第26話 けいちゃんカレー

「おや、今日は朝からうどんか」

「あ、もう起きてきた。そうなの。昨日の帰りにね、1玉12円で特売してたうどんがあったから5人前買ったの」

「激安だな。でもなんで5人前?」

「お一人様5つまでって書いてあったから」


 特売あるあるです。


「だけど、それ大丈夫なんだろうな?」

「普通に売ってたんだから大丈夫でしょ。賞味期限は昨日で切れたけど」

「おいっ!」


「カレーうどんにするから大丈夫」

「ちょっと古くてもカレーにすれば大丈夫という風潮やめろ。でもそれは大好物だ。食べる」


「そう言うと思った。1日ぐらい平気だよね。それに、ちょっと今日は新しい試みをするからね……ってなによ、その嫌そうな顔は」

「嫌そうな顔は生まれつきだ。だがしらべ」

「だがしかし、の節で言わないの」


「もうピーマンは入れるなよ」

「そんなの食べたのおにぃだけだよ、あはははは」

「だから俺の舌を実験台にするなって言ってんの」


「だけど全部食べたよね。あんなまずいもの」

「まずいと分かっていて出すなよ」

「カレーにはどんな野菜を入れても大丈夫という風潮があるんじゃん?」

「ねぇよ!」


「私は絶対に食べないけどね。おとんが無人販売所で安かったといって買ってきたものだから」

「そういうのを俺に出して処理係にするなよ。で、今度はどんなのを作るんだ?」


「今回の野菜はニンジンを乱切りにして冷凍しておいたやつ。これも無人販売所」

「あれ安いし新鮮だしいいよな。具はそれだけか?」

「あとは、この袋に入ってるもの」


「レトルトかよ。嫌いじゃないけど、中辛はまだ甘いし、辛口だと辛過ぎるんだよなぁ」

「おにぃがそう言うから、今回は秘密の調味料を入れるのだ」

「入れるのだ、って威張ってるけど、変なものを入れるなよ。唐辛子ぐらいにしておけよ」

「似たようなものよ。入れるのは……ね……えっと……けいちゃん?」


「それ、岐阜の郷土料理だから。調味料じゃないぞ」

「調味料だもん。あとは……食べてのお楽しみ」

「なんかすっげー不安なんですけどっ?!」


 それから5分後。


「ほら、できあがり。召し上がれ」

「早いな!? まあ、食べてはみるけど。鶏肉は入ってないようだな」

「牛肉が入ってるよ」


「そりゃ、ビーフカレーのレトルトだもんな……おっ!?」

「どう?」

「これはなかなか。ずずずずっ。うまい!」


「そうか、それは良かった。さすがけいちゃんだ」

「そのけいちゃんが分からんのだが」

「これよ、これ。ネットで検索してたらでてきたので試しに買ってみたの」


 と言いながらしらべが俺に差し出した瓶には、「ケイジャンシーズニング」と書かれていた。ケイジャンがどうするとけいちゃんになるんだよ。しかしなんだろ、これ?


「見た感じは唐辛子のようだが、いろいろ混ざってるように見える。だからシーズニングなのか」

「どゆこと?」


「シーズニングってのは調味料のことだが、複数の調味料を混ぜたものを指すことが多いんだ」

「ふむふむ。じゃ、ケイジャンは?」

「知らない」


 どどどどどっ。


「知っているような口ぶりで言うな!」

「そんな口ぶりをしたつもりはないんだが、でもこれはうまいぞ。レトルトカレー中辛の甘ったるさが抜けて、きちんと中辛の辛さになってる、ずるずる。うん、うまい」


「ものすごく分かり難いけど、うまかったのならいいや。私もそれで作ろうっと」

「やっぱり俺の舌を実験台にしたんじゃねぇか!」


 妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!!

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