クリスタの願い

「私はただ、穏やかに暮らしたかっただけなの。」

彼女は下を向いたまま、そんな事を言いました。

すると、ハリーが彼女のそばにそっと寄り添って、

「僕、君を助けたい。」

と言いました。

その時スタンはやはり、あの凍ってしまった子供達の事が気になって仕方ありませんでしたが、ハリーはスタンに、今は僕に任せてとサインを送りました。狼もそれを何も言わず見ていました。

すると、彼女は顔を上げて言いました。

「あなたはどうしてそんなに優しいの?」

ハリーは答えました。

「それが、僕のやるべき事だと思ったからだよ。」

彼女はそれを聞いて、今までで一番優しい顔をして言いました。

「あなたがここまで来れた理由も、来てくれた理由も、わかった気がするわ。あなたは本当に優しい心を持っているのね。ありがとう。私嬉しい。」

そう言って彼女はニコッと笑いました。

それを見たハリーはちょっと照れてしまいました。

そんな二人のやりとりを見ていたスタンと狼は、お互いの顔を見てうなずき合いました。

しばらくすると、子供達がクリスタの周りに集まってきて、もうお昼になる事を知らせてくれました。彼女は笑顔でうなずくと、みんなでごはんの用意をするようにと言いました。すると、子供達は大食堂の方へ走っていきました。

それを見ていたスタンが彼女に聞きました。

「ここでは、身の回りの事は子供達に任せているのかい?」

すると彼女は答えました。

「ここには大人なんていないの。だから身の回りの事は子供達に任せているの。みんなが力を合わせて色んな事をしているのよ。」

彼女は走っていく子供達を見ながらそう言いました。

そこへ狼が口を開きました。

「ここでは一番上の子が下の子に色んな事を教えてあげるんだよ。ここには昔食事を作ったり、お掃除をしたりしていたお手伝いさんが料理の事やお掃除のやり方なんかを書いた紙があって、それをお手本にしてみんなが見よう見まねで始めたのさ。子供達にとっては教科書みたいなもんなのさ。」

話を聞いた後、スタンは

「なんて素晴らしい場所なんだ…」

とつぶやきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る