第5話 俺の覚悟と責任


 あのパラダイスのような幸運な一時から1週間が経過した。俺はその間ひたすらに考えを重ね、男としての覚悟と責任を果たす為に気持ちを高めて今日登校した。


 最近では星崎さんからの視線がよく向けられていると肌で感じるようになった。まぁ、星崎さん自身から話しかけて来たり、催促してくることは無いんだけども、無言の圧力と言うやつだろうか……そういうのを時折感じるのだ。


 「いつでも大丈夫」とは言っていたけど、本人も1週間も待たされるなんて思っても無い事だろうしね。


 うん、本当に申し訳ないと思ってる。


「あ、星崎さん……」


 つい声を出してしまうが、いつも通りの圧倒的な可愛さを持つ星崎さんが登校して来た。


 周りは彼女の登校に歓喜し、いつものように陽キャ達が迎えに行く。その他のモブ達は傍観者のように見守る。今思うと滑稽でくだらないいつもの空間だった。


 あれ?でも、時間的にいつもより随分と登校が遅い様な気がした。っ……と?多分寝坊とか、忘れ物とかで朝からバタバタと動いていたのだろう。額に浮かぶ汗を見て、相当焦っていたことが見て分かった。


 最近の星崎さんは特に集中力が落ちて来ているような感じがする。授業ではよくボーっとして先生に注意を受けているし、体育では常にエース的なポジションだったのに実力を全然発揮出来ていなかったり、小テストでも久しぶりに100点を取れなかったらしいし。


 原因は……まぁ、間違いなく“俺”なんだろうな。

 なんて自画自賛が過ぎて正直恥ずかしいが、現実的に考えればそうなのだ。


 ──俺が全然答えを出さなくて、星崎さんの集中の妨げになっているのだ。


 っ……でも、俺にとっても星崎さんにとっても。これは大事な事だったんだ。多少の間が空いてしまったのも、致しがた無いと大きな器をもって受け入れて欲しい。


 罵倒&ドロップキックなんて食らう事になっても……

 ぐっ、甘んじて受け入れる覚悟はあるぞッ!


 だから、遅くなったけど今日は星崎さんに答えを伝えに来た。そこで自分の覚悟と気持ちを全部伝えるつもりだ。


 ☆☆☆


 ──昼休み。


 俺はタイミングを見計らっていた。

 朝だと早すぎるし、放課後だと会えない可能性がある。

 つまり、タイミング的に言えばこの昼休みがジャストチャンスだと言えよう。


 星崎さんはまたいつもの陽キャメンバーに囲まれ、昼ご飯を食べようとしていた。もちろん教室の真ん中で、大声で話し合いながら周りのモブなんてお構い無しに。


 まぁ、これも。いつもの光景だ。なので気にせず星崎さんを見ていると、


「…………っ、ふぅ……………………ぁっ!?」


 星崎さんを見つめて数秒後、星崎さんと目が合った。

 その瞬間、思考よりも先に身体が反射的に立ち上がり、思考が上手く回らない内に真っ直ぐに星崎さんの元へと身体が動いていた。


「あの……」


 そして思考が身体に追いついたのと同時に、俺は星崎さんに声を掛けていた。


 俺は日中のクラスメイトが大勢いる状況の中、陽キャに囲まれる星崎さんに平然と声を掛けた。誰もが憧れ惚れる星崎さんという人目置かれる人物に平然に。自然に。


 それはどう見ても不可思議な状況だった。

 陽キャたちの張っていたデッドリーゾーンをいとも容易く突破し、一般ピーポーの冴えないモブが“美少女”と拝める姫に平然と声を掛けたのだから。


「は?なんだよ、キミ」


 愉快な話を突然中断されたからか、イラつく陽キャ1。

 まぁ、名前なんて元から覚えてないけど。

 それに俺は星崎さんの事しか今の頭の中には無かった。だから、陽キャたちに思考を巡らせる余裕など無かった。




「星崎さん?」

「は!はい!?」


 数回話し掛けようやく反応して貰えた。突然の俺の行動に明らかに動揺した美少女の星崎さん。まさかこんな時に話し掛けられるとは──という驚きの表情。


 くっ……可愛い。

 という気持ちをグッと内面で押し堪え、無難なポーカーフェイスを保ちつつ俺は要件だけを明確に伝えた。


「──今日の放課後に大切な話があるから2人の馴染みの部屋に来てくれない?」


 今思えば発狂したくなるようなキッショイ言葉選びだったと思う。だけど、あの時の俺は少々緊張で舞い上がってしまっていたのだ。だからめんどくさい遠回しな言葉を無骨に選んでしまったのだ。


「…………っ、はい」


 突然のモブの意味アリげな言葉、そして星崎さんの脈アリな反応にザワつくクラス。当たり前だろう。人物が人物ということもあるが、誰だってその言葉には反応してしまう。


 更に、星崎さんは性格もよく器の広い完璧美少女なのだが、こういう恋愛ごとに関してはもっぱらタブーだった。


 それは高校一年生の時、星崎さんに最初に告白した男が想像以上の振られっぷりから自信を無くし、男しか愛せなくなったことから始まる。



 うーん?

 どうして俺はこんな人目に付く時に大胆に言ったのか、分からない。ただ何となく、自分の覚悟を明確に星崎さん含め全員に示す為だろう。




 その言葉をきっかけに、何故かクラスは一日中ザワザワしていた。星崎さんに告る人物はそれでもごく稀にいる。だが全てが軽く流され、告ることすら出来ない人もいる。そんなレベチの星崎さんが脈アリな雰囲気を醸し出した為だろう。


 仲の良い友人や陽キャが俺に珍しく声を掛けてきたが、俺はなるべく話を誤魔化して深い言葉は話さなかった。

 星崎さんも珍しく終始無言だったが……何処と無く嬉しそうだった。





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