眠れない夜は君のせい

 それからしばらくしてすっかり夜も更けたので、二人はクリスタが用意してくれた部屋に横になって休んでいました。

少しして、スタンが口を開きました。

そして、あのお城で見かけた人影の話をしました。

「もしかしたら、その魔女があの城にいるんじゃないかと思うんだが、どう思う?」

と聞きました。

すると、ハリーがゆっくり話し始めました。

「もしかしたらそうかもしれない。ただ、もう少し様子を見てみたい。そしたら、何かわかるかもしれないから。」

その答えにスタンは返しました。

「お前、あの子をどう思ってるんだ?」

やはりスタンはハリーとクリスタの関係が気になっていたようです。

ハリーはこう言いました。

「きっと、彼女は寂しかったんだと思う。子供達を助けるには彼女を助ける事が必要だと思う。僕は彼女を助けたいんだ。」

珍しく口数が多いハリーに少し驚いたスタンでしたが、ハリーの気持ちはちゃんと伝わりました。

「…わかった。そしたらお前は彼女のそばにいてやれ。俺は時間をかけてこの城の謎を解いてみる。大丈夫。俺たちならあの子も子供たちも助けられるさ。」

そう言うと、スタンは眠りにつきました。


それから、どれくらい時間が経ったでしょう。


ハリーが目を覚ますと、部屋の中は月の光でほんのり明るく照らされていました。ふと窓辺に向かい、そこから中庭の方に目をやると、そこには庭の真ん中にたたずむクリスタの姿がありました。

ハリーは静かに部屋を出て、クリスタのいる中庭へとやって来ました。少しの間、声をかけるのを戸惑いましたが、勇気を出して口を開きました。

「…眠れないのかい?」

その声に少し驚いたようにクリスタは振り返りました。そして、ハリーの顔を見ると、ほっと安心した顔をして、ゆっくりと口を開きました。

「今日、あなたが来た時からの事思い出してたの。もう長いことお客様なんて来たことがなかったから、良い一日だったと思ったわ。」

するとハリーはこう言いました。

「ここは素敵な場所だね。子供たちも楽しそうにしてた。」

彼女は微笑みながら返しました。

「ありがとう。あなたは初めて会ってからずっと嬉しい事を言ってくれた。私、本当に嬉しい。でもね…」

そう言いかけると、彼女は悲しそうな顔をして言いました。

「でもね、あの子たちもいつかは大人になる。子供はいつか大人になる。そんな事はわかってるのに…」

彼女の目には、涙が溢れていました。

「私、怖いの。大人になったら、あんな人達みたいになってしまうんじゃないかって…」

いつしか彼女を頬を涙が流れていました。

彼女の肩は小さく震えていました。

ハリーはそんな彼女のもとに歩み寄り、震える肩を手で押さえると、こう言いました。

「そんな事はないよ。僕はたくさんの大人を見てきたけど、みんな優しい人だったよ。」

そんな彼の言葉に、彼女は顔を上げました。

「…本当に?傷つけたりしない?」

そう聞くと、ハリーは続けました。

「本当だよ。君のお父さんもお母さんもみんな優しかったでしょ?」

彼女は静かにうなずきました。

すると、ハリーは彼女を優しく抱きしめてこう言いました。

「大丈夫。例え悪いヤツが来ても、僕が君を守るからね。」

その言葉が届いたのか、彼女の肩の震えはおさまり、冷たかった彼女の体はほんのり温かく感じました。ふと彼女はハリーの顔を見上げました。その顔は何故かさっきよりもほんの少し大人になったような気がしました。

「ハリー君、あなたがここに来てくれて本当に良かった。私、あなたの言葉を信じる。だから、もう少しだけ、このままでいさせて…。」

彼女はそう言って彼の胸にそっと甘えました。彼は何も言わず、ただそこにいる、少しずつ大人になろうとしている彼女を優しく抱きしめるのでした。

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