第27話 拝啓、世界最強の自分へ
――――――――――――
来訪者の皆様へ
いつも『idea is you』をお楽しみいただき、誠にありがとうございます。
この度、サービス開始から初の大型イベント「find well heart」を開催いたします!
本イベントは、最大四人でパーティを組み、他の来訪者たちとバトルロワイヤル形式の戦いに挑むPvPイベントです。
【イベント概要】
予選期間:9月24日 (土) 19:00〜
本戦期間:9月24日 (土) 21:00〜
参加方法:ゲーム内特設ページから事前エントリーし、予選開始時点でゲームにログイン
参加条件:最低2名、最大4名によるパーティを編成していること
【イベント内容】
本イベントは予選と本戦の二回戦に分かれています。予選を突破できるのは、参加パーティの上位5%のみ!予選を勝ち抜いたパーティは本戦に進出し、更に五つに分かれたブロックごとに優勝を目指して戦います。
各ブロックでの優勝を勝ち取るのはどのパーティか!?『より
【報酬】
・経験値ブーストアイテム(参加賞)
・予選通過・最終順位に基づいた大会限定の称号
・最終順位に応じて、ユニーク・ネームドを含むスキル・装備を報酬プールから選択式にて獲得
・各ブロックの優勝者、及び予選通過1位のプレイヤーにはワールドクエスト【群雄割拠は王の
特別なアイテムやスキルを手に入れるチャンスをお見逃しなく!
【イベント用特設掲示板のご案内】
イベントに関する情報交換や、パーティメンバーの募集など、皆様がイベントをより楽しめるよう特設掲示板を用意しました。下記のURLからアクセスして、仲間とともに作戦を練りましょう!
[特設掲示板URL]
【生中継に関する注意事項】
イベント開催時は生中継にてゲーム内外にイベント内容が放送されます。皆様の素晴らしい戦いが多くの視聴者に届けられることとなりますので、予めご了承ください。
来訪者の皆様の『心』のぶつかり合いを期待しております!
『idea is you』運営チーム一同
――――――――――
「……」
『idea is you』の開始から初のイベント。その他大勢からすれば、喜びこそすれそれ以外の反応をすることは無いだろう。武器やアイテムの生産をメインとして活躍するプレイヤーのみが、今回は出番が無さそうだと笑う程度で、大多数のプレイヤーは腕によりをかけて、自分が積み重ねた『最強』を試す機会を心待ちにしているはずだ。
列車内のプレイヤー達に目を向ける。俺への目線を下ろした彼ら彼女らは、お互いの武器やステータスを見せ合い、次は何処へ行こうか、どう戦おうかを話し合っている。
「もうちょいレベル上げたいけどなぁ……ス・ラーフって手頃なダンジョンあったっけ」
「いや、ダンジョンならやっぱりオルソン行かないと微妙なんじゃね?」
「ス・ラーフって鉄鉱石とか戦士職のスキルとイベントが多いですからね。というか、こっち来たのもシズーラさんの為だったような……?」
「え、あ、そうだっけ?」
「『発勁』関係のスキル欲しいっていってたじゃん」
「やべ!師範からのクエスト忘れてたぁ〜……いや、まだ分からん!お前ら『無尽の砂袋』ってドロップしてるか?」
「1個あるよ」
「1個……足りない……」
「もう一周行く?俺は全然アリ」
「PvPっていっても、まずはバトロワな訳だから、生存とか隠密で上手いこといけそうな気がする」
「私達それで行ってみる?隠密パでどこまで行けるか、みたいな?」
「めっちゃアリ。砂嵐と霧関係のスキルだけ取ってカジェルクセスにFTしよ」
「あー、アタシ手前の街までしか墓地触ってない……」
「じゃ、そっから行こう?街のバウンティで面白いユニークとか居たら触ってもいいし」
