第34話 ドングリ

「あれ? ちょっと、おにぃ、これ」

「なんだ、どうした?」

「ここに落ちてるのって……ドングリみたいだけど」

「うむ。確かにドングリだな。シラカシかな。別に珍しくはないと思うが?」


「それにしてはなんか、新鮮なんだけど?」

「そりゃ落ちたばかりだからだろ」

「ええっ。いま3月だよ? 春に落ちるドングリなんてないでしょ」


「なにを言ってる。普通にあるぞ?」

「ドングリって秋でしょ、ふつー」

「ドングリは1年中落ちてるぞ。気がついてなかったのか」


「またまた、いたいけな美少女である私を騙して楽しもうって魂胆な顔をしてるわよ?」

「どんな顔だよ!」

「( ̄ー ̄) こんな顔」

「やかましいわ! あと、自分を褒める形容詞を強調すんな」


「だってドングリって落ちるの秋でしょ?」

「秋に落ちるのが多い、ってだけだ。風の強い日だと冬でも普通に落ちてるし、春でも夏でも落ちる」

「ほよよよ。知らなかった」


「だいたいドングリというのは、花が咲いた次の年になるまで落ちないんだよ」

「そうなの? 春に咲いて秋に実をつけるのが普通じゃないの?」

「果物はそうだけどな。ドングリのなる木の多くは、実のままで冬を越して次の年の秋に落とすんだ」


「まるで木の上で熟成しているような」

「あ、それは正しいかも知れない。発芽に都合のいい状況を作ってるんだろうな」


「じゃあ、いま落ちているのは、ほとんど一昨年に咲いた花ってことね」

「おそらくそうだろう。秋まで待てなかったんだろうな。意外と知られてないのか、これ」

「誰も知らないと思うよ。ネットで検索しても出てこない」


「ドングリを観察するやつなんていないからなぁ。よぉし。こんどデートするときの俺は物知りだぞネタに使おう」

「それは止めたほうがいいと思うけど。最近ご無沙汰みたいだし」

「そ、それは、お前の相手が大変で、なかなか時間がとれないからだよ」


「私はそんな覚えはないけどなぁ」

「早く、学校に行けよ」

「休みだもーん。せっかくもらった休みは有意義に使わないとね?」


 妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!

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