第2話 武闘派系美少女?

「うっ……」


 夢の中に永遠と流れる映像……

 うーんっと、これは自分の記憶なの、か?

 ってことはこの2つの立派なお山は…………


「おっぱ──」


 そこで夢という空想が強制的に終了し、現実へと引き戻された。






「──は!?」


 気付いた時には俺はベットの上で寝かされていた。

 天井の壁を見るに、ここは旧校舎では無く新校舎。しかも保健室のようだ。


 すると、すぐに。


「変態、キモッ」


 ……という俺にだけしか聞こえない辛辣な声で、ぼそりと呟いた一人の人物が居た。


 もしかて口に出していた?と焦りながら隣を振り向くと、俺は更に冷や汗をダラダラに垂らすことになる。

 何故なら、隣にいたのは……茶髪のショートカットで整った顔立ち、ぷるんと光る唇、キリッとした目付きの美少女が冷めた目でこちらを見つめていた。


 ま、間違いない。この子は俺のクラスメイトの……

 って、そんなことはどうでもいい。

 彼女の事よりも、全身に急激に走った痛みが俺を襲った。


「……痛ってぇ!」


 どうやら俺は彼女のドロップキック会心の一撃のせいで顔面を強打し、気絶。保健室まで運ばれて来たようだった。どうしようも無い痛みに保健室のベットでゴロゴロと転がる俺。


 数十秒、痛みに慣れるまでうなされるのであった。







「ふぅ……」


 ようやく痛みに慣れ、落ち着いた俺は周りの状況を確認してみる事にする。


 今の所、保健室に先生はおらず、俺と彼女の2人っきりの状況で彼女も流石に服を着て制服いつもの姿だった。



「──って、人の寝言を勝手に聞かないでもらいたいね!」


 そう言えば、変態という言葉に引っかかっていた俺は重要な第一声をつまらないことに使ってしまった。まぁ、コミュニケーション能力の乏しい俺は今一番気になっている事しか言えないつまんねー人間なのだ。しょうがないと思ってもらいたい。


 だけど、この第一声は案外良かったのかもしれない。


「いや、あまりにも大きな声で寝言を言っていたようで、耳を塞いでても聞こえたと思うけど」

「あ、そうですか。すいませんね」


 この高校に来て“初めて”話す彼女とここまでの会話を繰り広げるとは予想できなかったからだ。


「へへ、」

「何よ、ヘラヘラして。正直、気持ち悪いわよ」

「いや別に、悪気があってこの表情を作っている訳じゃないんだけどつい無性に感情が表に出てくるんだ。しょうがない事なんだ。男として生まれながらに持っているサガなんだ!」


 彼女を見ているだけで、あの……産まれたままの、ありのままの姿を思い出してしまう。そして興奮してしまう。


「キモイ」

「う、ぐ!」


 中々の辛辣の言葉に、精神ダメージを食らう俺。でも、それも案外悪くは無いかもしれない。


「でも、しょうがないだろ。あんな所で着替えてるなんて普通は分からないからな」

「逆ギレ?言っとくけど、あの場所は私の秘密の隠れ家的な場所なの。だから私が何してようが関係ないじゃない!それであの時は部活で沢山汗をかいちゃったから着替えてたのよ!」


 いや、問題あるだろ。旧校舎だって言ってもその場所は学校のもんだろ?……というツッコミを入れたかったが、今の彼女に何を言っても逆効果、火に油なのでやめておく。


 って、あれ?

 普段のクラスの中だと、清楚系クールキャラとして定着し、男子の大半は彼女を恋愛対象として見ているというモテモテの女の子なはずなのに。本性的なものをさらけ出す彼女を見るとすっかり頭の中でのキャラはアップデートされてしまうもんなんだな。


 今じゃ、口悪な美少女にしか見えないや。


「──それで、俺に裸を見られてどうするんだ?記憶を抹消するために俺をぶっ〇しにでもするのか?それとも優しく半〇し?」

「はぁ随分と発想が物騒ね。そんなのしないわよ。だって私にも非がある……っていうのは分かってるもの。それに思いっきりドロップキックしちゃったから物理攻撃はこれだけで十分よ」


 お、案外お優しいな。と思ったが、普通女の子がドロップキックなんてしないよな?案外武闘派系美少女なのかしら?


「じゃあ、どうして俺を待ってたんだい?それだけ言う為に待ってたの?」

「まぁ、それもあるのだけど──」


 ん、なんだか彼女の顔が唐突に火照り出したみたいだ。

 どういう状況?誰か説明プリーズ。


「なにか、話があるの?」


 彼女はこくんと頷いた。

 先程まで殺意マシマシの悪役令嬢のように怖可愛い状態だった彼女。だけど今の彼女は正しくヒロインその者のようだった。


 まぁ、彼女に非があるとしても。俺だけ得したということに変わりは無くウィンウィンでは無いよな。だったら、俺に出来ることとすれば……


「俺に出来ることがあったら何でもする。それで勘弁して貰えないかな?」


 俺という尊厳を保てるギリギリまで、彼女の要望に応えてあげることにした。それが彼女の裸を見た“責任”と言えば軽いかもしれないけど、それぐらいしか俺には考えられなかった。


「え、何でも?」

「ん、何でも。まぁ、〇ねとかは流石に容認しがたいけど」

「私をキレ狂う悪魔だとでも思ってるの?そんなのしないわよ。範疇を超えないような事を言わせてもらうわ。せっかく貰った言質を無駄にするのも癪だし」


 ?


 何か言葉がおかしかったような気もするけど、先程まで顔が真っ赤だった彼女はニヤリと笑を零した。

 そして、一言。俺に言葉を送った。


「──責任、取って貰うからっ!」

「は?え、ど、どういうこと?」


 責任は勿論取るつもりだ。

 あまりにも要望が抽象的だった為、動揺してしまっただけだ。


「……っ、分かってるわよね?」

「んん?何が?」


 ゴクリと唾を飲み込んだ彼女は覚悟を決め、俺に高らかに宣言した。


「ぉ、お、女の子の裸を見たんだから、男として責任を取って彼氏に……いや、私をお嫁さんに貰ってもらうんだからッ!!!!」

「────はぁっ!?」


 まるで、芸人のツッコミ担当かのような音速のスピードで俺は驚愕の声をあげた。


 それが俺と彼女……星崎ほしざき千秋ちあきとのあまりにも奇跡的でパラダイスな出会いであった。


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