第24話 電子レンジ

「おにぃ、このお弁当だけどさ」

「どうした?」

「暖めるのに、2分45秒チンしろって書いてある」


「ふむ。それがどうした?」

「うちのレンジなんか、10秒単位でしか設定できないのよ」

「古いからなぁ」


「しかも500ワットオンリーでしょ」

「う、うむ(なんか話が見えて来たぞ)」


「困るじゃないの」

「そういうときはだな、しらべ」

「なに?」

「隣の家に行って借りてぐわぁぁぁぁ」


「そういうことを言うのはこの首か!」

「ぐわぁぁ、く、くるち、く、首はしゃべりませんでつ、呼吸するとこでつ、ぐぐぐるぢぃ」


「もういい加減に新しいのを買って、って話なのよ」

「俺を殺すと7代祟るぞ。お前の気持ちは途中でさっしがついたが、とりあえず2分50秒でやれ」

「7代先まで私は生きてないからセーフ。そんなこと分かってるけどさ、ぶつぶつぶつ」


 我が家の経済状態は、それほど悪いわけではない。親父は工場務めで基本給は安いが、残業もあってその手当が馬鹿にならない。ボーナスもけっこう出る。


 だが、いまあるもの――机や金魚鉢、食器に家電に至るまで――はすべてお袋が生きていたときの思い出の品なのだ。だから、親父が捨てたがらない。俺もその気持ちに同意している。


 しらべが3歳、俺が7歳のときだ。だからしらべにお袋の思い出はほとんどない。それだけに古いものに執着があまりないのだ。


 小学生のときから、我が家の料理作りを一手に担ってきたしらべとしては、使い勝手の悪くて古い家電ぐらいは新調して欲しい。そういう思いを常に抱いている。


 そのために、こんなコントを繰り返している我が家なのである。


「誰がコントよ!」

「ともかく、使えなくなるまで使え、とのお達しだ」

「ぐぐぐぐぐ」


「分かってくれたな?」

「仕方ないなぁ、もう。そうだ、おにぃはいろいろなこと詳しいよね?」

「おっ。なんだ。俺に聞きたいことがあるのか。なんでも聞きたまえ」


「このレンジを合法的にぶっ壊す方法ってない?」

「NHKじゃないんだから、それをぶっ壊しちゃダメ! 絶対!」


 妹なんて、ろくなもんじゃんねぇ!

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