に、アリスはコクリと頷く。……ヴィラ・レオニスとして生まれたアリスは今に至るまで、おそらくは途方も無い年月をこの『告別砂丘』で過ごしたのだろう。ガラドリエルという国に関しても、もしかしたら滅びる前に直接訪れているのかもしれない。


 と、そんなことを思っていると、俺の本能が俺達への敵意を捉えた。方角は上――見上げるとそこには、灰色の体毛を持った巨大なハゲワシが三頭、円を描くように飛行している。


「……ん?あ、ロックフェザーだ。この感じ、絡まれるかな」

「あの鳥には野宿をしている時に何度も襲われたことがあります」

「レベルは11、14、13か」


 コンクリートめいた鈍色の羽根を重く動かすロックフェザーは、真っ赤な瞳を俺達に向けて飛行の速度を上げる。その内、一頭の頭上に土色のゲージ――『魔力視』による攻撃予測が発生した。同時に俺の心識が攻撃の予測線を俺達の足元に描く。


「足元に土魔法、2秒後に来る」

「分かりました」

「お?魔力視?助かる〜!」


 それぞれがステップで散開した2秒後、分厚い砂の層を貫いて鋭利な大岩が飛び出した。同時にシステムが通知を流す。


【エネミーの奇襲を看破しました】

【戦闘を開始します】


「俺、遠距離辛いからタンクっぽく動くよ〜」

「分かった。詰めてきたヤツから弾く形で頼む」

「『不滅の滅剣Eternal=Annihilation』……行きます」

「うぇ!?何それ!?『鑑定不可』って書いてあるんだけど!?」


 即座にたこらいすが魔導士である俺の前に立ち、アリスが虚空から『不滅の滅剣』を呼び出す。どうやらヴィラ・レオニスとしての権能は問題無く行使できるらしい。と、なるとこれは……。


「俺の出る幕は無いな」

「うはー、やばーい……別ゲーじゃん」


 数にして十二本、銀の騎士大剣が陽光を反射しながら飛翔し、三頭のロックフェザーの内、二頭が何の反撃も出来ずに即死する。最もレベルの高かった個体だけがギリギリで旋回し、串刺しを避けたのだが……即座に滅剣がそれぞれの角度から斬撃を叩き込み、12の刃による凄まじい連撃を受けて弾け飛んだ。


【エネミーの全滅を確認】

【戦闘が終了しました】

【アイテムを獲得しました】

 『岩羽鷲の嘴』

 『岩切り羽』×2


 考えてみれば、当然の話だ。俺とアリスが倒したヴィラ・レオニスのレベルは34。アリスはスペックで言えばそれと互角の存在なのだから、レベル10前後のモンスターではまるで歯が立たないだろう。

 今のアリスなら、ボスとして戦ったデザートイーターでさえ、危なげなくソロ討伐が出来るに違いない。


「別の個体でしょうが、かつて食事中に襲われた借りを返すことが出来ました」

「流石だな。本当に何もせず終わった」

「お嬢ちゃん半端ないね……戦士系の職業なのかな? にしてはHP多過ぎるし手数ヤバいんだけど」


 役目を終えた滅剣が虚空に消え、アリスは少し照れたような顔つきで俺とたこらいすの言葉を受け取る。……よくある、ボスを仲間にした時に弱体化する、という現象はこのゲームには無いらしい。

 興奮しっぱなしのたこらいすに質問責めされるアリスを横目で見つつ、俺達は遺跡都市に足を進めた。



 ――――――――――



【ロケーションを発見】

『遺跡都市ガラドリエル』


「本当にピラミッドだな」

「ねー。俺は素材の関係で何度も来てるけど、来る度にスクショ撮ってるよ」

「来訪者の数が多いですね……見えるだけで、何十人と居ます」


 辿り着いた遺跡都市には、大小合わせて十二のピラミッドがあった。砂丘に囲まれた盆地のような場所にずらりとそれが点在しているので、気分は世界遺産の観光だ。

 たこらいす曰く、ピラミッド一つ一つがダンジョンとして機能しているようで、特に地下はそれぞれのピラミッドと繋がっている影響で大迷宮と化しているらしい。


「罠盛り盛り、敵盛り盛り、謎解きとお宝アリのバカ広いダンジョンとか、嫌いなヤツ居ないからね〜。ス・ラーフ来るやつの殆どがここ目当てなんじゃないかな?」


 たこらいすの言葉通り、点在するピラミッドの前には多くのプレイヤーが行き交っており、突入前の作戦会議をするパーティ、手に入ったアイテムをお互いに自慢し合うパーティ、疲れ切った顔で砂丘を登っていくパーティなど、MMOらしい光景が広がっている。


