第41話 カラ類

「おにぃ。私ね、食べたいものがあるの」

「なんだ?」

「君の膵臓が食べたい」

「怖っ! やれるかよ。恐ろしい小説ネタを持ってくんな」

「じゃあ、カモの肝臓で我慢しておいてあげる」

「しらべ。それフォアグラだから。家のような中流家庭で食べられるものじゃないから」


 つかみのあとは、いつもの山歩きである。


「むしろ、まくらと言って欲しい」

「落語じゃねぇよ」



「ツツピツピピツピ」

「鳴き真似か。それはヤマガラの鳴き方だ。あの枝に何羽が止まってるぞ」

「いるいる。青やらオレンジやら、派手な色のわりになんか地味な鳥さんね」


「キレイな鳥じゃないか。青い羽根にオレンジのお腹。頭は黒いが顔は白い」

「なんでかな、地味な感じがするのは」

「木陰にいると、あの色は目立たないんだよな」


「損してるねぇ」

「保護色になってるのかもな」

「タカとかに襲われないようにか、なるほどねぇ。それにしてもたくさんいるね」


「まだ群れを作ってるんだな。でも、良く見てみろ」

「ん? なにを?」

「あの群れにいる鳥。1種類じゃないだろ?」


「あの子たちに種類があるの? ヤマガラがいるなら、ヤマラガとかザキヤマとかヤラマガとか」

「こらこら。文字の順番を変えると、そのうちどれがほんとか分からなく……待て?! なんか全然違う芸人が混ざってないかったか?」


「お笑いでもヤロマイカ?」

「1文字余ってんぞ」

「ダメだ。なんか今日はボケの調子が悪い。頭の中が満たされてない感じ」


「そんなことで悩むなよ。お前の頭はシジュウカラ」

「やかましいわ! 誰の頭が常に空っぽやねん」


「ほら、ヤマガラにシジュウカラが混じってるだろ。混群(こんぐん)してるんだ」

「そうやって無理矢理に話を繋げたわけね。シジュウカラってどんなカラ?」

「割った卵みたいに言うな。ネクタイをしている鳥がいるだろ?」


「社会人なのか。これから出勤かな」

「ちげぇよ。模様の話だ。白い顔から下に黒い線が入ってるだろ」


「どれかな。あれかな。あれはヤマガラだ。他にいるのか……あっいたいた! 羽根がなんか緑っぽい子?」

「そう。青みがかかった灰色というべきだが、緑に見えなくもないな」

「あれでヤマガラの仲間なの? なんか全然違うね」


「色はまるで違うが、大きさとか体型なんかは良く似ている」

「そう言われればそのような。あの肝臓は食べられるのかな」

「そこから離れろよ」


 まったく。妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る