第8話 地層の話から
「おっ、見ろよしらべ。この地層の格好良いこと!!」
「ふーん」
「逆V字だよ、逆V字。ここはな、チャートができたあとに、地殻変動で一旦陸地化したんだ。そこに水が流れて柔らかい部分は削られた。そのあと再び沈降して、新しい層がその上に積み上がったという歴史があるのだよ。それが見られる場所なんてなかなかないぞ。これは良いものだ。格好良い。ステキ。萌える」
「ふーん」
「……お前とは世代の断絶を感じるんだが」
「世代じゃないし。そんな茶色いしましまのどこに萌えるのか、まったくわかりません」
「このしましまはな、何億年もかけて積み重なった砂とか微生物とかが」
「数億円なら萌えてもいいんだけど」
「金にしか興味ないのか!」
「あと、食べ物も」
「お前はもっと情緒というものをだな」
「おにぃってさ」
「な、なんだ?」
「彼女とデートしてるときも、そうなの?」
「そうなの、って言われても。俺はだいたい表裏のない人間だからこんな感じだが」
「それで長続きしないのね」
「うがっ!?」
「いい? 地層も鳥もいいけど、彼女ほったらかしてまでそっちに夢中になっちゃダメでしょう?」
「うげっ」
「彼女いない歴は最長10日(記録更新中)でも、彼女いた歴は最長でひと月でしょ? それっておにぃに原因があるとは思わないわけ?」
「いや、それは、思わないでもないけど」
「この間なんか喫茶店で、付き合い始めたばかりの女の子に能書き垂れてたでしょ?」
「いや、能書きってほどのことでは」
「砂糖の妖怪が、溶けるのは決まっているとかなんとか」
「砂糖の妖怪などいない。砂糖の溶解度の話をしただけ……ってなんでそれをお前が知ってるんだ?」
「聞いたもん。その子に」
「はひっ?!」
「その子、私の同級生よ。知らなかったでしょ」
「し、し、知りませんでしたん。あの子、中学生だったん? 発育良過ぎね? お前と違い過ぎ……痛いって」
「いちいち私の体型をディスるな。しかも、その子で3人目という」
「ふぁぁ?!」
「年下を狙うのはいいけど、相手を選んでよ」
「いや、俺が狙ったわけではない。相手が言い寄ってきたからなんとなくそんな感じに」
「事と次第によっては犯罪だからね?」
「その事も次第もなかったので、大丈夫です、ハイ」
「おっぱい揉まれた子がひとり、なんども胸を触られたのがふたりいるけど」
「うがぁぁぁぁ」
「みんな怒ってたわよ?」
「その子たち、そんなことまでお前と話すような仲だったのか?」
「なんか、みんな私に苦情を言ってくるのよ」
「そ、そうなのか。相手も喜んでくれてると思ってたのに」
「そんなはずないでしょが。バカじゃないの?! 最初にキスをしなさいよ。そういうのはその後で」
「は?」
「ってみんな言ってる」
「はい?」
「順番って大切なのよ」
「順番を守れば良かった……のか?」
「うん。それならもうしばらく続いたと思うよ」
「それでもしばらくなのか」
「だって、話が長いしくどいし理屈が多いし」
「世の中はすべて理屈で回っている」
「なんか逆襲に出た?」
「スマホで話ができるのも、エアコンで部屋が涼しくなったり暖かくなったりするのも、全部理屈に従って作られているからだ。自然科学のそのようなメリットを享受しながらそれを否定するのは」
「それよ、それ!」
「現代に生きるものとしておか……それ?」
「そう。おにぃのそのうっとおしいところが原因なの」
「ぐあぁっ」
なんで地層に萌えるという話が、俺がうっとしいという結論になるのか。
妹なんて、ろくなもんじゃねぇ!
「私だから話を聞いてあげてるし、耳の痛い助言もしてあげてるのよ?」
「マラソン大会の仕返しだったりしない?」
「ふにゃららほーい」
「図星かよ!」
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