第16話 オマケ裏話 待ち合わせ
ルリアは念入りに、身だしなみを確認する。
自室の姿見に写した自分の姿に、おかしなところは無いかとこれでもかと確認する。
チラリ。
壁掛け時計を確認すれば、もうそろそろ家を出なければいけない時間だ。
最後にもう一度、姿見に写した自分を見た。
水色のVネックセーター、その下には白地のハイウエストワンピースを着ている。
普段は背中に下ろしている髪は、左右を編み込みにして、後ろで緩く束ね、左肩から垂らしている。
髪にはワンポイントとして、黒地に黄色の糸で幾何学模様が入っているリボンを結んでいた。
メイクは派手すぎず、かと言って就活生がしているような地味目でもない。
「変、じゃないよね。
大丈夫だよね??」
念の為、よく遊ぶ友人に画像を送ってみた。
返信は直ぐにきた。
【大丈夫、可愛いよ!
なんなら、今日は私とデートするかい??】
友人からそんなメッセージが届いて、安心する。
友人からのデートのお誘いは、丁重にお断りした。
軽くお礼のメッセージを送って、ルリアは部屋を出た。
足取りは軽い。
家を出て、バス停に向かう。
今日はバイトではないので、祖母の送迎はない。
両親にはとても心配されたが、兄が防犯ブザーを渡してくれた。
スタンガンも渡そうとしてきたのには驚いた。
けれど、図書館に行くだけだけだから、そんな物騒な物はいらない、とルリアは受け取らなかった。
乱暴されそうになった日から、それなりの日が経過した。
男性が怖くなっても不思議では無い経験だ。
それこそ、兄や父に対しても恐怖心を抱いてもおかしくない経験だった。
けれど、ルリアは不思議なほどそれらの感情を抱くことはなかった。
理由は、ルリア自身がよく知っている。
バス停からバスに乗り、アルバイト先である喫茶店、その最寄り駅へ向かう。
座席に座り、思い描くのはこれから会う人物だ。
一緒に図書館へ行く約束をした、彼――ミカゲだ。
バスの窓に写った自分は、少し緊張した顔をしていた。
そして、やはり気になってしまうのは、変な格好をしていないかだ。
なるべく好印象を持って貰えるように、雑誌やインターネットで服を調べた。
なんなら、先程メッセージのやりとりをした友人と、服を買いに出かけた。
友人にアドバイスをもらって、服を購入した。
その時に、
「もしかして、彼氏でも出来た??」
そう聞かれた。
ルリアは、顔を真っ赤にしてそれを否定した。
「違うよ!そういうのじゃなくて、アルバイト先で知り合った人で。
今度一緒に、図書館行く約束しただけなの!!」
本当のことは、まだ言えなかった。
ミカゲ達のような、不良と呼ばれる存在が世間ではどのように思われているのか、知らないほどルリアも馬鹿ではないから。
それでもこの時、しどろもどろになりながらも、ルリアは心の中で彼とそんな関係になった時のことを妄想してしまった。
2人並んで、なんなら手を繋いだり腕を組んだりして歩く。
もっと色んな、くだらない雑談を楽しむ。
妄想の中のミカゲは、優しくルリアに微笑んで触れてくる。
ミカゲをよく知っている、ダイキやレイメイがいたら、
『誰だ、それ??』
と、素でツッコミを入れるくらい美化されている。
友人はとくに何も言わず、アワアワと誤魔化そうとするルリアを見て、ニマニマと幸せそうに微笑んでいた。
バスが、アルバイト先の最寄り駅である【紅月駅】のバスターミナルに入り、停車する。
待ち合わせの時間、五分前だ。
待ち合わせ場所は、駅の東口だ。
東口にたどり着くと、すぐに目的の人物を見つけた。
黒と金色の虎模様の髪。
服装は、灰色の薄手のパーカーに、黒のアウター、下はジーンズである。
地味めな服装ではあるが、彼によく似合っていた。
ルリアは小走りで、ミカゲのもとへと急いだ。
「あ、あの、すみません、お待たせしました!」
ルリアに声を掛けられ、ミカゲが彼女を見た。
一瞬、ギシッとミカゲの体が不自然に固まったように見えた。
「お、おぅ、じゃ、行くか」
「はい」
二人並んで、改札に向かう。
ここから電車に乗るのだ。
ちらりと、ルリアはミカゲの横を歩きながら彼を見た。
頭一つ分ほど、彼の方が身長が高い。
なので、見上げる形になる。
(うぅ、似合ってないのかなぁ。
ミカゲさんの好みに合わなかったとか??
それとも、意気込みすぎてるのがバレてドン引きしちゃったかなぁ)
ルリアは、不安になりながらもミカゲの横を歩く。
一方、当のミカゲはというと、
(……めっちゃ可愛い)
語彙力が欠如していた。
なんなら、【ルリア可愛い】で脳内が埋め尽くされていた。
こんな可愛い子が、自分のような荒くれ者の隣を歩いているなんて、夢のようだ。
ミカゲには妹がいるので、化粧やオシャレにどれだけ金と時間がかかるか知っていた。
見たところ、ルリアは薄らとだがメイクもしている。
一体、朝何時に起きたのだろう。
妹なんて、時には朝五時とかに起きてばっちりとメイクをしている。
今日だって遊びに行くからと、朝早くから準備していた。
身だしなみを整えるのはマナーだ。
とはいえ今日自分に会うために、ルリアがそういった準備をしてきてくれた、という事実にミカゲは自然と顔がニヤケそうになったのだった。
改札を抜け、ホームに入る。
すぐに電車がやってきた。
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