第36話 水とクリと縄文文化
「どなどなど~な~ど~な~」
「なんだ、いきなり?」
「子牛をのせて~」
「ま、まあ、その曲なら問題はなさそうだ」
「モナモナモ~ナ~モ~ナ~」
「ん?」
「細野と不倫~」
「そっちはあぶねぇよ!」
「二岡とも不倫~」
「さらにおまけ付き?!」
「いやぁ。モテる女は辛いっすね」
「お前が言うセリフじゃないけどな」
「ところでずっと前から思ってたんだけど」
「なんだ、いきなり」
「この森ってね」
「状況説明セリフ乙」
「この短い一言で、ふたりで森の中を歩いているという状況がすべて説明できているという?」
「そこまでは言ってないが。それで、どうした?」
「この森には大きな木が少ない」
「それ、なんて俺ガイル?」
「それを言うなら、はがないでしょ」
「あ、そうだった」
「素で間違えたんかーい」
「俺はボケ担当じゃないからそこをツッコむな。それより、そこに気づいたとはたいしたもんだ」
「あれ? 当たったの?」
「半信半疑で断言したのかよ」
「この間行った森とずいぶん違うなと思って」
「お前の名前だけがプレートになって金は俺だけが出したドウダンツツジを植林した不動尊のある森のことか」
「……ずいぶんと根に持ってるわね」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてないから。ボケ担当が替わってるから?!」
「じゃ、本題に戻ろう。ここは台地の上にまるっと乗っかった街だ」
「それは聞いたことがある」
「台地の成分はスッカスカの砂岩や泥岩なんだ」
「それは……まあいいとして」
「知らないなら素直に言うように。だから大変水はけが良く」
「そうだよね」
「米が作れない」
「ダメなの?」
「日本で作る米は水稲というぐらい、水をたっぷり必要とする植物なんだ。だから水が溜まらない田んぼでは生産できない」
「ここ、ダメじゃん?! お米は主食じゃないの」
「そう。だからここには縄文遺跡は多いんだが、弥生遺跡がほとんどない」
「なにその、江戸の仇を長崎で討つ的な」
「ツッコみにくいボケはやめろ。田んぼが作れないから、弥生人たちはここに住まなかったんだよ」
「縄文人が住んでたのはなんで?」
「ここは水資源は豊富な場所だ」
「ええ!? 水道代高いよ!?」
「そう、高い。しかもまずい。水が少ないからな」
「……いつから豊富って言葉が少ないという意味の言葉になったの? 文科省の事務次官とかが、またなんかやらかしたの?」
「それも危ない発言だな、おい。文科省は関係ない。ここはほんの2、3メートルも掘ると、どこでも水が出てくるんだ」
「じゃ、水道代なんかタダになるね!?」
「自分の土地なら、許可をもらえば井戸は掘れないことはないが、掘る費用とそれをくみ上げるためのポンプにその電気代。そしてメインテナンス代を考えると」
「そ、そんなにお得じゃないのね」
「どこでも水は出るが、湧出量は少ないんだよ」
「そうなの?」
「10メートルも掘ると水が止まってしまう」
「あらあら」
「だから飲料としては豊富な水があるが、農業用水としてはとても少ない。そういう土地柄なんだよ」
「それで豊富で少ないのか」
「だけど飲料水さえあれば、クリやイモなんかを栽培しながら、イノシシとかシカなんかの狩猟で食べて行けた。だから縄文時代は多くの人が住めた」
「ふむふむ。そこに稲作文化が入ってくるわけだ」
「その通り! だけど、ここは農耕には適さない。だから次第に人の住まない荒れ地となった」
「だから弥生遺跡がないわけね」
「泥岩の上に積もった表土の上に木が生えている。だから大きな木も育たないんだよ。根が岩盤に当たってそれ以上大きくなれないからな」
「そうなのか。ある意味岩盤規制だね」
「誰がうまいこと言えと」
「あれ? だけどクリの木はあったんでしょ?」
「クリはせいぜい20メートルぐらいにしかならない。木としては低いほうだ。イチョウなら40メートル。スギなんか60メートルにもなるぞ」
「ほぇぇ。そんなのここではあり得ないねぇ」
「ちなみにその当時、この辺りは見渡す限りのススキの原だったそうだ」
「それはそれで観光資源に」
「ならないから。そのススキが月の光を反射して、それはそれは美しい原であったらしい」
「それなら観光資源に」
「どんだけ観光好きだよ。そういう時代じゃないっての。その原は、まるで鏡のようキラキラと輝いて見えたという」
「ふーん……あっ!?」
「察した?」
「察したよ。だからここは」
「鏡原って言うんだ」
「そこに繋がる話だったのか!?」
ゆるキャン△で主役を張る各務原さんの語源でした。お後がよろしいようで。
「いやいやいや。あの各務原さんは関係ないでしょ??」
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