第7話 放送委員その2
「ということで、どうしたら道案内係をばっくれることができるのかって相談なのよ」
「いままでの話のどこに相談の要素があった?!」
「最初からそうだったけど? あ、唐揚げと茶碗蒸しに味噌汁っと」
「俺は気づいてなかったぞ。ただ、苦情を言われてかっぱ寿司……こらこら、回ってるやつを食べろ。タッチパネルで注文するな」
俺たちはいつの間にかカッパ寿司にいる。
「けちけちしないの。せっかくじゃない。あとはハンバーグと鉄火巻き、サラダ軍艦は2貫ね。厚焼き卵焼きにいたっては3貫。あとはうなぎとウインナー手巻きに、最後はエビ天うどんで締めとこう」
「どこがどうせっかくなんだよ……ああ、俺の今月の小遣いがガンガン飛んで行く……ちょっと、待てしらべ。お前の食べてるものって」
「大好物ばかりよ? ほくほくほく」
「ほくほくはいいが、お前の注文には寿司の要素がまるでないのだが」
「生もの嫌いだもん。焼いて出せって話よね、もさもさもっさ」
「それなのになんで寿司屋に来たがるんだ」
「大好物がたくさんあるから?」
「名言っぽく言っても全然なってないが。まあ、回転寿司ってのはそういうところではある。それにしたって寿司をなにも食べない客で、ここは儲かるんだろうか。俺は炙りサーモンとトロとイクラをもらおう。もぐもぐ」
「仕上げにタピって300円。それからいちごのケーキプリンパフェと」
「こらこら。さっき締めでエビ天うどん注文してただろ?」
「うん。締めたら仕上げないとおいしいカモ雑炊にならないから。それから和栗のモンブラ痛いんっ」
「カモ雑炊とか知らねぇよ。そのぐらいにしておけ、と俺の財布事情が言っている」
「だからっていきなり頭を殴るか、普通。痛たたた。もう頭にきた。プレミアム和風プリンとバニラアイスも追加してやる。ぱちぽちっとな」
「あああっ、こら待て!」
「へへ、もう注文入れちゃったもんね」
「くっそ、そういうときだけは素早いやつだな……で、なんでまたメニューを開いてるんだ?」
「また殴られたら追加してやろうと思って。ほら押すぞー押すぞー」
「そんなに強く殴ってないだろ!? もうお願い、止めて!!」
「ちぇ。もうちょっといけると思ったのに」
しらべ。恐ろしい子! 俺が財政破綻したらどうすんだ。
「IMFに相談すると融資が受けられるらしいよ?」
「俺の小遣いは国家レベルじゃねぇよ!」
「ってことで、もごもが。どうしたら道案内係をばっくれることができるのかって相談なのよ、ぱくぱく」
「最初の話に戻るまでに、どれだけ俺の血が(財政的に)流れたことか、少しは思い知りやがれ」
「はいはい、思い知った思い知った。で、なんかいい手はない?」
「少しも心がこもらない思い知っただな。でも、なんでそのぐらいのことが、嫌なんだ?」
「寒いの嫌いだし立ってるのも嫌いだし、退屈なのも嫌い」
「じゃあ走ればいいだろ。放送委員だって走ると言えばダメとは言われないはずだ」
「走るのはもっと嫌い」
「だぁぁ、この我が儘娘め。簡単なのは病気にでもなったと言って学校を休むことだが」
「私、皆勤賞狙ってるんだけど」
「健康優良児か」
「狙うつもりはなかったんだけどね、私、多少熱っぽくても一晩寝ると治っちゃうから、気がついたらそういうことになってた。学校好きだし」
「そ、そうか。健康だけは平均点じゃなかったようだな。それをいまさら反故にするのもなんだな」
「なんなのよ。もらえるものはもらっておかないとね」
「マラソンって女子は5kmだったよな」
「うん、男子の半分。歩いても良いらしいけど」
「女子のコースは、国道近くの古い町並みを抜けるんじゃなかったっけ?」
「ああ、そういえばそんなコースだったような」
「あの通りは1kmぐらいあるが、そこには何カ所かベンチが置いてあるぞ」
「無料休憩所?」
「そうそう。あの100年の歴史がある造り酒屋の正面とか」
「あ、そういえばあったね。それかっ!」
「それだ。ベンチは他にも何カ所かあるし自販機もある。お前が委員長代行なら人員配置の権限を持っているだろ。自分をそこに配置して、座って待っていればいい。晴れていれば日当たりも良くてぬくぬくだ」
「なるほど。そこでおやつしながらぼうっと見ていればいいね。さすがおにぃ。頼りになりますな、パンパンパン」
「痛い痛い。お前、さっきの仕返ししてないだろうな」
「そんなに強く叩いてないよ? でも、ありがとう。マラソン大会が楽しみになってきた」
しらべは知らない。確かにその場所はぬくぬくな場所である。まさしく放送委員のために作られたような場所だ。しかし。
俺の時代に、サボっている奴がいるとお店の人の注進されて、ベンチに座ることは禁止されたのだ。当日が楽しみである。
まったくもう!! お兄なんて、ろくなもんじゃねぇ!!
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