第10話 里山の動物との付き合い方

「ぽいぽいぽいぽいっっとな。おにぃ、お代わり」

「ほいほい」

「ぽいぽいぽいぽいっっとな。おにぃ、お代わり」

「ほいほい」


「コピペで楽しようとしてないか?」

「そそ、そんなことないんだからね」


「でも、こうやってエサを食べてくれるとなんかうれしいね」

「そうだな。近頃では、近づくとひょこひょこ寄ってくるようになったな。それがまた可愛い」


 ふたりの住む近くには池があります。かつてはため池として農業用水を供給していた池です。それがいまではマガモなどの渡り鳥の飛来地となり、冬になると野鳥で賑わう場所となっています。


 しかし渡り鳥は基本的に警戒心が強く、人に近づいては来ません。近づいて来るのは留鳥であるカルガモぐらいなものです。エサをくれる人間がいることを良く知っているのです。


「この子たちは何点だっけ?」

「例外もいるが、水鳥は基本的に点数に入ってない。こういう池がある場所というのは特殊な環境だからな」


「そうなのか。点数のない子なんかにエサあげても仕方ないか」

「どんな判断基準だよ。この池が気に入って来てくれるんだから接待してあげよう」


「ずっとここにいる留鳥なんでしょ?」

「夏は涼しい河にいる。寒くなると、ここのような池に移動するんだ。だからここでは冬場しか会えない」


「そっか。じゃ、ぽいぽいっと、ぽいっ。あ、でもさおにぃ」

「なんだ?」

「野生動物にエサをやるのは、いけないことじゃないの、ぽいぽい」


「お前は言ってることとやってることが、ぼろぼろだぞ。野生動物といってもいろいろいるんだ。ひとまとめにして考えるべきじゃない」


「うんうん、それは分かる。野菜だってひとまとめにしちゃダメだもんね。特に玉ねぎとピーマンは別に痛いっ」


「お前の嫌いな野菜シリーズの話はどうでもいい。里山で暮らしている動物たち――イノシシ、タヌキ、リス、モモンガなど――は人間と適度な距離をおいて付き合ってきた動物たちだ。里山でしか暮らせないが、人にとっては貴重な食糧でもあった。そういう生き物たちだ」


「痛いなぁもう。カッパ寿司3回分貸しね」

「なんで3回分も!? 気をつけるべきなのは攻撃性の高いヒグマぐらいだ。あれは人を襲って食べるからな」

「ごわぁぁぁぁぁい」

「心配するな、本州にヒグマはいない。大人しいツキノワグマだけだ」


「イノシシだって怖いじゃん?」

「怖くねぇよ。出会っても向こうが勝手に逃げてゆく」

「なんかツッコんで来るイメージがあるんだけど?」


「臆病な動物だから、驚かすとパニックになってやたらめったら走り回ることがあるんだ。それでケガする人がごく稀にいる。だけど、イノシシに食べられた人はひとりもいない」


「そりゃそうだろうけど」

「しらべ、車は怖いか?」

「いや、別に」


「そうだろ。だけど車は毎年何万人と殺してるぞ?」

「そういえばそうだけど……」

「でも、イノシシに襲われて亡くなった人は、年に平均ひとりもいない」


「……」

「どっちが怖い?」

「車」

「分かればよろしい」


「人は慣れてないものを無闇に恐れる性質がある。イノシシはその典型だ。里山にいる生き物と人は、折り合って生きて行くべきなんだよ。たいして難しいことじゃない」


「そうなのか。それじゃ大威張りでエサをあげていいのね」

「威張るようなことじゃないが、持って来た分だけは投げちゃえ。その里山が、人間の手によってどんどん削られて、住宅になったりわけの分からんパネルとかになったりしている。それが彼らの住み処や食糧調達場所を奪っているんだ」


「……私はいま、戦略ミスを反省している」


「なんだそれ? それなのに、野生のものは自然のままにすべき、なんて分かった風なことを言うやつがいる。そいつらに俺はかなり頭にきている」


「失敗だったなぁ」


「野生のままにしたいのなら、野山を削るなんて暴挙をさせるべきじゃない。自分の利益になることは容認しておいて、他人の小さな行動には介入して自然のままにしろと言う。そんな幼稚な理論を振りかざすやつは、俺は大嫌いだ。自分勝手な屁理屈をこねるんじゃねぇよ!」


「うん、深く反省しよう。これもマニュアルに書いておこう、カキカキ」


「だからカルガモにエサをやるぐらいのこと……しらべ、なにをメモしてるんだ?」

「おにぃの取扱説明書を改訂している。話が長くなるようなエサを与えてはいけない、っとカキカキ」


 俺は野生のクマかよ! そんなもの作るんじゃねぇ。


 まったく、妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!

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