第37話 受験日

「しらべ。お前の受験する高校だけどな」

「ん?」

「偏差値52らしいじゃないか。50じゃないけど大丈夫か?」

「バレたか」


「調べたからな。これでも心配してるんだ。偏差値が2高い分だけ落ちたりしないかって」

「そんな心配なんかいらないって。偏差値50なんて切りの良い高校なんてないから仕方なかったのよ。それに2上がったぐらいで落ちるような学校を選んでませんって」


「それはまあ、そうだろうけど」

「きっかり50って学校もまったくないわけじゃなかったけどね。あまり遠くじゃダメだし、普通科でなきゃダメだし、それでもって制服か可愛くないと、ダメじゃん?」


「なるほ……いや、制服はどうでもいいと思うんだが」

「何を言ってるの!!!」

「わぁお、びっくりした。急にでかい声を出すなよ」


「制服こそが一番大切じゃないの!」

「いや、そこまでこだわらなくても」

「ダメダメ。そこはこだわるの! 乙女の3年間を預けるのよ? 貴重な青春時代を着飾る制服なのよ? おにぃだって、ださい妹なんて嫌でしょ!?」


「ださい、って死語かと思ってたが? 嫌でしょって強調されても俺は困る。どこもデザインには気を使っていて、いまどきださい制服なんてないだろ。俺には違いさえ良く分からん。そこまで思い入れがある制服なのか?」


「ネットには岐阜県の可愛い制服ランキングってのがあって」

「まじでか?」

「そこでは岐阜県の高校81校中で26位なのよ」


「そんなランキングがあることにびっくりしたわ。しかし1位でもないし、真ん中でもないじゃないか。なんで26位が良かったんだ?」


「そこはまあ、良いのよ」

「都合良く生きてる女だな、おい!」

「私が気に入ったからいいの。あのリボンのデザインが好き」


「気に入ってるならいいけど……。しかし、あそこはひとつだけ問題があるぞ」

「うん、そうなの」

「分かってるようだが、通学の問題だ」


「それなのよね。でもなんとかなりそう」

「なるのか? まず、ここから最寄りの駅まで徒歩で30分。そして電車に2駅乗って7分。そしてそこから徒歩で30分という、実に効率の悪い通学路になる」


「そうなの。カタカナのコの字を書くように、効率の悪い通学路よね、それ」


 コ という文字を一筆書きで描いたとき、スタートが我が家で終点が学校だと思うと分かりやすい。


「直接行ったほうがずっと早いのよ」

「距離は近いが、それは山越えルートになるけどな」


「そこで妥協案よ」

「どこをどう妥協したと?」

「自転車で通うことにしたの」


「俺は直接駅まで自転車だから、坂を登るのは帰りだけでいい。だけど、お前があの学校まで自転車で行くってことは、行きも帰りも登ったり下ったりだぞ? それは俺でも相当しんどいぞ」


「うん。そのために、おとんに電動アシスト付き自転車を買ってもらうことになった」

「ふぁぁぁ?! 妥協したのおとんだけじゃねぇか!」


「私はバイクって言ったんだけど、それはダメだって」

「それは学校で禁止されてるだろ。それにしても、電動アシスト付き自転車だと?! いくらするとおもてんねん」


「なんでそこだけ大阪弁?! パンクしないタイヤ装備、錆びないカーボンベルトドライブ、連続で100キロメートル走行可能、メインテナンスフリーで、えぇと、まだなんかあったっけ?」

「分かった。もうお腹いっぱい。そんなものいくらするんだ?」

「10万ちょっと買えるから、それで通えって」


「ぎゃぁぁぁ。おとんめ。お前にはとことん甘いな。俺には駅まで普通の自転車で通わせてるくせに」

「私は可愛いからねっ」

「うぐっ」


「なんか喉に詰まったの? 絞めたろかぎゅっ」

「ぐっぐっぐぇぇ。詰まっているのに締めちゃダメ……わがだたがだ、おばえば、がばいいでぶ」


「分かればいいのよ」

「ぐぇぇ。はあぁはぁ。死ぬかとオモタ」

「まあ、私がいないとご飯が食べられないからね」

「そ、そっちが本命だろうな」


「毒を入れられても困るだろうしね」

「それは止めてくれ。ところで、受験日っていつだっけ?」

「今日、これからだよ?」

「おいっ?! それを早く言えよ」

「知ってると思ってた」


「お前が落ち着き払ってるから、すっかり忘れてたよ。じゃ、がんばって行ってこい」

「おかのした!!」


 妹なんて、ろくなもんじゃねぇ! けど、受験には受かりますように。


「倍率が1.01倍なのに、落ちるわけないっての」

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