第4話 父親
僕の容姿はいわゆる金髪碧眼の美少年で、前世で言うなら、いかにも貴族の子弟って感じが漂っている。
前世の記憶が蘇ってから、自分の容姿を見て勝ち組だなと歓喜したのだが、そのうち、僕程度の容姿ならゴロゴロしていると気づいて愕然としたものだ。
恐ろしいな、異世界ファンタジー世界。
そして、僕の父親である【カストル・フォン・アキュラ】もご多分に漏れず、ハリウッドの役者並に整った容姿をしている。
常に優しい笑顔を絶やさない温厚な父上は、最近頭部が寂しくなって来ているが、それでもまだまだ美形の部類に入るのだから、スゴイとしか言いようがない。
先代には、娘がひとりしかしなかったため、父上は入婿である。
その出自はよく分からないが、母上に惚れて家も立場も投げ捨てたと聞いたことがある。
こんな辺境に来る生活を選んだのだから、よっぽど惚れ込んでいたのだろうなと思わなくはない。
そんな父上に、母上もまんざらではないようで夫婦仲は良好である。
母上は仕事の関係で王都に居住しているのだが、たまに領地に帰ってくると人目もはばからずイチャイチャするのだけはやめて欲しい。
そんなことを振り返っていると、僕は食堂にたどり着く。
ちょっとしたパーティーが開けるほどに大きな部屋には、父上を始めとして屋敷で働くほぼ全ての者が揃って席に座っている。
本当なら、貴族と下働きの者が一緒に食事をすることはないのだが、この領地だけは別だった。
常に大森林からの外敵に身を晒している立場としては、何かあったときには家人総出で対応する必要があり、貴族の見栄だけでいちいち食事の時間や場所を分けているのは非効率的というのが表向きの理由。
実際は、入植当時から共に食事をしていたのに、今更何を言っているというのが本音だったりする。
たまたま爵位を貰ったとは言え、祖父はもともとはスラムの住人だ。
幼少をそんなところで育った者に、貴族の立場と言っても糠に釘であろう。
人に身分や出自による差別はないというのが祖父の信念だったようで、これは現在まで脈々と受け継がれているのである。
僕が席に着くと、さっそく古くから仕えている家人たちから、からかいの声が飛ぶ。
「おはようございます、坊っちゃん。朝からヴェガに振り回されてたようですな」
「おはよう【オグマ】。寝癖がひどくてね。これがなかなか曲者でさ」
「そう言えば、先代様もいつもグシャグシャな髪をしてましたな」
「ギャハハ、違ぇねえ」
「おい、ヴェガ!もっと早く起こすべきじゃねえのか?」
「うるせえ!ちゃんと寝ないから、アルはこんなにちっちゃいんだろうが!一日二十時間は寝せとけ!」
「……いや、寝過ぎだと思うよ」
「ガッハッハ!またヴェガの過保護が出たか」
「坊っちゃんを大事にしすぎなんじゃねえのか?」
「今言ったのは誰だ?表へ出ろ!」
「おおっ、上等だ!やってやろうじゃねえか!」
いつものこととは言え、よく言えば尚武、隠すことなく言えば粗雑な家人の言い争いから、一触即発の空気が流れる。
それを制したのは、メイド長の【デネボラ】だ。
パンパンとふたつ手を叩くと、騒然とする一同に向かって声をかける。
「今は朝食の時です。やり合いたいなら後でなさい。それでもと言うなら…………殺すぞ」
大声を出すわけでもなく、ただ淡々と告げるだけなのだがそれで十分。
荒々しい猛者たちも、急におとなしくなる。
「…………ババァめ、いつか必ず」
僕の隣の席に座るヴェガも、苦虫を噛み潰したような顔でメイド長を睨んでいる。
現時点での領内最強の人虎には、誰も反論をすることができない。
一瞬にして場が静まりかえる。
我が領地においては、いかに実力が重視されているかがよく分かる光景だった。
「…………えっと、それじゃそろそろ食べようか」
半ば空気と化していた父上のひとことで食事が始まる。
こうして、辺境の領地の朝が始まるのであった。
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