第17話 『フェリシア・アリス』

 列車に揺られながらちらりと視界の右上に意識を向ける。


【パーティ加入中】

 ミツクモ Lv8  魔導師Lv7

 HP:221/221

『フェリシア・アリス』Lv6 ■■■■■ Lv1

 HP:????


「……」


 思うことはいくつかある。伏せ字の職業、低すぎる職業レベル、共有されないHP。もうこの際、前二つはどうでもいい。ただ、NPCを死なせたら終了のクエストでNPCの残りHPが見えないなんてことがあっていいのか?

 視線を戻せばアリスの頭上に名前と緑色のHPバーが見えるようになっている。しかし数字らしい数字は無く、概算で何割残っているかが見られる程度だろう。


「何か気になることでも?」

「いや……まぁ、そうですね。俺の種族は見た目通り『ハルファスの民』で、職業は魔導士です。貴方の職業を聞いても良いですか?」


 俺の質問にアリスは一瞬目を逸らして、大剣をぎゅっと抱えた。


「戦士、です。この剣を使って戦います」

「……そうですか」


 嘘だな。分かり易いにも程がある。それを教えられるほど信頼を築けていない、ということなのだろう。まあ、それはおいおい考えるか、と思いつつ、列車の窓から顔を出して進行方向を見る。

 砂嵐の奥に、微かだが街並みが見えた。地図からして、あれがス・ラーフ商国だろう。現在時刻は午前3時前後。夜明けにはまだ程遠い時間帯だ。


「とりあえず、ス・ラーフの無淵墓地に寄らせてください。その後は……情報と装備を整えて、まずは単独で軽くヴィラ・レオニスに当たってみます」

「単独で軽く、当たる……? 来訪者は命に限りが無いと聞いていますが、痛みや恐怖は感じると聞いています」


 確かに俺は痛覚のフィードバックが100%だから、手足を切り落とされたら相当痛い。そんなヘマをやらかすつもりは毛頭ないが、実際にネビュ・レスタ戦では不甲斐ない死に方をしたので大きなことは言えなかった。


「まあ、俺は来訪者ですから。無限に賭けられるチップでギャンブルが出来るなら何度でも賭けますよ」

「それは、駄目です。確かに貴方は強いかもしれない。でも……これは私の戦いです。私の責任です」

「……」


 だから、俺にだけ背負わせるつもりは無い、と。言外に俺を見つめるアリスに、どうしたものかと白い髪を掻いた。これは俺の言い方が悪かったな。とりあえず一回偵察に向かうだけだ、と口にしようとして、開いた口を……閉じた。


「……?」

「……何かが来る。どこかに掴まっていた方がいいですよ」


 進む列車の揺れに、何かが混ざった。不規則に揺れる車体の真下を何かが這う振動が車輪を伝っている。席を立って身を構える俺をアリスは怪訝な目で見つめていたが、数秒後にその華奢な体が真横に吹っ飛ぶ。土龍が急に足を止めたのだ。


「っ、あっ!?」

「『災害種ボスモンスター』、デザートイーター Lv14……」


 目尻で吹き飛んだアリスのHPが減っていないことを確認して、列車の進行方向に飛び出したモンスターを観察する。それは列車を牽く土龍の体躯にも劣らない、巨大なワームだった。

 土色の身体には魚のヒレに似た鋭利な刃が複数飛び出しており、ヒルにも似た円形の口には細かい歯がびっしりと生えている。目は退化しているのか見当たらないが、目の位置から捻じくれた角が二本生えていた。


災害種ボスモンスターに遭遇しました!】

【戦闘を開始します】


 窓から後部車両を見るが、俺以外に顔を出しているプレイヤーは居ない。単に衝撃で吹き飛んだままなのか、やる気が無いのか、はたまた誰も居ないのか。流石に誰も居ないということは無いだろうが……まあいい。


「クソッタレ! ここらの主か! おい、誰か腕っぷしに自身がある奴は居ねえのか!? コイツは土龍一匹じゃ荷が重すぎる!」


 自己防衛は土龍と乗客頼りなのか……。まあ、丁度いいな。災害種だかなんだか知らないが、新しいスキルの実験台に最適だろう。俺が窓から身を乗り出したタイミングで、アリスが慌てたように口を開く。


