第42話 しらべへのプレゼント

「悲報!」

「そのオープニングパターンまだ続けるんか」



「中国のどこかの村で洪水に襲われたんだって」

「ああ、良く聞く話だな」

「でね、取り残された人が電話で助けを求めたんだけど、2日経っても3日経っても誰も助けに来なかった」


「富裕層ならすぐ来たんだろうけどなぁ」

「それで頭に来たその人は、『習のどあほう、しねや!』とツイートしたの」

「気持ちは分からんでもないが」

「そしたら30分でやってきたんだって」

「それは良かった」

「逮捕しに」

「良くねぇな!」



「ところで、おにぃ」

「今度はなんだ?」

「ホワイトデーのお菓子をくれないとイタズラするよ?」


「別のイベントを混ぜるな危険! お前からチョコももらってないのに、なんでお返しがいるんだよ」

「私が食べたいから?」

「から? じゃねぇよ。シレっと欲望を全面に出すな」

「どうせ余ってるだろうと思ってさ。在庫処理してあげる」


「ぐっ。確かに余ってる。お返しする相手にブロックされてるもんで、連絡も取れなくてな」

「ほらね。そうだと思った。3つはあるよね」

「いや5つ……なんで知ってんだ?」

「3人は私の学校の子だから。他にもあったとは、なかなかやるなお主」

「おぉう」


 そこに夜勤明けのおとんが帰って来た。


「あ、お父さん、お帰り」

「親父、お帰り。今日は早かったな」

「ただいま。しらべも利人も学校がないとヒマそうだな」

「「そ、そんなことないよ?」」


「まあいい。それより、しらべ。頼みがある」

「うん? なに?」

「今度はこれを買っておいてくれ」


 そういってメモを渡した。


「なにこれ?」

「そのときの値段でいいから1枚だけ買ってくれ。俺はもう寝る」


「あ、ちょっとちょっと?! いきなりわけの分からない数字を渡されても?!」

「利人に聞けば分かる。ふぁぁ、じゃあな」


「ちょっと! お父さん、お風呂は?」

「起きてから入る。今日は眠い。じゃ、頼んだ」


「寝室に行っちゃった」

「夜勤明けで疲れてんだろ。そっとしておこう」

「だけど、これいったいなんの暗号? パスにしては4桁って少ないよね」


「これを買えって言ってたな……あぁ、そういうことか」

「なに、いったいどういうこと? おにぃには数字の意味が分かるの?」

「なんとなくはな。どれかまでは覚えてないが。ちょっとパソコンのところに行こう」


「ログアウトして、と。しらべ、おとんのアカウントでログインしてくれ」

「ほーい。おにぃはあっち向いてて」

「ほい」


「かしゃかしゃっと。入ったよ」

「じゃ、ブラウザを立ち上げて……あった、これだ」

「楽天証券?」

「そう、パスはおそらく……やっぱりブラウザが覚えてたな。それでこの番号を検索のところに入力する……7421と。ああ、なるほど。これか」


「なによ、自分だけ分かっちゃって。すっごい感じ悪い」

「そう言うな。これは、お前へのプレゼントだ。おとんにはチョコをあげたんだろ?」

「そりゃそうよ。世話になってるもん」


「俺にはなってないのかよ。まあいいけど。それで、これを買えばいいんだな……おおっ。すっげー。めっちゃ安くなってる!」

「それ、カッパ寿司って書いてあるけど。まさかそれを私にくれるっての? おとんて何者?! なんかとてつもないエージェント的な?!」


「悪の組織じゃねぇよ。株だよ株。1枚買えって言ってだろ? 1枚ってのは1単元のことで、カッパ寿司の場合は100株だ。今は1株1,550円だから100株買うと15万500円だ。先週までは20万以上してたのに、なにかの原因で下がってるんだな」」


「いいタイミングでホワイトデーになったものね」

「そっちはただのきっかけだろう。口座を見ると買い付け余力は22万か。これなら成行買いができる……ぽちっと。よし、買えたぞ」

「でも待ってよ。それおとんのアカウントなんでしょ? なんでそれが私へのプレゼントになるのよ?」


「ちょっと待ってな。どこかで優待が見られるはずだが……。あったあった。なるほど、3月末が権利発生日か」

「権利発生って?」


「3月末にここの株を持っていた人には、株主としての権利が確定するってことだ。株主優待がもらえるぞ」

「店に入るときに、すごく偉そうにできる権利?」

「そんなものもらってなにが嬉しいよ。カッパ寿司が3,000円分食べられるカードが送られて来るんだ」


「えっ!!! 3,000円分も!? それを私に?!」

「おそらくそういうことだろう。それも年に2回だ。おとんも粋なことしやがるな」


 あっ!? 親父が風呂にも入らず寝ると言ったのは、プレゼントをしたことが照れくさかったからか。まったくいい年して照れ屋さんだこと。


「うわぁぁ。嬉しいい!!! そうと聞いたら吉牛をまた食べたくなっちゃった」


「待てこら! 吉牛は関係ない。カッパ寿司だ、カッパ寿司。それも、もらえるのは6月の株主総会で承認されてから」

「まだあの割り引きセールををやってるから、おにぃ、また買ってきて」

「そっちに行ったのかよ!」


 また俺が買いに行くのか。妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!

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