第30話 ジャマイカ

「しらべ。またネットスーパーで買い物か?」

「うん。いま、今日は学校休みだから、お昼に受け取れるようにしてと。よし、これで完了。明日の午後1時過ぎに来るからおにぃ受け取ってね」」


「お前が休みなのに、受け取るのは俺かよ。俺も休みだけどなー。しかし、ネットでスーパーのものが買えるなんて、便利な世の中になったもんだな」

「重いお茶とか玄関まで持ってきてくれるのはありがたいよね」

「支払いもクレジットで処理してくれるから、玄関先でお金のやりとりしなくていいし」


「この楽さを覚えると、もう戻れないね」

「それでもキャッシュレス化が進まないってのは、どういうことだろな」

「そんなことないと思うよ?」

「ん? そうなのか?」

「みんなお金がないって言ってるから、キャッシュレス化は進んでる」

「それは、ただの貧乏のフリした世間体処理だ」


「さてと。じゃ、野菜炒め作る」

「お、おう。頼む」

「おにぃはご飯をチンして」

「はいよ。これももうすっかり慣れたな」


「うん。2分でご飯は便利だね」

「年々安くなってるしな。昔みたいに臭うようなものはなくなった」

「炊飯器使わなくてもいいから、洗わなくいい。私はそれが一番嬉しい」


 前にも書いたが、我が家の食事はほぼしらべが作っている。だが学生であるため、それほど家事に時間は割けない。だから、時間がかからないものが主流になるのだ。親父も俺もグルメではないので、それで満足している。


「うちは時短も進んでるね」

「そうだな。野菜炒めも半分は冷凍ものだし」

「生は玉ねぎだけだね。それにアンデス牛肉を入れて、あとは冷凍のパプリカと小松菜をほいほい入れて、熱が通ったら万能調味料を入れて混ぜませ、最後にオールスパイスを1匙」


「待て待て。最後に聞き慣れない単語が出てきたぞ?」

「これもネットで話題になってたもんで買ってみたの。スパイシーさが増すんだって」


「どうしてお前はそういう流行に弱いんだよ。普通に塩・胡椒でいいだろ」

「まあ、騙されて食べてみなさいって」

「騙されることが前提かよ。どこのものだ。26話のケイジャンみたいにまたアメリカ産か?」


「えっとこれはね。ジャマイカって書いてある」

「ジャマイカに香辛料があるのか……ってそりゃ、あるだろうけど。どんな味になるんだろう?」


「ラベルによると、世界4大スパイスのうち、3つの香りを併せ持つ、らしいよ?」


「なんか贅沢な香辛料だな。ちょっとその入れ物を貸してみろ……くんくん……ん? なんだこれ、薬みたいな味だな。こんなの入れたら料理が台無しにわぁぁぉ、もう入れやがった!?」

「サクッと入れちゃった。じゃあ、まあいいか」

「ジャマイカだけにか。やかましいわ」


 妹なんてろくなもんじゃねぇ!


 でも、不思議とおいしかったという。やるなジャマイカ。

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