第40話 カモ、終わる
「悲報」
「なんだよ、いきなり?」
「大雨が降ったでしょ」
「ああ、一昨日ぐらいけっこう降ったな。この季節にしては珍しいぐらいだった」
「それ以来、カモさんたちが他人行儀に」
「そりゃまあ、他人だからな?」
「そうじゃないの。いつものエサ場に行っても蒔いても寄ってこないのよ」
しらべが受験休みに入ってから、カルガモたちへの餌やりはしらべがひとりで行くことが増えた。毎朝付き合うのはしんどいのだ、ネトゲ明けの俺にとっては。
「1羽も食べに来ないのか?」
「えっとね。私がばらまいている間、遠巻きに見てる」
「ふむふむ」
「で、ばらまいてそこから離れると、やってきて食べてる」
「しらべが警戒されるようになったのかな」
「警戒されるようなことした記憶はないけどなぁ」
「ちょっと早いが、繁殖期に入ったのかも知れない」
「子供ができたの?」
「メスは卵を抱いているかも知れない。エサをとりに来るカルガモの数は減ってないか?」
「あ、そういえば。多いときは15羽にもなったのに、最近は8~9羽ぐらいしかいないね」
「ってことはオスだけで群れを作ってる可能性があるな。オスのほうが警戒心は強いから、それで寄ってこなくなったのかも知れない」
「お父さんが臆病でどうするよ」
「野生で生きて行くには臆病ぐらいでちょうどいいだろ。でもお腹が空いてれば、そんなこと忘れて飛びつくはずだから、暖かくなってエサが増えたのも理由だろうな」
「ああ、もう私なんか用なしになったのね、鬱だしのう」
「イキロ。そのうち雛を連れて泳ぐ姿が見られるかも知れないぞ」
「雛があとを付いて泳ぐ姿か。ひと目でいいから見せて欲しいなぁ。エサ代だってバカにならないのに」
「エサ代は俺の金だけどな。ただその頃にはお引っ越しをして、この池からはいなくなるかも知れないが」
「持ち上げたり落としたり。私を殺したいのか生かしたいのかどっちよ」
「どっちでもねぇよ。普通に生きて普通に嫁に行け」
「普通に生きてるよ?」
「いや、平均点とっていれば普通という風潮やめろ。それ、特殊だからな。めっさ特殊だから」
で、次の日は一緒に行くことにした。そして。
「ね、来ないでしょ?」
「確かに来ないな。そこの5羽ほどが遠巻きに見てるだけだ」
「とりあえずエサはまいてみるよ。ぽいぽいぽいのぽい」
…………。
「近寄ってきてはまた離れて行くね」
「意外とややこしい生き物だったな」
「冬場は一目散にやってきたのにね」
「そろそろ潮時だな」
「そっかぁ」
「あと2、3日は様子を見て、この状態が続くようなら今シーズンのエサやりは終了だ」
「だねぇ。食べ残したらもったいないもんね」
「水が汚染するしな。なに、また冬になれば飛びつくように食べるさ」
「うん、そうだね。それまで残りは冷蔵庫で保管しておこう」
「なんで冷蔵庫?!」
「だって、普通に保管するとまたカビが」
「あぁ、そうだったな。去年やっちまったんだっけ」
「他に乾燥している場所がないからねぇ」
「あとどのくらい残ってる?」
「あと1キログラムぐらい」
「そのぐらいなら、なんとかなるか」
「うん。冷凍庫じゃなきゃ空きはあるから大丈夫」
妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!
「今日の話のどこにそんな要素があったのよ!?」
「予定調和ってことで」
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