第46話 松枯れ
「ねぇおにぃ、これなんの印?
森を歩いていると、松の木の地面から1メートルほどのところにラベルが貼られているのが目に付く。日付や60mlとかいう意味のわからないことが書いてある。
「ああ、それは松枯れ防止剤を注入したという印だな」
「ヒラメの仲間?」
「それはマツガレイだ。うまくねぇよ」
「おいしかったよ?」
「そういう意味じゃねぇ……ってどこで食った?」
「まあ、それはいいから」
「俺は食ったことないのにこんちくしょ。少し昔のことだが、日本中で松枯れが大流行した。日本の松は絶滅するとまで言われた時期があったんだ」
「そこまで?!」
「松林ってのは日本風景の象徴だ。それが絶滅しかかったんだ」
「なんでまた?」
「最初は松の木につくカミキリが原因と言われていた。松食い虫なんて呼ばれてたな」
「じゃ、殺虫剤を直接かけふ?」
「古いなおい。ところが真犯人はそいつじゃなかった」
「誰だったの?」
「マツノザイセンチュウというそれまで日本にいなかった小さな虫だ」
「そんなん手でプチッと」
「それが長さで1mmあるかないかぐらいの線虫でな」
「せんちゅうって、なに?」
「半透明で小さいミミズみたいなものだ」
「ひえぇぇ。ガクガクブルブル」
「だから慣れろってのに」
「細長い生き物とは親戚づきあいはできない」
「せんでいい。それを運んでいたのがカミキリだったというわけだ」
「カミキリがブツの運びやですか、ボス」
「誰と話してんだ。カミキリの中には1万匹ぐらいの線虫が」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
今1.2m飛び退いた。記録更新です。
「その線虫被害を防止するクスリを定期的に注入しているんだ。そのラベルには注入した記録が書いてある」
「じゃもう安心ね」
「完全じゃないけどな、それにクスリは1本3,000円はする。しかもそのサイズだと4本は必要だろう」
「え?」
「この森にはどれだけの松があるんだろう。それを3~4年に一度打つ。地方財政にとって相当なコスト負担になっているはずだ」
「松の木って売れないよね?」
「売れないな。虫に弱いから材木には適さない。樹脂が多いからよく燃えるが、そんな燃料の需要はほとんどないし」
松は経済植物ではありません。松に使うクスリは利益を生まないただのコストです。でも景観のためにそれをやり続けている日本という国を、私たちは誇って良いと思います。
ちなみに線虫に耐性を持つ木もあり、それに接ぎ木をすることで松枯れ対策とする活動もあります。
「ああっ!?」
「な、なによ、急に大きな声出して」
「妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!」
「そんな無理してまでタイトルをぶっこまなくても」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます