第43話 悲報と朗報と

「悲報!」

「またそれかよ。今度はなんだ?」

「楽天ショップ、冷凍ものは無料対象とならず」

「ああ、例の業務スーパーか。クール便は高いから妥当なところだろうな。でも、他のとこはだいたい無料になっただろ?」

「無料になったところ多いね。でも肝心の冷凍ぎょむさんは、結局8,000円以上買わないといけないのよ」


「そこは変わってないわけか」

「だから、冷蔵庫を、ね?」

「いや、それを俺に言われても。おとんには言ったのか?」

「おとんは冷凍庫に入るだけ買えばいいだろうって」

「送料ぐらいは負担してやるってことだろ」

「家計を預かる身としては、送料が気に入らないんだよなぁ」

「お前は主婦の鏡かよ」



「朗報!」

「今日はいろいろあるんだな」

「先日買ったカッパ寿司の株」

「どうなった?」

「もう3万円も値上がりしてる」


「おおっ。それは良かったじゃないか。いずれもとの20万円ぐらいに戻るだろう」

「もう売っちゃおうかなって」

「それは止めろ!」


「いま売れば30,000円も儲かるよ。たった3日で」

「ダメだ。ああいう銘柄はずっと持ち続けて、優待と配当をもらってほくほくするんだよ」

「ああいう銘柄って?」


「年に2回×3,000円分の優待と配当がもらえるんだ。配当も入れたら年率換算で7%にもなるんだぞ」

「年7%ってすごいの?」

「お前な。銀行の金利がどのくらか知ってるのか」


「マイナス金利、ってなんかのニュースで見た。銀行に預けておくと貯金が減ってしまうという悪魔の所業でしょ」

「銀行金利はそこまで下がらねぇよ。マイナス金利ってのは、民間の金融機関が、日銀に預けてもらえる金利のことだ」


「な、なにが、なにして、どうなった??」

「えっと。16銀行が余剰資金を貯金すると思え」

「なんでうちの貯金が入っている16銀行が、また貯金をするん?」


「銀行間での決済をするためだ。金額がべらぼうにでかいので、信頼のおける銀行に資金を預けておいて、そこで決済するんだよ」

「ふ、ふぅん」


「信用のおける銀行といえば、ぶっちゃけ日銀しかない」

「ふむふむ。あの有名な」


「そう、お前でも知っているあの日銀だ」

「日本銀がみ製作所ね」

「また古いネタを引っ張ってきたな、おい」

「youtubeで見た」


「またそれかよ。マンガだけじゃヒマが潰しきれないようだな」

「大学に入るとずっとこんな長い休みがあるのね。人間がダメになりそう」


「ずっとじゃないけどな。春休みが長いのは確かだが。お前はすでにダメ……いや、なんでもない」

「なんか気になることを言いかけなかった?」

「気にするな。でな、日銀の貯金金利がマイナスになると、銀行が預けている金はひたすら減って行くことになる」

「そりゃそうだよね」


「それが嫌なら、貯金なんかせずに投資先を探して金を動かせ、っていう金融政策なんだよ」

「そういうことだったのか。なんかすごい嫌がらせっぽい」

「嫌がらせ言うな。政策だっての」


「お金なら私が動かしてあげるのになぁ」

「それで景気が良くなるのか?」

「私がケーキをいっぱい食べられる!」

「……それ、たいしてうまく言えてないからな。それと、デブになるぞ」


「うがぁぁぁ」

「楽して稼ごうとすんな。中肉中背の妹よ」

「分かったよ。モテるくせにすぐ振られる兄よ」


「俺のことは放っておけ。で、分かったか?」

「えっと。なんだっけ?」

「もう忘れたのか。せっかく手に入れた毎年7%もの金を生む株だ。売ったりしたら大損だぞってこと」


「あ、そうか。目先の利益に惑わされちゃいけないのね」

「こんな風に暴落することなんて滅多にないからな。優待銘柄ってのはこういうときに買うものなんだ」

「いま売ると、だいたい30,000円の儲け。でもそのぐらいは優待と配当? で5年目には元が取れる……なるほど。持っていたほうが得だね!」


 今回は物わかりの良い妹で重畳である。でも、妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!


「どうしてよ!?」

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