第8話 男としての責任
余所見なんて“逃げ”はせず、本心を持って俺は星崎さんの言葉には応えられないと伝えた。
「「…………」」
お互い数秒の静寂だと言うのにも関わらず、それがあまりにも長く、永遠に続くのではないかと疑ってしまう程に今の空気は最悪であった。
「え……それって?えと…なん、なの?どういうこと?」
最初に地獄のような静寂を破ったのは星崎さん。
信じられないくらいの動揺と混乱で顔が真っ青になりつつも、まだ自分の聞き間違いだという可能性に掛けて来たみたいだ。
「その言葉の通り、星崎さんの言葉じゃダメってことさ」
俺は冷静に。そして、的確に言った。
その言葉がどれ程彼女を苦しませると分かっているのに。
「あー、はは。えっとね?」
作り笑いをして、何とか平常心を保とうとする星崎さんだが……どうやら無理だったようだ。つい先程まであんなにも自信に満ち溢れていた可愛い顔が今では“絶望”に変わり……その数秒後につぅーと涙を流し始めた星崎さん。
可憐に咲く美しい花がただの陰キャのせいで台無しである。
「な、なんで、なんで、なんで、なんで!?
え、えっ!?わ、分かってるのッ?あなたは私の裸を見たのよ!?責任はどうするのよ!出来ることならなんでもやってくれるってあなたは言っていたはず。あれは嘘だったの?」
「…………」
俺は泣き出す星崎さんにくるりと背を向け、口を噛み締める。更に拳を強く握り、馬鹿なことをした自分をぶん殴ってやりたくなる。……いや、後で必ず実行することだろう。そうしないと自分で自分を許せないからだ。
「ねぇ!」
「──あ……っ」
俺は突然、後ろから星崎さんに抱き着かれつい声が漏れた。恐らく……どうしても、どうしても嫌なのだろう。離れたくないのだろう。行って欲しくないのだろう。絶対に俺を逃がさないという覚悟と気概が背中から感じられた。
「ねぇ、答えて。お願い。玄くん……っ。どうしてなの?私は嫌だよ。もう、離ればなれになるのはッ!」
彼女の──星崎 千秋の言葉の全ては、鋭い刃へと変化し、俺の心を強く抉る。俺の最弱なメンタルでも流石にそろそろしんどい。否、崩壊寸前である。
それに……初めての名前呼び。それにキュンと来ない男子は存在しない。だけど本当にこれだけは絶対に譲れない覚悟があったのだ。例え星崎さんの涙を見ることになってもだ。
タイミング的には今しか無い。 これを逃したら、俺は本当にクズ野郎に成り下がってしまう。今でもその瀬戸際だと言うのに、自分で自分を追い込み逃げ道を無くした。
……だけど、そうでもしないと自分的に踏ん切りが付けられなかったのかもしれない。
「っ……」
こうなることが分かっていた上で、覚悟を決めて来たはずなのにいざって時に上手く言葉を並べられなくて星崎さんを困らせてしまった。
だけど、星崎さんの気持ちは充分に理解出来た。だから──俺も男を見せなければならない。
「星崎さん……いや、────────千秋ッ!」
俺は“千秋”だけを見て、“千秋”だけを考える。
そして、ありのままの気持ちを伝える為に口を開いた。
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