第150話 ジャンニへの頼み事
このままではジャンニが捕まってしまう。
心臓が激しく脈打つ。
どれだけ心のなかで警告を発しても届かない。
助けるには行動あるのみ。
証拠よりもジャンニが大事だ。
きっとデルカさまもそう考えるはず。
助けよう。
決意を固め、ジャンニに声をかけようとした瞬間——。
「お待たせてごめんなさい」
アリアお嬢さまが駆け足で戻ってきた。
……たったひとりで。
念の為、辺りを警戒。
どこを見ても警備兵はいない。
勘ぐりすぎた?
ううん、油断は禁物。
これからなにか仕掛けてくるかもしれない。
完全に警戒をとかず、ひとまず成り行きを見守った。
「はい、これ」
アリアお嬢さまがジャンニになにか差しだした。
それをジャンニはじっと見つめている。
「お腹、空いてない?」
優しい眼差しでアリアお嬢さまが問いかけた。
ジャンニは少し間を置いたあと、こくりとうなずく。
「お菓子しかないけど……」
申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「……いいの?」
ジャンニは遠慮がちに答える。
「もちろん」
「でも……」
「……伯父さまの死を
寂しそうな声でアリアお嬢さまがつぶやいた。
⁉︎
あたしは耳を疑った。
アリアお嬢さまの発言が空耳だったんじゃないかと。
これまで、デルカさまの死を悲しむ様子はなかった。
それなのに、なぜいま頃になって?
疑問を抱いた。
「本当にもらっていいの?」
ジャンニが確認するように聞いた。
「ええ、あげるわ。その代わり、お願いがあるの」
アリアお嬢さまがいつもの表情に戻った。
お菓子をあげる代わりに、ジャンニに頼み事をしようとしている。
なにやら思惑がありそうだ。
それを達成するため、アリアお嬢さまは動いている。
まずは、デルカさまの死を悼む素振り。
続いて、お菓子をジャンニに与える。
あたしはアリアお嬢さまを睨みつけた。
ジャンニになにをさせようっていうんだ。
不安が膨らむ。
あたしはアリアお嬢さまの動きを警戒した。
「お願いって?」
ジャンニが首を傾げた。
少しもアリアお嬢さまを疑う様子はない。
「それはね……」
アリアお嬢さまが顔をジャンニに近づけた。
なにやら耳打ちしている。
だから、あたしには内容がわからない。
「うん、いいよ」
ジャンニは即答した。
「ありがとう。じゃあ、これ……」
アリアお嬢さまがお菓子と共にもうひとつ、なにかを差しだした。
ジャンニはお菓子を受けとり、すぐさま口に放りこんだ。
あれはなに?
あたしは目を凝らした。
遠すぎて、それがなにか正確に判別できない。
ただ、立体的ではなく平面的なものなのはわかった。
紙?
……ちょっと違う気がする。
だとしたら、あれはなに?
いくら目を凝らしてもわからない。
もう少し近づけば……。
忍足で歩きだそうとしたとき——。
ジャンニが平面的なものを受けとった。
それを手にしたまま、アリアお嬢さまに背を向けて走りだす。
急いでいる?
どうして?
あたしは必死に考えた。
アリアお嬢さまがジャンニになにかを渡した。
それを持って走りだしたジャンニ。
急いでいる。
まるで、それを敷地外に持ちだすように……。
急いでここから持ちだす?
引っかかりを覚えた。
いま、敷地から大急ぎで出したいもの。
それはたったひとつ。
デルカさまが病死ではない証拠——。
あたしは目を見開き、アリアお嬢さまを見た。
ほっとしたような表情を浮かべ、ジャンニの後ろ姿を見守っている。
ジャンニを使って証拠
あたしは怒りに震えた。
デルカさまが病死じゃない証拠を隠滅するだけでも腹立たしい。
それなのに、なにも知らないジャンニを利用するだなんて。
許せない!
アリアお嬢さまに視線を向けたまま、ゆっくりと下がった。
気配を消し、穴に向かっていく。
ジャンニを追おう。
証拠を手に入れ、ジャンニを守るんだ。
あたしは急いで穴をくぐった。
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