「もっと貫通系盛ったら火力出んのかな?持ってる武器のパッシブも氷貫通強化だし、アクセサリー枠でこう……」
「や〜……どっちかというとクルスくんは継続して出せる火力伸ばさないとじゃな〜い?あと、氷貫通OP一点狙いの周回とか地獄の予感するんだけど」
「さっきもダストデーモンのバクスタ食らって一発即死だったしな。火力出し切れる身体が大事な気がするぞ」
「え〜?ダメージディールは俺のPSでどうにかするよ。火力is正義!」
「……」
ガタン!と列車が大きく揺れる。中継駅の一つに停泊したのだろう。またもや多くのプレイヤーが列車に乗り込んで、ガラガラだった昨夜が嘘のように人で満ちる。そわそわと落ち着かなそうなアリスを一瞥して、俺はイベントの画面に目を戻した。
……本音を言うなら、参加は……したくない。ラクトに誘われて始めたこのゲームを、俺は思っていたよりもずっと楽しんでいる。考えるだけで吐き気と動悸がしていたゲームというものを進んでやろうと思う程に、このゲームは快適だった。
けれどそれは、俺が意図的にプレイヤーとの関わりを絶っているからに他ならない。NPCだからと積極的に踏み出したアリスと異なり、他のプレイヤーと関わって何かをするのは……俺にはまだ難しい。
(このイベントへの参加条件は、二人以上のパーティを組むこと。……俺には難しい相談だ)
一瞬、俺の頭にコンコルドの顔が浮かんだ。けれど、今更どんな顔で何を言えばいいのか。
――と、分かりやすい理由を並べたが、一番大きなものは別にある。有り体に、嘘偽りを抜いて言おう。
俺は、怖いのだ。
もう一度誰かと戦うことが怖い。もう一度誰かに負けることが、たまらなく怖い。もしも次に負けてしまえば、ヒビ割れたこの心にダメ押しの敗北が刺されば……俺はきっと、二度と立ち直れない気がする。
もしも次、負けたら……その時は『good knight』ではなくて、『俺』が死んでしまう。そんな予感がするのだ。
「……ふ、ぅ」
「……ミツクモ?」
声に呼ばれて、アリスを見た。彼女は心配そうに俺を見上げて……そっと、傷跡の痛々しい手で俺の右手を握った。そして、俺の震えを感じとったのだろう。小さな驚きがその顔に浮かんだ。
「何か、不安なことがあるのですか?」
「……そうだな」
「私には言いにくいことですか?」
「……あぁ」
「そうでしたか……」
そう言うと、アリスは俺の手を握ったまま、窓の外を眺めた。……これは、困ったな。前とは本当に真逆じゃないか。苦笑する俺に、ぼそりとアリスは言った。
「離したくなったら、離してください。私と違って、ミツクモはきっと、逃げ出したりはしないでしょうから」
「……」
確信めいた声音だった。それには信頼が滲んでいた。貴方なら大丈夫だから、と握る手の柔らかさが伝えている。……俺は、この信頼に応えられるのだろうか。あれだけ怯えて、怖がって、逃げ出そうとしていた全てに向き合って、勇気を振り絞った彼女の隣に立てるだろうか。
(……アリスも、ヴィラ・レオニスに向かい合う時は、こんな気持ちだったんだろうか)
深く、深呼吸をする。視野が狭まらないように、四肢から力が抜けてしまわないように。システムが俺の意思を汲み取って、ウィンドウを操作する。
開かれたのは、イベントへの事前エントリーを行うフォーム。
そこにはパーティ人数、パーティメンバー、パーティ名の入力欄と、イベントの生中継における個人情報の取り扱いの同意確認があった。
出来るのか?と心の声がする。俺はもう、以前の俺ではない。世界最強のgood knightは、既に死んでいる。今ここに居るのは、トラウマに縛り付けられた社会不適合の引きこもりだ。
眠るたびに、あの日の敗北が蘇る。スマホのバイブレーションを聞くだけで、手足が竦んで奇声が溢れる。もう一度……もう一度、俺は踏み出せるのか?
