第32話 伊勢湾岸要素植物
山歩きをしていて、しらべが白い花を見つけた。
「なにこの花、よっれよれー。なんかおっかしー」
「しらべ、それシデコブシな。自生しているのはすごく珍しいんだぞ。勢湾岸要素植物のひとつだ」
「だって、花びらがよれよれなんだもん。なにその伊勢マンガ妖怪物語って」
「伊勢しか合ってねぇぞ。伊勢湾岸要素植物だよ」
「えっとね……途中の『んが』も合ってる」
「やかましいよ。世界的に珍しい植生なんだ」
「また長くなるの、その話?」
「たまには聞けよ。愛知岐阜三重のそれも丘陵地にだけ自生する植物群のことで、世界中でここだけなんだ」
「そんなに珍しいのか。で、なにその伊勢マンガって」
「微調整さえなしか。特にシデコブシはかつては世界のあちこちに生えていたが、すべて絶滅した。唯一生き残ったのが伊勢湾岸の丘陵地だけなんだ」
「なんであちこちにあったって分かるわけ?」
「シデコブシの花粉の化石が発見されている」
「なるほど」
「私もここで生まれたけど、それかな?」
「植物の話だ。でも、お前もかなりのレアものだとは思うが」
「えへへ、照れますな」
「で、植物の話を続けるが」
「そこで止めちゃうの!?」
「伊勢湾岸要素植物には、このシデコブシやヒトツバタゴ、ハナノキなど15種類が確認されている」
「ほほー」
「群生している場所は、国の天然記念物に指定されている」
「ほー」
「シデコブシは植林可能なのでまだいいが、そうでないものも多い」
「ぐー」
「歩きながら寝るなっての」
「寝たふりしてるだけだってば」
「それこそ止めろ!」
数百万年以上前、まだ伊勢湾はなく東海湖という淡水湖でした。それが地殻変動やら火砕流の流入、土砂の堆積などでわやくちゃになり、今の伊勢湾となりました。
これらの植物の分布は、その東海湖周辺にほぼ合致しています。そんな古い時代から生き抜いてきた日本の歴史の大先輩たちです。ちなみに、今回のシデコブシは日本の固有種であり、絶滅危惧種でもあります。
「ま、そういうわけでだな、そのよれよれも絶滅危惧種だ。愛でてあげよう」
「わかった。伊勢マンガさん、大事にするよ」
「覚える気はなしか。あっても覚えられない優香姫かおまえは」
「おにぃはバカ殿?」
「一緒にすんな!」
ええいもう。妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!
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