第15話 ガイオの悪だくみ

 孤児たちに仕事が割り振られた。

 真っ先に声をあげて僕を擁護ようごしてくれたチーロは、どうやら仕事を得られなかったようだ。

 肩を落として木にもたれて座っている。


 僕を助けたばかりに……。

 どうにかしたいけど、どうにもならない。

 チーロのことが気がかりではあるけど、いま心配すべきはガイオのことだ。

 仕事の妨害をしてくるのか。

 それとも、僕に危害を加えるのか。

 予想できない。

 それだけに気を引きしめる必要がある。


 物置小屋へ行き、ホウキを手に入れた。

 それを使い、分担された場所の落ち葉をかき集めていく。

 簡単な仕事ではあるけど、掃除すべき面積は広い。

 午前中だけでは終わらないだろう。

 敷地内の木々は落葉樹だから、新緑の季節までこの仕事は続く。


 ガイオにケチをつけられないよう、真剣に仕事を進めた。

 ちょっとした失敗でも、鬼の首を取ったように責め立てるはずだ。

 とはいえ、落ち葉集めばかりに気を取られるわけにはいかない。

 ガイオがなにか仕掛けてくる可能性は十分ある。

 ホウキで落ち葉を掃きつつ、辺りを警戒した。

 

 この付近には、落ち葉集めをする孤児たちが十数人いる。

 そのなかにガイオの取り巻き数人を発見。

 明らかに僕を警戒している。

 でも、一定距離を保っているので、なにか仕掛けてくる心配はなさそうだ。

 単に僕を見張っているだけかもしれない。

 それならいいのだけど……。


 朝の作業を問題なく終え、はじめておかずのついた朝食を食べた。

 あまり美味しくないうえに満腹にならない。

 それでも、生きていくうえでは重要だ。

 ありがたく、きれいに平らげた。

 昼からも仕事がもらえれば、また最低限の食事がもらえる。

 そう考えたところでため息が出た。

 ガイオが二度も仏心ほとけごころを出すとは思えない。

 僕に仕事を与えないのは目に見えている。

 どうにかしないと。

 策を巡らせたがなにも思い浮かばず。

 夕食は薄粥だけになる覚悟を決めた。

 ところが……。


「昼からの仕事だ。ほら、おまえ。そっちのおまえ。それから……」

 ガイオは最後の木札を僕の目の前に出した。

 仕事が欲しくて伸ばしたたくさんの手を無視し、なにもしない僕に木札を差しだす。

 驚きのあまり、僕は呆然とした。

 それは僕だけじゃない、周りにいる孤児たちも同じ。

 なにが起こったんだと孤児たちが僕に注目している。

「ほら、受けとれ」

 ガイオが不気味な笑みを浮かべた。

 明らかになにか企んでいる。

 

 受けとるべきか。

 断るべきか。

 脳が計算をはじめる。

 受けとれば食事の量が増える一方、危険が増す。

 断ればガイオの魔の手から逃れられる一方、生存率が下がる。

 瞬時に考え、即行動に移す。


 僕は手を伸ばし、木札を取った。

 今回断ったところで、ガイオからの妨害は続く。

 だったら、空腹を満たしつつ、攻撃に慣れるのが得策。

「頑張れよ」

 不敵にガイオが微笑む。

 必ず仕掛けてくる。

 ガイオの雰囲気から察した。

 

 日が傾き、辺りは黄金色に染まりはじめる。

「今日の作業は終わりだ。片づけろ」

 ガイオが大声を張りあげた。

 それを聞いた孤児たちは、一斉に動きだす。

 一歩遅れて僕も使ったホウキを片づけようと物置小屋に向かった。

 

 どうなっているんだろう。

 僕は首を傾げた。

 必ずガイオが仕掛けてくる。

 そう考えて警戒を続けた。

 でも、結果は空振り。

 何事も起きなかった。

 掃除以外の余計な労力を使っただけ。

 骨折り損のくたびれ儲けとはまさにこのこと。


 ホウキを片づけ、開放感に包まれながら食堂小屋に入った。

 仕事の木札と交換に薄粥とおかずを受けとり、一番近くの席に陣取る。

 ガイオに食糧を奪われる前に急いでおかずを食べ、薄粥で喉に流しこむ。

 急ぎすぎたせいかむせて苦しんでいたところ、真正面にガイオがやってきた。

「おい、おまえ。ホウキが一本足りない。どこに置いたんだ?」

 手でテーブルを乱暴に叩いた。

 ホウキ?

 僕は首を傾げた。

「他の奴はちゃんと片づけている。残るはおまえしかいない」

 濡れ衣だ。

 そう思ったのは僕だけじゃないだろう。

 その証拠に、我関せずとばかりに誰もが下を向いた。


『違う』

 否定の意思を示すために首を横に振った。

 それで納得するガイオではないことは百も承知。

 でも、あえてそうした。

「いや、おまえだ。早く片づけろ」

 有無を言わなさいとばかりに睨んでくる。

 僕は唇を噛んだ。

 話せないから反論できない。

 イエスかノーの二択。

 ガイオは僕が生きなければならない孤児たちの世界で頂点に君臨くんりんしている。

 そんな相手にノーとは言えない。

 

 僕は席を立った。

 ガイオを横目で睨みながら小屋を出る。

 ガイオの要求どおり、ホウキを片づけにいく。

 おそらく、ホウキは隠されている。

 それを一刻も早く発見しなければならない。

 見つからないと睡眠時間を削ることになる。

 それでも、寝不足だけで済めばいい。

 ホウキを見つけられなかったら、ガイオはきっと騒ぎたてる。

 責任を追求し、罰を与えるべきだと声高こわだかに言うだろう。

 食事抜き?

 教会からの追放?

 そんなことをされたら、僕はこの世界で生き抜けない。 


 なんとしてもホウキを探さないと。

 腕組みをし、頭をフル回転させた。

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