「マリヌス、今回は何層目まで潜る?」

「前回トゲ罠踏んで全滅した辺りまでは流石に行きたいな……」

「行くなら別経路で行こーよ。あたし、途中のサンドデビルみっちりのトラップハウスで寿命縮んだし……」

「アレはヤバかったネ〜、試しに別ダンジョンから地下経由するのアリかと思うヨ」


「これ見てくれ。ヤバくね?」

「……は?ナニコレ?え、壊れやん普通に」

「だよなw補正値ヤバすぎるし、OPエグいしマジで世界破壊できるぞ」

「何処で手に入ったん?」

「まず、地下の大部屋にスフィンクスみたいなのが居てさ」

「す、スフィンクス?本当ですか?聞いたこと無いんですよ?」

「いやいや、マジなんだって!見た目は確かにちょっと違ったけどマジで謎掛けしてきたの!でさ、それに答えたら貰ったw」

「は〜?ちょ、案内してや」

「道覚えてねー……三十分くらい潜んないと見覚えあるとこ行けないかも」

「なんでそんな重要そうな場所メモってないんですか……」


「次から状態異常対策マジでしような……」

「はい……すみません」

「私がヘイト吸いきれなかったのが悪いわ」

「まあそれはあるかもだけど、謎解きであんなのが出てくるとは思わないだろ」

「状態異常のオンパレードでしたね……ギミックの答えを総当たりで解こうとするのも今後は止めましょう」

「……あ。てかさ、直前の大岩のところにあったあの壁画。ヘンテコだなって笑ってたけど、あれが答えじゃね?」

「ん……? ん、あ……あぁ!?」

「水と火と光……うわ、絶対アレだ〜っ! 気付くのが遅すぎるっ!」


 中々に面白そうな話が聞こえてくるな。俺はこのゲームでまだダンジョンを経験していないので、今更だが興味が湧いてきた。と、そこでアリスがそそくさと俺の背後に隠れる。見ればピラミッドの前に集まっていたプレイヤー達が俺とアリスに目線を集めている。


「え、誰あの子……めっっっちゃ可愛い」

「ん……はっ?え、キャラクリエグいやん……いや、ちゃうわ。あの子NPCやって」

「てか隣のプレイヤーって……」

「あの装備何?服は分かるけど王冠なんて――」


 ザワザワと人伝いに噂話が連鎖する。その様子にたこらいすが苦笑して、俺達を一番近くのピラミッドまで誘導した。


「いやー、有名人は辛いね〜。お嬢ちゃんはわむちゃんプレゼンツで宇宙規模のカワイイを手に入れちゃったし、さっさと中に入るのが得策!」

「助かります……」

「助かる。俺もああいうのは得意じゃなくてな」


 たこらいす先導で辿り着いたピラミッドは左右に……スフィンクスのような、狛犬のような彫像があり、その奥に薄暗く通路が続いている。見た目にはお化け屋敷の入口めいているな。


「ささっと行こーか。ここから先は普通に敵が出てくるから注意ねー」


 まあ、しばらくはお嬢ちゃんがワンパンしてくれると思うけど、と補足しつつたこらいすはピラミッドの中に進んだ。後を追って薄暗い通路に入ると、周囲の空気が変わるのが分かった。

 先程まで背中を灼いていた太陽の光が途絶え、湿り気のある冷ややかな空気が肌に触れる。


【ダンジョンに入場しました】

【一部のアイテムの使用が制限されます】

【戦闘時を除き、入口へのファストトラベルが可能です】


 そんな通知を目尻に捉えつつ、ズカズカと前を進むたこらいすに続いてダンジョンの中を観察した。壁の材質は砂岩のレンガで、点々と壁掛けの松明が設置されている。


「……いや、松明じゃないのか」

「ん?あ、そうそう。松明っぽいけど、木の棒に光る石埋め込んだだけのオブジェクトなんだよね」

「『炉石燭台』と呼ばれているものですね。この砂漠では地下に都市や通路を作ることは珍しくないですが、地下で火を使う訳にもいかないので炉石を使っているのです」

「ほほー。そうなんだねー」


 アリスの解説を聞きつつ、通路を進んでいく。分かれ道や簡易な罠をたこらいす先導の下抜けると、地下に続く階段に辿り着いた。


「特に敵が出ないままストレートで行けたねー。んで、これが階層の境の階段。ここが一層で、階段を降りる毎に敵とか罠がヤバくなる。体感、一層降りる毎に2レベルずつくらい難しくなってくかな」

