16時に世界は、

紫香楽

第1話

バス停からは、道路をはさんで西の方に住宅街が見える。それらは夕日に背を向けて静かに佇んでいた。


美しい空が、どこまでも遠く、無限に広がっている。あの住宅街の向こうには真っ赤な太陽が輝いているに違いない。頭上の青い空には、一枚の西洋絵画のように、ピンクや紫の雲が柔らかな色彩で描かれていた。


「お前、なんでこんなところにいるんだよ。もうみんなでサッカー始めてるぜ。」

坂の下から私を呼ぶ男の子は、私のかけがえのない友人だった。彼はひとりでいる私を、いつもみんなのもとへ連れ戻してくれる。


時刻は16時。ボールが見えなくなるまでがタイムリミットだ。


下り坂をかけていく。


秋風におされて、みんなが集まるあの公園へ


通りの木々の葉が風に払われて、パラパラ音が何重にも重なり、大きくなって迫ってくる。突然、目の前に降ってくる木の葉が、スローモーションで見えた。冷たく、渦巻いた風が空へと吹き抜ける。


私ははっとして立ち止まった。


「ごめん。私、課題を終わらせなきゃ...。」


振り返って、坂の上にある横断歩道へ、一歩、また一歩と上っていく。


振り返るな。今はまだ、その時じゃない。



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