外伝1 心に花を咲かせて
レナトは、セシリアの好きな人は、人を殺す仕事をしている。
人を殺す仕事をしているレナトの手は、いつも冷たいの。でも、手が冷たいのは心があったかい証拠だから、セシリアはそんなことを気にしたことがない。セシリアはね、レナトが本当はとっても優しい人だって知ってるから、レナトのこと、怖くないよ。
今日もベッドの上で二人並んで、手を繋いで思うの。レナトの指は冷たいけれど、こうしている間だけ、レナトの頭の中はセシリアで一杯になればいいって。
セシリアの孤独は、レナトじゃなきゃ満たせないの。
レナトの罪は、セシリアじゃなきゃ赦せないの。
だから、一生セシリアを閉じ込めてよ。レナトの手で、セシリアを一生抱きしめていてほしいの。それくらい、愛してる。レナトはセシリアを愛してくれると言った。一番に愛してくれるって。だからセシリアも、レナトを愛しているし、このまま永遠に閉じ込められてもいいって思ったの。
レナトのほうが、先に死んでしまうだろう。人間の寿命は七〇年もあれば立派なほうだ。セシリアは、二〇〇年生きる。この差はどうしても埋められない。セシリアは、レナトがいなくなったあと、どうやって生きていけばいいんだろう。そんな不安に駆られることもある。
セシリアは、レナトを忘れて生きていけるのかな。そっと窓の外を見たら、雨がさらさらと音をたてて降っていた。雨粒が落ちるのと同じスピードで、セシリアの胸も鼓動を打つの。ねえ、どうかレナトもそうであってほしい。セシリアと鼓動までお揃いになってほしいの。一生を添い遂げられないのなら、どうか、今だけでも。
指を絡めるたび、愛といううわごとを綴って遊ぶの。そうしたら、二人の孤独は花を咲かせるから。ねえ、綺麗な花にして。胸にある傷口から流れた血で、真っ赤な花にして。
これは禁じられた遊び。二人だけの秘密。異端者であるセシリアと、異端を裁くレナトの、秘密の遊び。
「レナト、愛してる」
指を握ると、レナトは微笑んでセシリアの手を握り返してくれる。
「僕も、セシリアを愛しているよ」
知ってるよ。だって、レナトの指にセシリアの熱が移っていくのがわかるから。セシリアがレナトを想うほどに、レナトもセシリアを愛してくれるのがわかるから。鼓動が重なるのが、わかるから。
ねえレナト、もしできるのなら、セシリアの胸の中を覗いてよ。そうしたら、レナトへの愛で胸いっぱいに花が咲いているのがわかるから。綺麗な花でいっぱいなの。胸には孤独という傷がついているけれど、その傷口から咲いた花は全部、全部、レナトがくれたもの。
世界がセシリアとレナトを引き裂く前に、見て。セシリアがどれだけレナトのことが好きか、見て。
この恋は永遠じゃないけど──でも、どうか今だけでいいから。重なる鼓動に合わせて咲く花を、見て。
どうか、レナトもそうであってくれればいいと思う。セシリアの鼓動で、レナトの胸についている青痣にも、花を咲かせられたらいいのにって。そうしたら胸に咲いた花を摘んで、花冠を作って遊びたいの。
「レナト、だいすき」
貴方でなきゃ、埋まらない傷を。
私じゃなきゃ、許せない痣を。
ねえ、この雨音の中で、お揃いの鼓動で、綺麗な夢になって。傷も痣も忘れさせて。永遠なんてないから、今だけでいいの。熱を分け合って、冷たい雨の夜を越えさせて。お揃いの夢を見させて。
愛してるの言葉だけで、セシリアの心は軽々と飛んでいける。だから、ねえ、ずっと愛して。世界がセシリアとレナトの手を千切るまで。
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