「最下層に辿り着いたパーティは居るのか?」

「いや、まだ居ないね。確か十六層くらいまでしかか行けてないとかって聞いてる。その時点で雑魚敵のレベルが40超えてきて断念したんだってさ」

「ガラドリエルの人々は一体何の為に、そこまで都市を拡張していたのでしょうか……?」


 小首を傾げるアリスにたこらいすも首を傾げた。当時を知るアリスが知り得ないのであれば、プレイヤーである俺達にも分からない。

 なんでだろうね、と呟くたこらいすが階段を降りていき、俺達もそれに続いた。


 ダンジョンの二層目は、一層目とまた違った雰囲気だった。まず、通路が広い。一層目は俺たちが並んで歩くのが精々だったが、ここはアリスが剣を振るだけの余裕がある。

 そして、壁のレンガが所々風化しており、壁掛けの炉石燭台も一部消えてしまっているため、薄暗い場所があった。


 ダンジョンに入った当初は俺の機動力が殺される屋内戦を気にしていたが、この分では天井や壁を踏んで充分に戦えそうだ。


「ささ、こっからが本番だよー。通路と部屋、大部屋が組み合わさったハチャメチャダンジョンだから、気張って行こ――」


 たこらいすが言葉ながらに一步を踏み出し、カチリ、と音がした。続いてガコン!と重々しい音が俺達の背後で響き、強い振動が足の裏から伝わる。


「うぇっ?」

「これは……」

「嫌な予感がします……」


 ドン、ドン、ドン……と俺たちが降りてきた階段の向こうから、重いものが音が聞こえる。全てを理解した俺は小さく息を吐き、二人に言った。


「走れ!」

「分かりました」

「ごめーん!」


 即座に駆け出したアリスに続いて俺も踏み込む。前後で分断されないために、『死界踏破』は使わない。駆け出した俺達の背後の階段からヒビ割れた丸い大岩が転がってきた。射出時の勢いと階段での加速で、割ととんでもない速度で転がってきている。


 殿しんがりを務めるたこらいすは慌てて手に持つ大槌を盾に変え、スキルを使って俺達に追いついた。


「『シールドバッシュ』、『カバームーブ』!」

「前に分かれ道があります!左と直進です!」

「左行こう!直進だと流石に轢き殺されちゃう!」


 俺を先頭に、左の道へ飛び込む。するとそこは、数本の柱が並ぶ部屋だった。天井に吊り下げ式の灯りがあり、その光の下には……斧を両手に持ったミイラが三体、ぼうっと立ち尽くしている。

 彼らは駆け足で入ってきた俺達を見るや否や、言葉にならない咆哮を挙げて突撃してきた。


「敵か」

「げぇっ!?」

「この広さではあまり多くの剣をべませんね……」


【エネミーに遭遇しました】

【戦闘を開始します】


 突っ込んでくるミイラの速さはそれなり。レベルは揃って16だ。先頭の俺へ目掛けて殺到する彼らへ、スティレットを片手に躊突っ込みながら、新しく覚えた魔法を詠唱する。


「『バースト・エア』、『ストームファング』!」


 新しく習得した『デュアルスペル』により完全に同時の影響が可能となっている。一瞬の詠唱の後、俺を中心に新緑の暴風が吹き荒れ、ミイラ達を纏めて仰け反らせる。そしてその内の一体に、上下から噛み砕くように高圧の風が襲い掛かり、HPが大きく目減りした。


『バースト・エア』による仰け反りはすぐに解消され、三体が錆びた両手の斧で飛びかかるが……その内の一体にアリスの『不滅の滅剣』が三本突き立てられ、もう一体の頭部にたこらいすが投擲したらしい大槍が突き刺さる。

 残る一体の攻撃に『慈悲の十字架』を振ってパリィを決めると、俺は即座に『勇気の証明』を虚空から喚び出す。背後のたこらいすが驚く声を聞きながら、静かに呟いた。


「――《四肢粉塵パルヴァライズ》」


 瞬間、視界が切り替わる。俺の目の前あるのはパリィで仰け反ったミイラの背中と、目を見開くアリス、唖然とするたこらいすの三者だった。

 それを見ながら、喚び出した『勇気の証明』で目の前のミイラを頭から股下まで両断した。


 赤、紫、青そして金のエフェクトが同時に弾けて、鉄床に鎚を打ち付けたような甲高い音と、ガラスが割れるような音が同時に響く。ミイラのHPは一瞬で十割が消し飛び、半分になった体が派手に爆散した。

