第2話 目覚

「コラァ!アル!さっさと起きろおおお!」


 僕の名前は【アルタイル・フォン・アキュラ】10歳。


 一応、大陸西方の大国【シグナム王国】の子爵家嫡男なんだけど、朝から僕専属のメイドさんに叩き起こされている。

 高級な羽毛の布団を引っ剥がされて、パジャマ姿が顕になる。


「ほら、さっさと着替えろ!」

「朝からひどくない?」

「アルが優しく起こすと笑うからだろうが!」

「だって君が『坊っちゃん、朝でございます』なんて起こしに来たら、朝から……ププププ……痛いよ痛いってばぁ……」

「早く着替えろ……な?」

「う、うん」


 真っ赤な顔をして、僕にアイアンクローをかけているのは、メイドの【ヴェガ】

 僕よりもひとつ年上の11歳。

 紅玉ルビーのように真紅の瞳と、流れるような紅蓮の長い髪。

 白磁のような肌に、人形のような整った容姿。

 控えめに言っても超絶美少女だ。


 今はホワイトブリムで隠されているが、その二本の竜角が示すように、彼女はこの世界で最強の種族とも言われている【竜人族】だったりする。


 そんな彼女との付き合いも長いもので、もう5年にもなるだろうか。

 …………人生の半分が一緒だった。


 今では誰よりも僕のことを理解してくれる、よき相棒パートナーだ。

 こんなことを口にすれば、照れ隠しで殴られるから絶対に言わないけどね。


 ヴェガに押し付けられた【ジャージ】に着替え、準備された洗面台で顔を洗う。

 すると、ヴェガが僕の後ろに回って髪をとかしてくれる。


「おらっ、動くな。何でいつもいつも、こんなに寝癖がつくんだよ」

「えへへっ、ごめんね。寝相よくしようとは思ってるんだけどね……」

「ふん、ぐっすり寝れてるならそれでいい」

「ありがと。いつも感謝してるよ」


 そんなことを伝えたら、顔を真っ赤にしたヴェガが僕の髪をワシャワシャと搔き乱す。

 鏡に照れた顔が、バッチリ映ってるからね。


「あ〜っ!何すんだよ〜!せっかくセットしてくれてたのに〜!」

「アルなんて、これで十分!」

「何だよ〜、これじゃ天パーじゃないか」

「だから『天パー』は意味が分からない。前世の話をするなら、ちゃんと説明しろ」

「アハハハ……」


 そんな会話をしていると、部屋の外からメイド長の【デネボラ】の声がする。


「ヴェガ?いつまでかかっているのですか?」


 すると、一転してヴェガが顔を青くする。


「やべぇ、アル早くしろ!ババァが来た……」

「ババァって……。いやいや、十分早くしてるからね。ヴェガが邪魔してくるだけだからね」

「とにかく、早く!早く!」


 僕はヴェガから杖を受け取ると、右足を引きずりながらドアに向かう。

 こうして今日も、僕の慌ただしい一日が始まるのであった。


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