固くアリスの手を握る。アリスは何も言わなかった。俺がそうしたように、ただ隣で微笑んでいる。……それなら、やるしかないだろう。
「……ありがとう。もう、大丈夫だ」
「そうですか。やはりミツクモは強いですね」
「いや……俺一人だったら、絶対に駄目だったよ」
きっと、アリスの勇気に触れていなければ、ヴィラ・レオニスが深々と語った言葉を聞いていなければ、俺は素知らぬ顔でイベントの通知を流していただろう。俺には関係無いと、まだ早いと、いつも繰り返していた言い訳を今回も消費して、全てが終わった後に自己嫌悪に浸っていたはずだ。
俺の言葉にアリスは「どうでしょうか」と呟いて……手を繋いだままだった。
「……? アリス?」
「言いたいことは分かっています。ですが今は、私が手を繋いでいたい気分なのです」
しらっとした顔でそう語るアリスは、どうやら俺の手を離すつもりはないらしい。対面の座席のプレイヤーにじっと見られていて、中々に恥ずかしいんだが……これも、彼女なりの気遣いかもしれない。
ワールドクエストの報酬にあった『勇無き騎神の友誼』を思い出して、これもまた報酬みたいなものか、と一人納得して、震える手に力を込めた。
――――――――――
ス・ラーフに着いて、まず最初に向かったのは無縁墓地だった。流石の俺も、ずっと左腕から激痛が込み上げてくるこの状況は早く改善したかったのだ。
満員創痍な俺の有り様と派手に目立つアリスの組み合わせは、やはり人の目を大きく引いてしまう。
色とりどりのプレイヤー達に奇異の目で見られつつ無縁墓地に向かうと、墓地の入口に小規模の人集りがある。面倒事は勘弁なので、アリスを少し離れた位置に待たせて墓地に向かった。
人集りに近づくと、それらには見覚えがある。彼らは――あぁ、そうか。『勇気の証明』討伐隊だ。エンデをリーダーに、ヴィラ・レオニスへ挑んでいたトッププレイヤー達。
彼らの内、一人が満身創痍な俺の有り様に眉を顰め、続いてプレイヤーネームを見て目を見開く。
「ん……あ? おい、アイツ……」
「ハルファスの魔導士?しかもレベルが……でも確かに『ミツクモ』だな」
「『ミツクモ』……そうか、彼が」
槍を担ぎ、墓地の外壁に背中を預けていたプレイヤー……確か、カリフラワーと呼ばれていたプレイヤーが、隣に立つエンデの肩をつつく。エンデは澄んだ空色の瞳で俺を見据えると、落ち着いた微笑を浮かべながらこちらに歩み寄る。
「こんにちは。私の名はエンデ。『ホワイトスター』というクランのリーダーを務めている。ミツクモ君、で合っているかな」
「……丁寧にありがとうございます。私がミツクモで間違いないですよ」
この場合における『ミツクモ』というのは、『ヴィラ・レオニスを倒したプレイヤー』という意味を含有している。エンデは笑みを深め、続いて俺のレベルを見て目を細める。
「そうだな……まずは、おめでとう。君達はあのヴィラ・レオニスを討伐した。このゲームが始まって有数の、そしてこのス・ラーフでは初のユニークネームドモンスターの討伐だ。とてつもない偉業だよ」
「ありがとうございます。……それで、何かご要件があるんですか?」
回りくどい話をするだけの精神的余裕は俺に無い。既に彼の後ろに立つ討伐隊の面々からは、興味であったり疑問であったり、様々な感情が俺に注がれている。
直球な俺の言葉にエンデは軽く咳払いをして、ちらりと後ろのメンバー達を目尻に捉えた後、こう切り出した。
「ゴホン……そうだな。では、委細を省いて単刀直入に言おう。君と、君の仲間達にヴィラ・レオニスを倒した時の話を聞きたい。そして、当然無理強いをするつもりはないが……私達のクランに興味を持ってもらいたいんだ」
……早い話が、事実確認と勧誘、か。彼らがどれだけの回数ヴィラ・レオニスに挑んでいたかは知らないが、おそらくは相当な回数挑んでいたはず。
俺とアリスが辿り着いた攻略を聞いて、『答え合わせ』をしないと、流石に不完全燃焼が過ぎるのだろう。付け加えて、彼らならばヴィラ・レオニスが途方もないPSを要求されるボスであることは充分に理解している。それに挑んで、
「……すみませんが、あんまり人が多いのは好きじゃなくて」
「安心してくれ。私のクランはノルマを課していない。精々、日に一度ログインだけしていてくれれば何も問題無い。はっきり言って、このクランはアレを倒すためだけに結成されたクランなんだ。定期的な集会や横の繋がりも――」
「エンデさん。そこでストップです。あなたなら、ミツクモさんが何を言いたいか分かってるはずでしょう?」
「……そうだな」
