第19話 あいさつ鳥

「あ、おにぃ。あいさつ鳥がいるよ!」

「なんだ、あいさつ鳥って?」

「ほら、あのガードレールの上にとまってる子がいるでしょ。見ててよ、すぐ分かるから。」


「ああ、あれか。あれはジョウビタキって鳥なんだが……うむ、なるほどな」

「ね? あいさつ鳥でしょ?」


 ジョウビタキ。渡り鳥であるが、まれに国内での子育てが観測される。スズメより少し小さいツグミの仲間である。両翼の真ん中あたりに白い斑点があり、特にオスはお腹部分のオレンジの配色がとても美しい。


 しらべの言うあいさつとは、とまっているときにひょこっと頭を下げるクセのことを言っているのだ。それが、おじぎをしているように見える。


「鳥のくせになんて仁義をわきまえたやつなのよ」

「仁義はわきまえてないと思うが。あれは単なるクセだ。縄張りを主張して威嚇しているという説もある」

「そんなことないもん、ういやつだもん」

「そんな言葉をどこで覚えた?」


「あっ、飛び降りた。どっかに行っちゃったかな」

「いや、もうしばらく見てろ。戻って来るかも知れないぞ」

「普通鳥ってね、一度飛び立つと元に戻ってなんか来な……戻ってきた?!」


「だろ?」

「なんで、なんで戻って来るって分かったの? おにぃって変態?」

「やかましいわ。誰が変態だ。ジョウビタキは冬になればこの辺では良く見られる鳥なんだ。俺はずっと前から見てるから、生態を知ってるんだよ」


「変態じゃなくて?」

「そんな鳥はいない! いい加減変態から離れろ。ジョウビタキは、見晴らしの良いところに止まってエサを探す。そして見つけるとそこに飛び降りてエサを取りまた戻る。ということを繰り返すんだ」


「へぇ。そうなんだ……あ。また飛び降りた」

「地面に降りたな。あ、なんか咥えた」

「ミミズみたいなものを咥えてる。あ、飲み込んだ」

「そして戻った。あの辺でエサが見つかる限り、同じことを繰り返すだろうな」


「けっこう面倒なことするのね」

「面倒か?」

「だって、一度にいくつか見つけておいて、降りたらそれをまとめてがばっと食べればよくない?」


「ジョウビタキは雑食だが、この季節は虫は少ない。だから木の実がメインになっている」

「いま、ミミズを咥えてたけどね」

「いまは、偶然ミミズを見つけたようだが、木の実はそんなにまとまって落ちてないだろ?」


「まとまってるよ?」

「それは人から見れば、の話だ。鳥のサイズになった気持ちで見てみろよ」

「私が鳥のサイズ……鳥のサイズ……」


「分かったか?」

「ダメだ。鳥のサイズになってもミミズは食べられない」

「誰がそんなものを食べろと」

「ドングリも無理」


「だから食べるなっての。鳥の視点からすれば、地面に降りると、少し草が生えていたり土が盛り上がっていたりするだけで見つけられないんだよ」

「そこはがんばるとか」

「どうやってがんばるんだよ。それよりは、上から見つけてそこに、そのつど飛んだほうが効率がいいだろ?」


「そういうことか。あいさつ鳥も考えてるんだねぇ」

「考えてるのとはちょっと違うか。まあ、それでいいや」

「それでいいよね。なにはともあれ、エサにありつけておめでとうさんです」


「冬になれば、どこでも見られるジョウビタキだ。人をあまり怖がらないので、近づくのも簡単だ。名前ぐらい覚えてあげよう」

「うん、もう覚えた。あいさつ鳥」

「それは覚えたんじゃなくて、あだ名を付けたって言うんだ」


 妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!

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