「私も、戦います……あの程度、どうにか出来なければアレと戦う資格さえ失ってしまいます」

「……分かりました。俺は魔導士なので身体が弱いです。攻撃にはお互い気をつけましょう」


 言外に彼女を庇うことは出来ない、と告げて列車から飛び出す。二十分近く固いクッションに座りっぱなしだったせいで腰が固い。背筋を伸ばしながら砂漠を歩き、目標を見定めた。


「思ったよりデカい……振り回した身体に当たるだけで即死だな」


 砂漠から飛び出している部分だけで6、7メートルはある巨大な身体に目を細めつつ、一瞬だけアリスのことを思案した。クエストの観点からすればアリスの参戦を押し留めるべきかもしれないが、彼女が口にした通りこの程度のモンスターも相手に出来ないようなら、根本から考えを変える必要がある。


 何よりこの戦闘で経験値を積めば、焼け石に水かもしれないが多少はレベルが上がるだろう。


「俺もやれるだけ数字ステータスは積んでかないとな」


 そう呟いて、砂漠を強く踏みしめる。同時にシステムが俺の意思を汲み取ってユニークスキル『死界踏破スラック・ランナー』を発動させた。瞬間、世界が比喩抜きで後ろに流れる。


(体感で2倍速か? スキル一つでこれは疾すぎだろ)


 アクセルを踏み込んだ自動車並のスピードでデザートイーターに接近し、弱点らしき頭部へ向かってカッティングエアを叩き込む。

 十字の風が目立つ角に当たって、パチン、と軽い音とともに弾ける。ダメージは2%程度……あの角、固すぎないか?


 攻撃を受けたデザートイーターは標的を土龍から俺に変えたようで、身体の砂を落としながら俺の方を見る。二本の角が一瞬だけ光った後、デザートイーターの頭上に『魔力視』が茶色のゲージを映し出す。


「その見た目で魔法系か」


 デザートイーターの頭部付近に巨大な岩が二つ形成され、凄まじい速さで俺に射出される。一発はその場で跳んで避け、二発目は自分にノックアップを詠唱しながら空中で身体を捻って避ける。

 ゴォ、と空気を抉った岩は砂漠に突き刺さり、衝撃で砂が天高く舞い上がった。これも食らったら即死だな、と思いつつ、脳内のタイマーが俺の対空時間をカウントする。


「一秒……お」


 視界の隅に羽根のアイコンが現れ、体感の速度が更に上がる。その状態で空中を踏み込むと、俺の身体が加速しながら宙に打ち上がった。ノックアップ・エアも重なり、一時的に俺とデザートイーターが同じ目線の高さになる。


「これは良いな――『ウィンド』、『ストレート・エア』」


 顔面にウィンドを叩きつけると、それがどうしたとばかりにデザートイーターが大口を開いて俺の身体を呑み込もうとする。間一髪で風が俺の身体を真横に吹き飛ばし、脇腹の辺りをワームの角が通り過ぎていった。

 この回避で『無冠の曲芸』が発動し、全てのスキルと魔法のリキャストが短縮された。『死界踏破』は残念ながら効果が終了するまでタイマーが動かないタイプのスキルだが、仕方が無いだろう。


 丸呑みを外したデザートイーターは即座に頭を振って角による攻撃を行ったが、既に『隼の流儀』のスタックは溜まっている。真上に跳んでそれを避け、新しく習得した風魔法『ストームブレイド』を名前的に魔法の威力が上がりそうな【魔術理解】のアクティブスキル『アッドスペル』を使って詠唱する。


 一瞬の詠唱の後、俺の目前に薄緑色の風が収束し、柄の無い抜き身の刃の形になった。それを見た瞬間に俺は自分に『ダウンバースト』を詠唱しながら目の前に現れた風の刃を掴む。


