道則

次の日の朝、三人は荷造りを終わらせて、村の仲間達としばしのお別れをするのでした。みんな笑顔で見送ってくれましたが、中にはやっぱりちょっと寂しくて泣いてしまう人もいましたが、必ず帰ってくるというチョウの言葉と、それを信じる仲間達が優しく背中を押してくれたのでした。


さて、ここから北にあるノースフロンティアまでは最低でも歩いて3日はかかる場所にあります。それにはちゃんとした理由があります。チョウが作った村にはどちらの国の元兵隊もお互いに協力し合いながら住んでいて、村へはその中でも生命力がある人達だけが辿り着くことができるのですが、その道中には途中で息絶えてしまった人達が雪と氷の中で静かに眠っているのです。人々はその一本道を「シカバネロード(死者の道)」と呼び、誰もが通ることを恐れているのです。なぜなら、その道を通るには、強い生命力と清い魂が必要で、地位や名誉やお金の為にその道を通ろうとすると、誰一人として出ることができないとても恐ろしい道なのです。その為、チョウは武器を捨て、地位や名誉やお金をも手放して、ありのままの姿でこの道を通り抜け、その先に村を作ったのでした。つまりは武器を持ってチョウの村へ攻め入ることは絶対にできないのです。


そうこうしている内に、三人はシカバネロードの入口にやってきました。目の前は大きな森の入り口で、人一人が歩けるほどの狭い道が遠くまで続いています。雪と氷は高く積み上がっていて、よく見ると息絶えた人達の影がうっすらと見えるのです。チョウは入り口でその魂達を鎮める為のお祈りの言葉を述べると、長い一本道を奥へと進んでいきます。ハリーとスタンも彼の後ろについて一列に歩いていきます。


どれほどの時間が経ったでしょう。

いつの間にか辺りは段々暗くなってきました。しかし、狭い道はまだ続いています。このままでは道の途中で夜を迎えてしまうかもしれません。ですが、チョウは足を止めることはしないのでした。

「チョウ、この道はどこまで続いているんだい?」

と、スタンは聞きました。

すると、チョウは言いました。

「大丈夫。このまま行けばあと少しで抜けられるはずだ。」

そうして彼はただただ前へと進んでいきました。

すると、突然ハリーのネックレスが赤く光りだしました。ハリーは驚いて足を止めました。するとどこからか声が聞こえてきました。


「おお、これは愛と勇気の光だ…」

「この時をずっと待っていた…」

「ああ、私の心が癒されていくようだ…」


そんな声を聞きながら、チョウはハリーに言いました。

「これは道の途中で息耐えた者達の声だよ。みんな君のような愛と勇気を持った者が通るのをずっと待っていたんだ。声を聞いてごらん。みんな喜んでいるよ。」

ふとハリーが前を見ると、白い何かがそこにいるのが見えました。それは愛と勇気を持った者をずっと待っていた魂達の姿だったのです。すると、チョウはハリーに言いました。

「心配するな。彼等は君を歓迎してる。進もう。」

そうして彼はまた前へと進みだしました。ハリーとスタンも同じように進みだしました。すると、目の前にいる白い魂達は、三人が通る手前で一人ずつ消えていくのです。それはまるで再会を喜んでいるかのように、白くて心地良いそれはその一つ一つが何か大切なものにも感じました。いつしか最後の一人が三人を見送った時、目の前には小さく森の出口が見えてきました。そして三人は遂にシカバネロードを通り抜けることができたのでした。

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