第3話 転生
突然だが、僕は転生者だったりする。
ただし、前世でどんな仕事をしていたとか、家族や恋人がいたかとかの記憶は一切ない。
ただ【日本】という国で生きていたということと、それにまつわる知識を有しているだけ。
もっとも、せっかくの知識なので、僕は少しでも楽に生きていけるように、自重はしないつもりではいる。
僕が前世の知識を有していることを知っているのは、両親やメイドのヴェガ、あとは知り合いの数人くらいか。
転生者だなんて言っても信じてもらえる可能性は低いし、わざわざ言いふらすつもりはない。
そして、現世の僕は、とある辺境の子爵家の嫡男として生を受けた。
我が家は、祖父の【アルゴル・フォン・アキュラ】が一代で興した尚武の家柄で、先王陛下から【切取御免】の勅令状を戴くほど。
この勅令状は、当家が手にした土地は全て領地にしていいという破格の権利であった。
もっとも、これは領地の目の前に広がる【メイオール大森林】対策とされている。
大森林は豊富な鉱脈や資源があると目されているものの、ドラゴンを始めとする魑魅魍魎が跋扈するため、未だに手つかずの自然が広がっているのだった。
要は、大森林を切り拓いて王国に利益をもたらせという意味合いだ。
そうして、数十年前に入植した祖父やその仲間たちは艱難辛苦の末、現在の領地を手にしたのだった。
ちなみに、爵位についても広がった領地の分だけ陞爵するというとんでもないシステム。
祖父は、先王陛下のどんな弱みを握っていたのだろうと思わざるを得ない程の高待遇だったりする。
王国内でも唯一と言っていいほど特殊な貴族家。
そのため、口さがない貴族たちからは、当家のシンボルである『
最後の【赤鷲】なんて、成り上がりなので貴族を指す『青い血』が流れて無いだろうって意味のようだ。
そもそも、これって静脈の青い血管が見えるほどの白い肌の持ち主って意味だからな。
要は、日の当たる場所にも出ないで済む者を揶揄したに過ぎない。
青っちょろい肌をしたヤツだって言われてるのを、褒められたって勘違いしてるだけだぞ。
まあ、何と言われても、この辺境で過ごしている分には関係ないしね。
この領地さえ発展すればいいんじゃないかと、本気で思っているのだった。
とりあえず、これが僕を取り巻く環境だったりする。
「また面倒くさいことを考えてるのか?」
「ん?」
朝食で食堂に向かう僕に、ヴェガがそう尋ねる。
普段はツンツンしてるくせに、僕が考え事をしていたり、元気がなかったりすると、こうして心配してくれる優しい子だ。
「そんなことはないよ。ちょっと、今日は何をしようかって考えていただけだよ」
「そうか……」
「心配してくれてありがとう」
僕が素直に感謝の言葉を伝えると、彼女は耳まで真っ赤にして慌て出す。
「うっ、うるせえ!さっさと行くぞ!」
すると、率先して歩いて行ってしまう。
それでも、足が悪い僕を気遣ってそこまで早足でもない。
僕はそんな彼女のいじらしさに、思わず微笑みをこぼすのであった。
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