「――シッ!」


 攻撃を再び外したデザートイーターが俺を見上げた瞬間、強烈な下降気流が俺の身体を撃ち落として、すれ違いざまに俺はデザートイーターの頭を風の刃で思いっきり叩き斬る。

 バチッ!!と生皮を切り裂く音が響いて、俺の右肩辺りで派手にダメージエフェクトが散った。


 俺は一度空中を蹴って減速し、受け身をとって砂漠に着地する。振り返ると、デザートイーターは大きく頭を振り回して怯みモーションに入っていた。


「かなり自信があったが、これでも一割ちょいか……ナイトリッパーとかならワンパン出来そうなんだが」


 レベル14のボスモンスターの肩書は飾りではないらしい。それにしても、ストームブレイドは良い魔法だ。MPの消費はまあまあ、リキャスト短めで一回限りの武器を手持ちで召喚できる。てっきりカッティングエアのように風の刃が飛んでいくものと思っていたのだが、恐らくは魔導師における近接の護身用魔法だろう。

 普通の魔導師からしたら敵に接近しなければいけない時点で使い勝手は悪いのかもしれないが、俺からすれば神魔法だ。


「さて……」


 法衣の砂を払いつつ、ちらりと後ろを見た。俺を追って列車の窓から飛び出したらしいアリスが、目を見開いて俺を見ている。良い機会だ。彼女の手並みも拝見させてもらおう。


「強いとは思っていましたが、ここまでとは――」

「攻撃が下から来ます。お互い上手くやりましょう」


 敵を前にしているのに大剣を抱えたままのアリスに鋭くそう言うと、彼女は慌ててその場から飛び退いた。途端に俺の足元から何か固いものが擦れるような振動が響き、俺もその場から飛び跳ねる。

 ドゴッ!と鈍い音と共に地面から鋭利な岩の棘が生え、それがひとりでに砕け散った。砕けた破片が俺を狙って飛んでくるが、最低限のステップでそれを避けてデザートイーターに向き直る。


 完全にヘイトは俺らしい。好都合だ。怒り心頭といった様子のデザートイーターが上げていた頭を砂に半分埋めると、砂を呑みながら俺に突進してくる。俺は躊躇いなくそれに向かって走り、二つの魔法を詠唱した。

 接近した俺に、デザートイーターがヤスリめいてぎっしりと歯の詰まった大口を開けて飛び跳ねる。どうやら俺の回避読みで上から呑み込むつもりらしい。


「良いAI積んでるな」


 俺の速度が上がってなかったら回避が間に合わず、呑み込みは避けられても身体から生えた鋭いヒレに切り刻まれていただろう。上から飛び込む動きに合わせて右前にスライディングし、同時に俺の体を風が打ち上げる。顔面スレスレをギラついたヒレが通過し、デザートイーターがそのまま砂の中に潜る。


(モーション的に空中の俺を下から呑み込むつもりか?)


 保険に掛けていたストレートエアが俺の体を横に引っ張り、そこから着地するまでに隼の流儀のスタックを貯める。

 予想通り、砂の中を潜航したデザートイーターは真下から大口を開いて飛び出してくるが、足裏から感じる振動と砂漠の砂の動きでタイミングが丸分かりだ。


 横に転がってそれを避けた俺の前で、垂直に飛び出したデザートイーターがゆらりと俺に鎌首をもたげる。そこへウィンドを叩き込もうとして……俺の勘が、それを止めた。ストームウォールを詠唱しながら走って、デザートイーターから距離を取る。

 目尻で捉えたデザートイーターは頭を後ろに引き、口を窄めて何かを吐き出す前の仕草を取った。


「ワーム系の癖にブレスか!」


 随分と多芸なボスだ。俺の背後で、大量の砂が吐き出される音が響いた。デザートイーターの根元から俺へ向けて、一本になぞり書きをするようにブレスが発される。想定より速いそれを詠唱したストームウォールで遅延させ、なんとか横っ飛びで回避する。

 すぐさまカウンターでカッティングエアを叩き込むが、固い角でタイミング良く弾いたらしく、軽い音共に透明な風が打ち消された。


 さて、次は何が出てくる? と軽く笑う俺の目線の先、砂漠から体を出すワームの根元で、アリスが大剣を振りかぶっていた。どうやら隙を見つけて切り込んだらしい。

 だが――


「どういう判断なんだ……?」


 彼女は大事に抱えていた騎士大剣を鞘に収めたまま、思いっきりデザートイーターの身体に叩きつけていた。あれはまさか……鞘から抜くのを忘れたのか? あの騎士大剣は相当な業物だろうに、あれでは見てくれの良い金属バットと同じだ。


