三章:仲間 - 壱

 



 魔境軍攻略師団一番隊は、俗に言う「捨て駒」でした。進行時は真っ先に敵地へ乗り込み、退却時は殿を務めます。死亡率が一番高い、替えの効く駒という事です。

 通常、魔力適正A判定の人間がこの隊に配属される事は無いらしく、四番隊から六番隊の制圧部隊に配属されるらしいです。


 一番隊の人たちからは、最初とても不思議がられました。決して嫌われていたわけではなく、好奇の目で見られただけです。

 むしろ、エリートがよく来てくれた、これで生存率が上がる、と喜んでさえくれました。


 全員が軍人学校を出ているので、その延長線上かと思ったのですが、実際に死地を経験した人たちからは、むしろ清々しさを感じました。明確な敵が外にいるからでしょうか。



 隊長は一言で表すと"熱い人"でした。切込隊長に相応しく、突進力と耐久力に優れた〈赤竜〉スキルで、道を拓き敵の注意を惹く達人でした。


 僕はすごく可愛がられましたし、一番隊は命の危険が高い分、とても優れたチームワークでした。

 陳腐ですが、家族みたい、という表現がしっくり来たと思います。副隊長は恥ずかしがり屋でしたが裏でよく皆のことを気遣ってましたし、最年長の陵介さんは武具の扱い方、魔物の弱点なんかを丁寧に教えてくれました。



 隊員は全部で二十四人、うち新人が僕含め五人でした。全員の出身地を言えるぐらいには、仲良くなったと思います。中には東北出身で家族や恋人を失った人も居ました。


 訓練はひたすら、基礎トレーニングと作戦行動の模擬です。戦場では判断力こそが生命線だと、あらゆる場合を想定した模擬を行います。

 互いのスキルや性格、能力などをより深く理解することも目的の一つです。



 入隊から二ヶ月ほど経つと、初陣の話が立ち上がりました。前橋方面の戦線を切り拓く役目です。

 戦線は、東はひたちなか、西は中部山脈を南に回って富山市あたりまで伸びています。

 魔物および魔族は北から侵攻して来ますから、日本は真ん中あたりでちょうど二分されてると言えます。


 作戦が伝えられると、隊の雰囲気は大きく変わります。ぴりぴりするとでも言いましょうか、訓練時の明るく熱い雰囲気とは逆に、それぞれが静かに物思いに耽ているようでした。


 僕は魔物と邂逅するのも、実戦も初めてですから、緊張はしていました。ただ、怖くはなかったと思います。実感がなかったのかもしれません。


 戦地へ向かう装甲バスの中では、何度も何度も繰り返し作戦を確認しました。

 手筈は、前線の前橋基地から四つの分体に別れて隠密行動し、斥候部隊の敵影情報を元に合流ポイントで落ち合います。


 規定の日時になったら隊長を含む分隊が敵基地に突入し、それを他の分隊がサポート、その後、あらかじめ身を潜めている制圧部隊がカタをつける作戦です。

 一番のポイントは、山岳地帯をいかに気づかれず、かつ正確に移動できるかです。もちろん敵の見回り部隊もいるでしょうから、見つからないように、場合によっては戦闘も覚悟します。


 僕は隊長含む切り込み役の分隊に所属します。他の中距離や補助の魔法、スキルを主力にするのに対し、僕たちのような前線で戦える隊員は隊長の分隊に回されました。

 初陣ですので、僕の役割は戦闘だけに限られています。最初は生き残ることだけを考えれば良いと隊長にお墨付きを貰っているので、その言葉に甘えました。



 前橋基地は、基地と呼ぶのも躊躇われるような様相で、例えるなら公園で行われるホームレスへの炊き出しとビニールハウスでした。

 魔物との戦いでは、一箇所に拠点を固定することはリスクなようで、戦況によって柔軟に位置や形を変えることができる戦術が好まれていたのです。


 遠目にですが同じ基地に、髪を短く切り揃えた琴海がいたのを見て、少し心が揺れたのを覚えています。

 作戦上は関わり無かったのですが、こんなにむさ苦しく、清潔感もなく、危険な場所に彼女がいること、自分の知っていた頃の琴海はもういないことに、なぜか少しショックを受けました。


 一晩と置かず、明け方前に作戦行動を取ります。暗いですが訓練と同じように、夜目の効くスキルを持つ隊員が先導し、合流ポイントへ急ぎます。


 二時間ほど休みなしで移動し、合流ポイント近くまで来ると、こちらに気付いていない魔物の小隊が居ることに気付きます。蝙蝠が人型をしたような不気味な格好で、三匹で行動していました。

 目的を考えれば無駄な戦闘は避けるべきですが、他の仲間も集まるポイントなので、万全を期したいのか、隊長は攻めるハンドサインを出しました。



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