第13話 ヴィヴィと以心伝心
空腹で眠れない夜を過ごし、朝日が昇る前に目が覚めた。
孤児たちはまだ寝静まっている。
もう少ししたら、孤児たちが動きだす。
仕事をもらおうと戦場と化する前の貴重な静かな時間。
ゆっくりと穏やかに過ごしたい。
僕はこっそりと小屋を抜けだした。
ひとりぼっちなのに、意外とひとりきりになれない生活。
太陽が顔を出す少し前の薄暗いなか、ゆっくりと敷地内を歩いていく。
生き残るためにはどうすればいいんだろう?
いくら考えても名案が浮かばない。
解決策がなければ、いずれ死ぬ。
どうにか策を考えないと。
考えれば考えるほど、脳みそが煮詰まる。
発狂しそうになったとき——。
「レオ」
明るい声が聞こえてきた。
振り向くとそこに笑顔のヴィヴィがいた。
手を振りながらこちらにむかってくる。
「どうした? こんな早い時間に」
『ヴィヴィこそ、どうして?』
「あたし? 仕事だよ。焼きたてのパンを届けに来たんだ」
ヴィヴィは手提げカゴを見せてくれた。
ふっくらと焼けた美味しそうなパンがいくつかある。
なんともいえない匂いに脳が刺激され、お腹が鳴った。
「昨日、仕事をもらえなかったんだな」
僕は格好悪い思いをしつつ、うなずく。
「そう思って……ほらっ」
斜めがけした鞄からヴィヴィがパンを取りだした。
カゴに入ったものより不格好で膨らみも不十分だ。
「あたしが焼いた練習用のパン。食べる?」
ヴィヴィがパンを差しだすと、すぐさま僕は食らいついた。
ガツガツとパンを食べる僕を見て、ヴィヴィはにっこりと
「教会での生活は大変だろう?」
ヴィヴィから笑顔が消えた。
僕はパンを
「カリファにガイオ。あいつらから仕事をもらうのは
腕を組み、ヴィヴィが唸り声を発した。
僕は口のなかにあるパンを急いで
どこまで伝わるか疑問だけど、懸命に昨日の出来事を伝える。
ヴィヴィは真剣な目つきで僕を見て、何度か首を縦に振った。
「つまり、ガイオに仕事をくださいって頼めばいいってことだよな?」
『すごい。僕の言いたいことが全部伝わってる。なんでだろう?』
「どうして、あたしがレオの言いたいことがわかったかって?」
『うん』
「必死だから、かなぁ」
ヴィヴィが少し寂しげ目な目をした。
『僕が?』
「そう。レオとあたしの両方ともが必死だから伝わったんだよ、きっと」
ヴィヴィがぽんぽんっと僕の頭を軽く叩いた。
『
さすがにこれは伝わらなったようで、ヴィヴィが首を傾げる。
『ヴィヴィは、いつからカリファとガイオの横暴さに気づいたの?』
「初めてパンを届けに来たときからかなぁ」
思いだすように顎に手を置いた。
「カリファは今も昔も同じ、修道士副長の権力を笠に着てやりたい放題」
『ガイオは?』
「ガイオ? あいつは出会った頃からいじめっ子だった。
でも、今ほどじゃなかったけどな」
『いつから変わっちゃったの?』
「カリファから仕事の割り振りを任せるられるようになった頃からかな」
ヴィヴィは僕の手の残ったパンを見つめ、食べるよう視線で促してくる。
僕はパンにかぶりついた。
「カリファに一任されたことで、ガイオは勘違いをしたんだと思う」
『勘違い?』
「自分は孤児たちの誰より優秀で信頼されて、できる男だって」
ヴィヴィの考察に僕は深くうなずいた。
なるほど。
ガイオはどこにでもいる勘違い野郎ってわけだ。
納得。
たまたまカリファに選ばれた理由を、都合よく解釈している。
カリファがガイオを孤児たちのまとめ役に指名した理由はわからない。
でも、意図ははっきりしている。
面倒ごとを放り投げ、万が一問題が起きたら責任を押しつけるため。
早い話、ガイオは便利な捨て駒。
「利用されるガイオはバカだし、利用するカリファは悪どい」
『うん』
「でも、この状況は変えられない。だから、ガイオの言葉を逆手に取ろう」
ヴィヴィがにかりと笑う。
なにか企むような悪戯っ子の笑顔。
『逆手?』
「そう。約束を守ってもらう」
言いながらヴィヴィアは付近を見渡した。
「レオがガイオに頼んだら仕事をくれるんだろう」
『うん。たしかにそう言った』
僕と一対一ならガイオは言い逃れできるけど、あのときは周りに孤児たちがいた。
証人がいる。
「ガイオはできないと思って言ったに違いない」
僕は大きくうなずく。
「だから、それを逆手に取るんだ」
ヴィヴィはなにやら発見したらしく、近くにある切り株に駆けよった。
僕も着いていく。
「ガイオの奴を驚かせてやろう」
任せろと言わんばかりにヴィヴィが胸を叩いた。
『驚かせよう』
僕は作戦を聞く前からヴィヴィの話に乗った。
ヴィヴィなら、きっとガイオに一泡吹かせてくれる。
そんな気がしたから。
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