 デザートイーターに入ったダメージは当然1ドット。とはいえ近距離でダメージを入れた以上、ヘイトを引いたらしく、デザートイーターの角が光った。


「ッ……!?」


 地面から生えた巨大な岩の棘。それをアリスは間一髪、大剣の鞘で受け止める。後ろに大きく吹き飛ばされたアリスの身体に、砕けた岩の破片が迫るが、それは俺のウィンドで撃ち落とした。

 急いでアリスに身体を寄せつつ、ストームブレイドで生み出した刃を投擲してデザートイーターの気を引く。


「アリス、せめて剣は鞘から抜いてくれ」

「それは、分かっています……! ただ、この剣は私には上手く扱えなくて……」


 なんだそれは?よく分からないが、悔しそうに大剣の柄を握りしめるアリスの表情は苦虫を噛み潰したようだ。

 デザートイーターの角が再び光り、モーニングスターめいたトゲトゲの大岩が俺狙いで砂漠を転がってくる。ストレートエアでそれを避けつつちらりとパーティのアリスのHPを見たが、驚くべきことに1ドットも削れていなかった。


 魔法を鞘で防いだといっても、アレは咄嗟に受け止めただけだ。その上でフルヘルス……?


 困惑しつつも、戦闘を継続する。デザートイーターの魔法を避け、空を踏んでストームブレイドを頭に叩き込む。その間もアリスは必死の表情で鞘に収めた大剣をデザートイーターに叩きつけていた。


『死界踏破』の効果はとっくに切れているが、それ以前に俺がコイツの攻撃を見切っている。噛みつきも振り回しも突進も、もう既に見た攻撃だ。噛みつきをギリギリで回避して、対空時間を稼ぐ為にデザートイーターの角を踏んづけて足場代わりに跳ぶ。


 怒り狂った様子で巨体をくねらせ、なんとか俺を殺そうとするデザートイーターの目前で、俺はひたすらに宙を舞った。

 上から風の刃を叩きつけ、空を踏んで「く」の字に飛び上がる。ストレートエアで噛みつきを避けながらカッティングエア、足狙いの土魔法に合わせてノックアップエア。ギリギリの回避で『無冠の曲芸』が何度も発動し、早々にまた『死界踏破』が発動可能になる。


 糸で吊られた人形のように、精確に、緻密に、全ての攻撃を空振らせ続けた。一撃を当てれば俺など粉微塵に出来るだろうに、デザートイーターは何一つ俺に当てることは出来ず、頼みの大技もモーションが大き過ぎて俺にはもう当たらない。


 一方的にHPを削り続け、残り二割を割ったタイミング。残り二割まで何の行動変化も無いデザートイーターを不審に思っていると、唐突にデザートイーターの二本の角が光を放つ。それは一瞬の光ではなく、朝日を思わせるような眩い発光だ。


 それに合わせて、周囲の砂が波打つように動き、砂漠に散っていた岩の破片が重力に逆らって浮き始めた。


(どう考えても大技……何が来る?)


 万が一に備えてスタックを稼ぎながら砂漠に着地し、身構える。砂の揺らめきは大きくなり、角はさらに輝きを増す。

 さあ、来てみろ。何が来ても絶対に見切って――


「……ッ!?」


 ――硬直。無意識に浮かべていた笑みが強張って、手足が震える。何も出来ない。呼吸の一つさえ出来ない。ふざけるな、この、タイミングで……!


 光は臨界に達し、砂の揺れに交じって足裏から異様な感覚が伝わってくる。砂漠が沸騰した水のように泡立って……次の瞬間、デザートイーターを中心に、巨大な岩石の刃が砂漠から飛び出す。

 それは砂漠を伝搬し、波のように全方位に連続した。


(硬直が終わった!差し込み、間に合――)


 鉄のように固まった身体がようやく柔軟性を取り戻した瞬間、俺の目の前に華奢な身体が飛び込んできた。彼女は俺と牙の群れの間に割り込むと、大剣を盾にそれを受け止める。


「く、ぅ……ぁ゙っ!!」

「ッ!?」


 当然、彼女の腕力ではそれを受け止めることなど出来ず、ガキン!と鉄が擦れる音と共に、その身体が思いっきり吹き飛ばされた。当然背後の俺にその身体が叩きつけられ、二人揃って砂漠の上を跳ねる。

