三章:仲間 - 弐




 隠密行動内での奇襲作戦は、僕が先陣を切ります。敵の足元に氷魔法を張り、一瞬の硬直に乗じて一匹の首を刎ねます。

 間なく、連続して隊員の重力スキルが人型蝙蝠の飛行を阻止し、僕は右手の剣戟で一匹の喉元を裂き、左手の雷撃魔法で一匹の行動を阻害した後、隊長の槍が喉元を食い破りました。


 一方的な認知を利用した圧倒的なアドバンテージのお陰で、難なく状況はクリアしました。

しかし本職の隠密部隊であれば、血の匂いを消す魔法やスキルもあったでしょうが、僕たちは作戦を急ぐしかありませんでした。


 合流をすぐに終えました。この場では細かい報告などせず。そのまま敵の基地がある方面へ向かいます。野営の明るい光がすぐに見つかりました。



 少し早いですが、次の作戦行動に移ります。制圧部隊の準備を待つよりも、敵が気付かないうちに行動した方が成功率が高いと判断したからです。

 ギリギリまで近づいて、隊長がスキルを発動します。真っ赤に燃え盛り高熱を帯びて、敵陣営に突撃します。


 隊長のスキルは隠密行動にこそ適しませんが、正面を切って戦うのであればこれほど頼もしいものもありません。

 炎はもちろん、弓矢や小銃などの遠距離攻撃も熱で軽減しながら、本人の耐久力も非常に高いのです。隊長のこの姿を見て敵は焦り始め、彼に攻撃が集中します。


 後ろに隠れるように僕と先輩隊員が続き、後ろから副隊長を中心とした魔法部隊が敵陣営を撹乱します。

副隊長は攻撃魔法を拡散させる強力スキルを持っているので、敵味方入り乱れた乱戦には向きませんが、初撃で見出すのにはうってつけです。


 すると隊長を妨げるように、一際大きな影が敵陣営から現れます。明らかに理性のある魔物──魔族です。

魔族は力も強く魔力も大きく賢い存在で、人間一人の力では敵わないとされており、斥候部隊の報告にはありませんでした。



「ここは引き付けるからお前ら先に行け!」



 この場で魔族を足止めできるのは隊長だけ、となると制圧部隊の到着を待って僕たちは敵陣を攻めるのが良手でしょう。

 先輩隊員と僕で魔族の両脇を潜り抜け、敵陣営の懐に入ります。


 拡散された魔法によって敵陣営は乱れており、各個撃破は難しくありませんでしたが、なにしろ味方の少ないこの戦況で孤独に戦うのは精神的に追い詰められていました。


 後ろでは魔族と隊長が太陽のような熱を撒き散らし、激しい戦いを繰り広げています。僕は〈双極〉で魔法と身体強化を駆使しながら、複数体と対峙しないように立ち回っていました。


 体感時間で三十分ほど、実時間は三分ほどでしょうか。制圧部隊の到着です。それぞれが高い前線戦闘能力と殲滅力を持っており、瞬く間に敵の数を減らします。



「よう、おつかれさん」


 いつのまにか隊長が僕の背中を守っていました。制圧部隊の一部が加戦したのでしょう。魔族も、連携を訓練された一流の軍人複数名を相手には、分が悪かったようです。

 熱い情熱と炎を背に感じながら、ひたすら目の前の敵を無力化していきました。もはや、息の根を止められたかどうかも定かではありませんでしたが、早く終わってくれと急かす心臓に従い、ただ生き延びる事だけを考えました。


 間も無くして戦いの音は二、三に絞られます。目の前に敵はもう居ません。残りの音も消え去ると、わっと勝利の雄叫びが響きます。


「本当に厳しい戦場では、こんな余裕もないんだがな。なにしろ生きてて良かった」


 隊長はぽんと僕の肩を叩き、隊員の安否確認へ向かいます。僕はといえば、もうその辺の地面にお尻を落とすのが精一杯でした。



 安否確認を終え前橋基地へ凱旋すると、部隊ごとの会議に移ります。食事はその後です。

そこで隊長から、今日の戦死者が伝えられました。


 結論から言うと二人。一人は僕と同じ分隊の、一緒に切り込み役をした先輩隊員で、広島出身で、奥さんと喧嘩中の、だというのに僕に仲直りの仕方を教えてくれた先輩でした。

 もう一人は魔法主体の、僕の同期でした。大阪の軍事学校から入隊し、誰よりも今回の出撃を誇りにし、何よりも妹を大切にしていた男でした。


 死体は処理部隊が回収して家族に届けるとのことでした。泣いている人はいませんでした。代わりに深い黙祷だけが捧げられます。


 戦死したところを見たわけではありませんから、そこまで悲しみはありませんでした。どこか切り離されているようで、ただこの場に居ないだけと感じていました。

 それよりも僕は「次は自分かもしれない」という漠然とした恐怖というか、打算の方が強く働きました。あれだけ寝食を共にした仲間が死んだというのに。


 やはり僕は、冷たい人間なのでしょうか。



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