やんわりと断りを述べる俺に助け舟を出すように、ケリアというネームのプレイヤーがエンデの肩を叩いた。エンデは深く溜め息を吐いた後、きっちりと思考を切り替えて笑顔を浮かべ直す。
「すまない。見苦しい所を見せた。……それで、君達は何人パーティでアレに挑んだんだ?パーティの構成は?"四肢粉塵"にはどう対処した?君にも時間があるだろうから、軽い回答で構わない。どうか教えてほしい」
さあ来た、とばかりに背後の面々が俺に意識を集中させる。中にはウィンドウを開いて……おそらくはメモを取ろうとしているプレイヤーも居る。
……なんだか言いづらいな。彼らは俺達も同様に大人数のクランを組んで、入念な対策と作戦を組んでヴィラ・レオニスに挑んだと思っている。
そしてその仲間は俺を除いて全員無縁墓地にリスポーンしており、俺はそれを迎えに来たものとばかり思っているのだろう。俺は背中の汗を法衣に吸わせつつ、答えを切り出す。
「あー……そう、ですね。まず人数は、二人」
「ふた、二人!?」
「は……?」
「ん?聞き間違い、ですよね?んん?」
「え、いや、え……そんなの可能不可能の話の前じゃない?」
予想通り阿鼻叫喚の絵図が生まれ、エンデの笑みが引き攣る。
「…………二人、か。それは、君ともう一人、という意味かな?」
「そうですね。彼女は私以上に人混みが苦手なので、少し遠くで待ってもらっています」
「……そう、か。繰り返しで失礼だが、本当に二人、なのか?結果としてそうなった訳ではなく?」
「いえ、二人ですね。魔導士と戦士系の二人で戦って勝ちました」
「し、"四肢粉塵"は?君のレベル帯の魔導士にアレはどうしようもないだろう?」
「パリィと回避でなんとかしましたね」
「パ、パリィ……!?」
「は?え、アレってパリィ出来るのか?」
「俺見んなよ。ガチガチにエンチャント固めた大盾でさえドッジも出来なかったんだぞ。反応間に合う訳ねえだろ」
「一発目が出来たとしても、二発目以降はほぼ同時じゃないのか?」
「そうですね。なので、一撃目は弾いて、二撃目は避けて、三撃目は返す刃でパリィして、四撃目は魔法でブリンクして避けてました」
「……???」
「人間業?TASみたいなこと言ってません?」
討伐隊の面々は困惑と驚きで顔を見合わせて右往左往している。大盾を持つマナリアというプレイヤーは自身の盾を悲しげな目で見つつ、仲間からの質問に首を横に振っていた。
俺の言葉にエンデは頭痛を堪えるような仕草をしていたが、なんとか持ち直して口を開く。
「……なる、ほど……では、第二形態……いや、そもそも二人で火力は足りたのか?確かに戦闘に参加するプレイヤーの数でHPは増減するが、それでもどうしようもないほど膨大なHPだったと思うが」
「それはもう一人が頑張ってくれましたね。それと、私の武器に付いている確定クリティカルと装甲貫通の攻撃を頭に叩き込んでいたら火力は足りました」
「もう一人……そうか。そちらがかなりの高レベルプレイヤーの可能性があるのか」
「ヴィラ・レオニスの正解ってもしかして少数精鋭だったんじゃ……」
「待て待て、なんで誰も確定クリティカルと装甲貫通にツッコミ入れてないの?おかしくない?」
「パーティ人数が二人の時点でツッコミ入れられる次元じゃなくなったし」
後はヴィラ・レオニスの"勇心礼賛"をキャンセルさせると大ダメージを狙えるということ、"落日賛歌"からの落下ダメージが特に響いたことも大きかったが……そこまで語る必要は無さそうだ。
俺の目の前のエンデは立ち眩みを起こしたような様子でこめかみを抑えている。エンデは俺の目線に気付くと、慌てて顔を取り繕った。
「す、すまないな……そこまでとは、全く……想像が出来ていなかった。あ、ありがとう。非常に貴重な情報を提供してくれて、感謝する」
「いえ……私も今日のギルドで皆さんが肩を組んでいたのを見ていましたから」
「そうか……」
俺の言葉にエンデはしみじみと頷く。彼の脳内にはありありとこれまでの日々が流れているのかもしれない。が、俺は早く腕を治してアリスの下へ戻りたい。
上手いこと話に切れ目を見つけた俺は「それでは」と社交辞令な笑みを浮かべてその場を乗り切ろうとした。しかしエンデがハッと顔を上げる。
「待ってくれ。……ミツクモ君は、来週開催のイベントは知っているか?」
「……はい」
「そうか。その様子だと……君もエントリーするのだろう?」
エンデの瞳には、猛禽類にも似た獲物を狙う輝きが込められている。……いや、それだけじゃないな。彼の目には、ありありと興味が滲んでいる。俺がどんなプレイヤーで、どんなプレイスタイルで、どう戦うのか。それが知りたくて仕方が無い。
そしてあわよくば、俺から何かを得ていきたい。そんな純粋な思いを感じるのだ。