『四肢粉塵』の発動によって得ていた0.5秒間の『不可視』が解け、慌てて残るミイラが俺に振り返るが……もう遅い。


「『ストレート・エア』、『ノックアップ・エア』――《四肢粉塵パルヴァライズ》!」


 突き飛ばす風で左の一体を右の一体にぶつけ、二体を纏めて空に打ち上げる。そして、もう一度俺の視界が切り替わった。

 空中で無様に四肢をバタつかせるミイラ達の更に上。天井スレスレにテレポートした俺は、即座に『勇気の証明』を動かそうとして……クソ。


「……ッあぁっ!」


 硬直。手と足が針金で縛られたように、或いは双方向から引っ張られているように固まって動かない。が、『勇気の証明』は俺が握って動かすタイプの武器じゃない。思考の通り、白金の大剣がミイラ二体を輪切りにする。

『四肢粉塵』に付与された部位破壊属性により、ミイラは四つのポリゴンの塊となって地面に降り注いだ。


【エネミーの全滅を確認】

【戦闘が終了しました】

【アイテムを獲得しました】

 『執念の布』

 『朽ちかけの銀貨』✕3


 また『硬直』が起きたが……『勇気の証明』があって助かった。俺の『硬直』は身体が微塵も動かないだけで、思考がグチャグチャになっているわけではない。


 ――お前は、自分の身体がどうして動かなくなるのか。その理由を知っている。


「……」

「えぇ……? 待ってぇ……何が起きたの?」

「……成長したつもりでしたが、ミツクモに追いつくには私の努力が足りていませんね」



 一瞬脳裏に声が反響したが、すぐにたこらいす達の声で掻き消えた。……正直、たこらいすの気持ちは分からないでもない。予想はしていたが、この『四肢粉塵』はヤバすぎる。ボスの大技を据え置きで実装すれば、こうなるのは目に見えていたが、予想を遥かに超えてきた。


 俺は一度深呼吸をして気持ちをリセットしながら『勇気の証明』を虚空に戻し、二人の元に戻る。アリスは何やら考え込んでおり、たこらいすは途方に暮れたように赤い髪を掻いていた。


「やっばいよマジで……俺本気でやらないと、寄生どころかブースティング野郎呼ばわりされるって」

「……まあ多分、イベントでは『幽星装』だったりユニークスキルのぶつけ合いになるだろうから、今みたいに上手くはいかないはずだ」

「まぁ、そりゃそうなんだろうけどさぁ〜」


 遠くで、転がっていた大岩が何かにぶつかった音が響いた。同時にチリンチリーン、何処か聞き覚えのある電子的な鈴の音がする。


「ん?」

「お、ワールドアナウンスだ」


【通知:ワールドアナウンス】

【種別:討伐報告/迷宮攻略通知】

変異災害ユニークボス "月明かり食むクレセンティア"クォンタム・レヴァナントが討伐されました】

【世界で初めて『呑星の大穴』が攻略されました】

【MVPを発表いたします】

 『烈なる鼓動』はーとびーと

 『終幕の先を知る者カーテンコール・ブレイカー』こんつぇるてぃー


「ん~……みんな活動的で良いね。イベントに向けて進行中って感じかな」


 たこらいすが言う通り、このゲーム始まって以来のイベント、それもPvPということで多くのプレイヤーが自分の手札や地力を増やしているのだろう。このゲームを始めて二日目の俺がこの様子なのだから、ラクトを始め第一線のトップ層がどうなっているのかは全く想像がつかない。


「……何にせよ、俺たちは俺たちに出来ることをするだけだ」

「そうねー。最低限レベル盛って、スキルレベル上げて、俺は戦闘用のスキル集めないとなー」


 先程の戦闘と道中の戦闘を合せても、レベルは全く上がっていない。ステータスを開いて確認したが、ほとんど経験値が入っていないようだ。

 ……俺はこれまで、格上相手に勝ちを拾ってから気にしていなかったが、このゲームのレベル上げはかなり渋い可能性がある。


 これは相当な数周回をこなすことになりそうだ、と思いつつ、服の内側に短剣をしまい込んだ。

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