 ピンボールのように何度も砂漠を転がりつつ、俺は受け身をとってそれを止めた。

 遅れて俺に転がってくるアリスの身体をなんとか受け止めて、慌ててそのHPを確認した。


「……あの大技を受けて、1ミリ減っただけ?」


 確かにアリスのHPは削れていた。恐らくは1%程度だろうか、緑色のバーに小さく赤色が入っている。よく見ればパーティメンバーの状態を示すウィンドウに『気絶』のアイコンが追加されているが、彼女の身体には傷一つ無かった。

 唖然とする俺の目に、再び眩い光が差す。見上げれば、デザートイーターは再び角を発光させていた。


 第二形態以降は大技を連発するタイプか……!


 顔を強張らせて、反射で身体を起こした――その時。


「っしゃあ!準備完了! 行くぞ『アイリス』!! かませぇぇーッ!!」


 列車との連結を解除した土龍が、その巨体を使ってデザートイーターに決死の体当たりをする。巨大な質量を持つ両者がぶつかり、その軍配は土龍に上がった。大きく仰け反り、砂漠に打ち倒されたデザートイーターの頭部を土龍が体重を掛けて踏み抜き、ダメ押しに胴体に噛みつく。


 その一撃をもってデザートイーターの残りHPが弾け飛び、固まる俺の前でデザートイーターが大量のポリゴンとなって消えていった。

 すかさず通知が戦闘の終了を告げる。


災害種ボスモンスターの討伐を確認】

【戦闘が終了しました】

【MVPを発表します】

『死と踊る風』ミツクモ

【種族レベルが3上昇しました】 

【職業レベルが3上昇しました】

【下級風魔法 6→7】

 魔法を習得:『ブラストストーム』

【精神統一 7→8】

【魔力視 1→3】

【詠唱加速 4→6】

【魔術理解 5→6】

 アクティブスキルを習得:『詠唱中断』

【以下の称号を獲得しました】

『災害を越えし者』

『砂漠越え』

天空魔導師スカイスクレイパー

上昇気流の使い手アップシフター

【一定条件を満たしたため、『心識アヴェーダ2』が解放可能になりました】

【以下のアイテムを獲得しました】

 ・砂漠喰らいの鋭牙×3

 ・砂漠喰らいの厚皮×2

 ・砂漠喰らいの魔導角

 ・砂漠喰らいの大砂嚢

 ・砂漠の結晶×2

【パーティメンバーのレベルが上昇しました】

『フェリシア・アリス』 

 種族レベル:6→8

 職業レベル:1


 怒涛の通知に目を通しつつ、気絶しっぱなしのアリスの下まで歩く。俺を庇って攻撃を受けた彼女だが、既にそのダメージは回復しているようでHPゲージは満タンだ。


「……この子は、何者なんだ?」


 アズラハットの最後の民にして、ヴィラ・レオニスに挑む者。それにしてはあまりにも戦闘経験が無い上、レベルの上がりも絶望的に悪い。

 だというのにこの硬さは……イベント用のNPCだからなのか?


 気絶してもその手にはしっかりと鞘に収まった騎士大剣が握られており、彼女と同じく大技を受け止めたはずの大剣に傷は無い。

 少し考えつつも、気を失ったアリスの身体を大剣と一緒に背中に背負う。


「重い……少しSTRに振るか」


 流石に最低限が過ぎるSTRに少しだけステータスポイントを振ると、多少はマシになった。背中に規則正しい呼吸を感じながら、土龍と共に勝鬨を挙げる御者を一瞥し、放置された列車に向かって歩く。

 ……アリスについて、俺はほとんどと言っていいほど無知だ。俺は彼女の年齢さえ知らない。だが、彼女は身体を張って俺の命を救ってくれた。


 彼女の割り込みが無ければ、確実に俺はリスポーンする羽目になっていただろう。意識を失ったアリスを背負いながら、「ありがとう。助かった」と口にした。

 返事は当然無い。彼女の目が覚めたら、もう一度礼を言おう。


 進む列車の向こう、雨雲をはらんだ空が僅かに白んでいた。

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