十二章:過去 - 壱
「サフィラ、君も今日で成人だ。そろそろ自分の道を決めなければならない」
なんだ、村長が呼ぶからお祝いでもしてくれると思ったら、また小言か。
そう言って、嫁に出したいだけだろ。私は獣人族や竜人族なんて好みじゃないんだ。
「決められないなら、ナス基地へ行ってくると良い。鬼大将様が話したがってたぞ」
「鬼大将様が?」
いくら珍しい人間の子だからって、あの忙しい鬼大将様がねえ。
ま、別に、この小言から逃げられるならなんだって良いんだけどさ。
ナス基地は初めてだが、この辺の管轄部隊だ。そう遠くはないだろ。
グリフィンを使うほどでもないな。飛行魔法で問題なし!
森を見渡せる高度まで上がる。ここまで飛ぶ必要はないけど、この森を見下ろすのが好きだ。
生まれ育った森。みんなは魔界が良いって言うけど、私は知らない。
そもそも人間が魔界に行くと長生きできないらしい。大丈夫って言ってるのに。
あ、ちょっと寄り道していこうかな。
「父ちゃん。私、成人したってさ。人間の十三歳なんてまだまだ子供なのに、族長は全然区別してくんないの。……みんなと一緒に扱ってくれるのは嬉しいけど」
父ちゃんのは、みんなの墓の中でも一番大きい木に添えられている。村の英雄なんだってさ。
じゃあ四年前、なんで死んじまったんだよ。私、父ちゃんが居なくなって、身寄りもなくなって、ずっと一人だったよ。
ゲイムっていう、頭の軽い竜人族のがきんちょだけは、少し優しかったけど。あいつ、馬鹿なんだもん。
人間は嫌いだ。父ちゃんを殺したから。そんで私が人間だってのが、一番嫌だ。父ちゃんを殺した奴と同じ種族だなんて。
だから、ずっと魔法を練習してるんだ。この手で人間を殺せるように。
「じゃ、鬼大将様に呼ばれてるから。ばいばい」
日が暮れる前に帰らないと、族長に叱られる。ちょっと過保護なんだよな、あの爺さん。
鳥人族ってのはみんなこうなのかなあ。
遠視魔法で基地の旗を探す。あった。基地っていうからもっと物々しいかと思ったけど、案外綺麗じゃんか。
あ、忘れるところだった。仮面、仮面、と。これがないと人間に間違えられて殺されちゃうからな。あぶねー。
「サフィラか? よく来たな。大将が待ってる」
基地の奴らは村と違って、デカイ奴らばっかだ。
そう言えば、村の中でデカイ奴らは、どんどん戦場に行かされてるな。
私も、もう少し成長すれば、認めてもらえるかな。
「初めまして、サフィラです。鬼大将様、話ってなんですか?」
「そうか、お前が……。よく来たな。まあ、座れ」
鬼大将様の部屋にはでっかい刀と、黒い魔剣がすごい存在感を出している。
……いつもここで寝てるのかなあ。寝辛そうだなあ。もっともふもふの毛皮とか置けば良いのに。
「この剣が気になるか?」
「え? いや、別に。私、剣術使えないですし」
ちょっとジロジロしすぎたかな。偉い人って、どんな風に接したら良いかわからない。族長は威厳ないし。
「知ってるかと思うが、俺は四年前に大将となった。それまでの大将は、俺の父だ。刀の達人で、体も心も誰より強かった。個人的には、四天王最強と言っても過言ではなかったと思っている」
知ってる知ってる。すごく尊敬されてたもんな。父ちゃんもずっと、元鬼大将様の事ばっかり話してたな。同じ鬼人族だもんな。
「そんな親父を殺した——いや、相打ちとなったのが、お前の本当の父親だ」
「……え?」
ちょっと待って。父親? 本当の? いきなりなんの話? てか——
「わ、私の父ちゃんはダリエトです! じゃ、じゃなくて、私は捕虜の人間から生まれたって、本当の父親はわからないって」
「落ち着いて聞いてほしい。これは、恐らく俺しか知らない事だ」
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