第45話 株が上がった

「ヒマだね」

「ああ、ヒマだな」

「ヒマなんだよなぁ」


「「ってお父さん親父がなんでいるの?!」」


「今日から3連休だって言っただろ」

「そ、そっか。でも3連休で全部休めるなんて珍しいね」

「うちの会社も新コロのおかげで生産を縮小しててな。スタッフも出勤するなって言われた。調査したいことが一杯あるんだけどなぁ」


 めったにいない親父が家にいる。連休を全部休めるとは、コロナウイルス恐るべし。


「だもんで、ヒマだ」

「お父さん、そういえばこの間のカッパ寿司の株、買えたよ」


「ああ、あれか。そういえば買ってもらったんだったな。優待はしらべのものだからな。ちょっと見てみるか……あれれ?」


「優待は6月だってね。楽しみにしてるよ。ありがとう、お父さん……どうしたの?」

「おいおい。もう4万円も上がってるじゃないか」


「日経平均は下がってるのに、カッパ寿司は強いな。さすがディフェンシブ株だ。親父の慧眼には恐れ入ったよ」

「おい、これ売ろう!」


「待てこら!! 慧眼と言った俺の発言を返せ! 優待をもらうんだろが」

「いや、しかしもう4万円もの利益が出てるんだぞ」

「優待+配当に換算すると6年弱分か。もう売ってもいいじゃない?」


「俺の味方はなしかよ。優待銘柄ってのは、ずっと保持して長く利益をもらおうってものじゃないのか。短期で売買を繰り返しても、儲かるのは手数料商売の証券会社だけだぞ」

「しかしだな。もう4万円の儲けが」

「うんうん。私もすぐもらえるなら、それに越したことはないし」


「親子そろって投機筋になりおって。株式投資ってのはそんなもんじゃないだろ」

「じゃあさ、利益が5万円になったら売らない?」

「だから、そういうことは考え」


「そうしよう。5万の利益になるところで指し値注文を出しておくぞ。かちゃかちゃっとな」

「あぁあぁもう、マジで注文出しおった。でもそれ直近の高値じゃないか。このコロナ不況の中でそこまで上がるかな?」


「だから、上がらなければ諦めて保持すればいい。上がったら売ってしまおう」

「うぅむ。腑に落ちんがそれなら仕方ないか」

「うんうん。そうしよう」


「それで、売ったらどうするんだ?」

「その金で吉野家の株を買おう」

「なんだそれ?」


「ほんとは吉野家が欲しかったんだよ。だけど、そこまでの金がなかったんだ。それで買えそうで優待のあるやつを探してたら」

「あのカッパ寿司だったのか。ファンダメンタルとかチャート分析とか、関係なかったんか」


「そんな面倒なことするか。ぐぐったらカッパ寿司なら充分買える株価だったんだ。じゃ買え、そんな感じ?」

「じゃ買え、じゃねぇよ。俺の慧眼を倍にして返せ! しかし、吉野家はカッパ寿司の1.5倍ぐらいしてるぞ。仮に売れたとしても資金が足りないけど、どうすんだ」


「そりゃ言い出しっぺが損失補填よね?」

「損失は出てねぇよ、知ったかすんな。足りない分は親父が出すってことだな?」

「にゃにゃにゃにゃにゃ」


「お父さん、なによそれ」

「そ、そうだ。利人ももうじきバイト代が出るだろ。お前が半分出すということにしよう」

「にゃにゃにゃにゃにゃ」


「おにぃも同じようにもう……。兄も父も、ろくなもんじゃないね?」

「タイトルが変わってんぞ?!」

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