…………正直な話。俺は、彼に文句を言われるものと思っていた。俺達が狙っていたヴィラ・レオニスを、苦労して戦ったボスを横から掻っ攫いやがってと、難癖をつけられるものとばかり思っていたのだ。
だが、彼らは驚き、頭を抱えつつもお互いに顔を見合わせ、話し合い、思考して、より良い自分になろうとしている。
「俺、パリィ型になろうかな……」
「マナリアさんはキツイでしょ。ここは俺が拳でパリィを……」
「パリィ出来るセスタスの情報ってどっかのスレにあったよな?」
「あ、それ俺もう検索掛けてる。掲示板で1Мで取引されてるわ」
「げっ!?高すぎ!」
「やはり後衛職でも機動力の確保は必須とわかりましたね」
「そうだね〜。僕達は求道者の祈祷とVITで耐える感じだけど、ミツクモ君みたいに避ける選択は必要だと思う」
「やっぱ俺ら武器の厳選甘いんすかね……てか、さっきの効果聞く限りプレイヤー産っぽいし、ちょっと鍛冶齧ってみような」
「もしかしてダジャレ?また"四肢粉塵"されちゃうよ、ヤツメウナギw」
「うっさいわ!てか、あの時はマジでゴメンナサイ!」
賑やかな面々に少しだけ、ほんの少しだけ思うものがあって……頭を振ってそれを掻き消す。
「……そうですね。私も、次のイベントには出てみようかなと思っています」
「そうか。……それなら、より一層楽しみだ」
エンデは腕を組んで笑う。そして後ろの騒がしい仲間達に「騒ぎすぎだぞ」と軽く声を掛けて、俺に向き直った。
「貴重な時間をありがとう、ミツクモ君。今、ここでは縁が重ならなかったが……いつかまた別の場所で――例えば、イベントの本戦で顔を合わせる事があれば、よろしく頼む」
その言葉と同時に、通知音が響いて『プレイヤー:【
これは……断りづらいな。ナチュラルに断る選択肢を頭に入れている自分に気分が悪くなりつつも、『はい』を選択する。
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
……こういう出会いをした後のフレンド申請は、大抵DOSを打つか、ファンメで口撃をかましてくるヤバい奴ばかりだったから、純粋なフレンド申請は久々だ。
……それから、俺とエンデは二、三言他愛の無い話をしてその場で分かれたのだが、あまりにも遅い俺の帰りに、アリスは不安と心配の混ざった仏頂面をしていた。事情を説明しても無表情が続いて気まずかったので、適当に屋台を見繕って食事を摂ると機嫌を直してくれた。
「――それで、次は何処へ行くのですか? ミツクモは一度休息を挟むのが良いと、私は思うのですが」
「俺は特に疲れは無いから大丈夫だ。……まあ確かに、一息ついたら休息はするつもりだが、それより先に寄りたい場所がある」
「寄りたい場所、ですか?」
屋台で買った棒付きの巨大な焼き肉を少しずつ齧るアリスを連れて、ス・ラーフの街中を歩く。自慢じゃないが、俺は一度歩いた道や一度戦ったマップは絶対に忘れない。目的地への最短距離やオブジェクトの位置、色に至るまで覚えている。
見覚えのある曲がり角を曲がって進路を定めたのは、ス・ラーフでは珍しい木造建築。半開きの扉を押し開け、中を見渡した。店内にはセンスの良い調度品と、整然と並んだ武器の数々。外から差す陽光で、店先に並んだ武器は鋭利な光を放っている。
これまた見慣れた様子で、俺の背後にアリスが隠れる。
それに苦笑しつつも、店の奥で頬杖をつく赤髪の店員――たこらいす氏に目を向けた。
彼は入店した俺達を見るなり、手元のナイフを吟味していた難しい表情を一変させる。
にーっ、と大きく破顔する様は、もう面白くてしょうがない、といわんばかりだ。先程まで鍛冶でもしていたのか、その頬には黒い煤が残っており、それがまた彼の笑みにイタズラ小僧めいた雰囲気を乗せていた。
「おぉ〜!! いらっしゃ〜い、お兄さ〜ん! 俺、首を長〜くして待ってたよ!」
「一応、数時間ぶりのはずなんですけどね」
首の辺りで手を開いたり閉じたりするジェスチャーをするたこらいす氏に苦笑いのままそう返すと、「関係無い無い!」と満面の笑みで彼はテーブルから立ち上がった。そして赤褐色の瞳に爛々と興味の光を蓄えながら、俺に向けて歩いてくる。
「お兄さんと俺の仲じゃん? ……んでさぁ、いい?聞いちゃっていい?てか、聞かせてくれっ!――俺の武器、どうだったっ!?役に立ったか!?どんな感じで戦った!?」
なあなあ!と迫るその様子に背後のアリスが縮こまるのを感じつつ、俺はこの武器の礼と――イベントの話も兼ねて、震える手を握りながら口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます