最後の夜

それからしばらくして、やはり眠れなくなった彼女は部屋の扉を開け、階段を降り、ポールのいる扉の前までやってきました。

「ポール、私は下に降りるわ。あの人が動き始めたの。もう彼のそばを離れたくないの。だから…ずっと、守ってくれてありがとう。あなたの事は、ずっと忘れないからね。」

そう言うと彼女は扉を開けました。

「私も、あなたに支えて幸せでした。」

とポールも答えました。

それが彼女と彼の最後の会話になったのでした。

そこから彼女は真っ直ぐ中庭へ向かい、雲の切れ間から見える月を見つめていました。

「もし、この夜が私にとって最後になるなら、せめてあの人と愛というものを感じてみたかったわ…」

彼女がそんな事を呟いていると、後ろの方から優しい声が聞こえてきました。

「どうやら、魔法が解け始めたようだね。」

彼女が振り返ると、そこには狼がいました。

彼は続けました。

「いつか来るとは思っていたよ。彼等がここに来た時、私は道案内をしながらこの瞬間が来るのではないかと考えていた。きっと彼女も本気を出してくるに違いない。そうなると我々もどうなるかはやはりわからない。お互い、後悔のないように生きようじゃないか。」

彼の言葉に彼女は答えます。

「私、後悔はしてない。あの人が守ってくれると信じてるから、私はあの人のそばにいる。それで最後が迎えられるなら、私はそれだけで幸せ。」

「…それが、愛というものだよ。」

狼は彼女が口を閉じた瞬間にそう言いました。

彼はこう言いました。

「我々動物の世界でも、人間の世界でも、一生を共にする相手に巡り会える事。そこに愛はあるんだよ。例え、死が二人を引き裂こうとも、その愛は永遠なんだよ。大丈夫。きっと二人ならどんな事でも乗り越えられるさ。」

そう言うと狼は彼女に背中を向けて言いました。

「私は私のやるべき事をやる。どうか達者でな。」

彼女は答えます。

「あなたが守ってくれていた事、私はずっと忘れない。ありがとう。」

その言葉を聞くと、狼はゆっくりと去っていきました。

それからしばらくの間、彼女はまた月を見つめていました。

「これで良かったんだよね。ただ、もしこれが最後なら、せめてほんの少しでいいから一緒に月を見たかったな…やっぱり私はわがままだな…。」

「…そんな事はねぇよ。」

その声に驚いて彼女が振り返ると、そこにはスタンがいました。

「すまねぇ。なんだか眠れなくてな。」

彼は照れながら言いました。

そして彼は顔を整えるとゆっくり口を開きました。

「魔法が解けるとか言ってたな。深入りはあまり良くねぇかもしれねぇが、良ければ教えてくれねぇか?もしかしたら力になれっかもしれねぇからな。」

彼の顔は真面目でした。その顔を見た彼女は、あの城に住む魔女との約束、そして近い内に彼女が何らかの形で動き始める事を伝えました。

「…なるほどそう言う事か。わかった。ならあんたは彼の側にいた方が良さそうだ。ひとまず俺はあの城を見張る事にするよ。彼は部屋にいる。扉は少し開けてあるからそれを目標にするといいよ。」

彼はそう言うと木の影に腰をおろしました。

「ありがとう。」

彼女はそう言うとハリーのいる部屋へと向かいました。

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