第25話 お毒味役

 学校から帰ると、しらべが俺たちの共用ノートパソコンにしがみついていた。


「しらべ、買い物か?」

「あ、おにぃ。うんそう。ちょっとぎょむろうかと思って」

「なんじゃそりゃ?」


「知らないの? 業務スーパーでまとめ買いすることをぎょむるっていうのよ」

「知らんがな。待て待て、まさか俺のアカウントを使ってないだろうな?」


「大丈夫よ。食品関連はおとんのを使うことになってるから」

「そ、それならいいが。でもなんで業務スーパーなんだ? ネットスーパーだってあるだろ」

「安いし冷凍ものをまとめ買いして保存しておくと、チンするだけでいつでも食べられるようになるし」


「なるほど。それでどんなものを買うんだ?」

「ハンバーグにヒレカツ、パプリカに小松菜、ニンジンとハクサイ」

「そ、そうか。まるで主婦の買い物だな」


 しらべはまだ15歳だ。お菓子とか甘いものを買いたい年ごろだろうに、家族用の食材を優先して買うのか。ちょっと不憫なものを感じてしまった。


「それにアイスバーにたこ焼きにシューアイス」

「子供の買い物だな!!」


 不憫に思った俺の心情を返せ。


「だけど、問題があるのよ」

「どんな問題だ?」

「ここは、8,000円以上買わないと送料が無料にならないの」

「まとめ買いだから、それは致し方ないだろ」


「だけど8,000円も買うとね」

「親父のアカウントなら、支払いに問題はないだろ?」

「うぅん。問題は冷凍庫なの」

「冷凍庫?」


「8,000円分も買うと、入りきらないのよ」

「う、うむ(また流れが見えて来た気がするぞ)」


「入らないと困るじゃないの」

「そういうときはだな、しらべ」

「なに?」

「隣の家に行って借りてぐわぁぁぁぁ」


「同じネタを使い回すのは、この首かこの首か」

「ぐわぁぁ、く、くるち、く、首はしゃべりませんでつ、呼吸するとこでつ、ぐぐぐるぢぃ」


「もういい加減に新しいのを買って、って話なのよ」

「お前も同じセリフを使い回ししてんじゃねぇか」


「この冷凍庫80リットルしかないのよ?」

「そ、そんだけあれば充分じゃね?」

「これだと、だいたい5,000円分くらいしか入らないの」

「そ、そうなのか。アイスなんか買うからじゃないのか」


「アイスは箱から出すと容量は少なくて済むのよ。これは値段調整で仕方なく買ってるの」

「仕方なくの割にはちょっと量が多いような」

「そんなことはいいの!」


 怒られちゃった。


「冷蔵はこれで充分なんだけど、冷凍庫だけもっと大きいのが欲しいなぁ」

「でもなぁ」


 前話で述べた通りの理由である。


「この間なんか、入りきらなかったから」

「食べちゃったか?」

「そんな食えるか! 製氷機のとこに入れたのよ」

「あ、なるほど。それで何リットルか稼げるな」


「だけど、それも冬場だけでしょ。氷を作るようになったら無理なのよ」

「それもそうか」

「だから、夏までには新しい冷蔵庫が欲しいなって」


「だめだろうなぁ。ともかく使えなくなるまで使え、とのお達しだ」

「おにぃから言ってよ」

「いや、使えるものは使わないと……お前、ハンマー持ってなにをする?」


「これ、合法的にぶっ壊そうかと思って」

「待て待て待て。目がマジだぞ、お前!! ところでなんだよ、合法って」

「私が逮捕されなければ合法という風潮よ。よし! やっちゃおう!」


「待てというに。いま壊したら新しいのが来るまで冷凍物をどうすんだ。俺たちに餓死しろというのか」

「森に行って、キノコでも採ってきてあげる」


「お前、キノコの見分けつくのか?」

「『食べられるキノコ』って図鑑があるから、多分大丈夫」

「それ、死んじゃうフラグだから。たいがいそれで食あたり起こすんだから。キノコなめるな!」


「なめてないよ。食べるだけよ、おにぃが」

「俺が毒味役かよ!」


 まったく、妹なんてろくなもんじゃねぇ!

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