自称クールな姪っ子にセクハラするだけの話。

橘田 露草

第1話

「アンタ、今日からウチに住みなさい」

「‥‥は?」


大学が春休みということもあり惰眠を貪っていた僕こと、笠原透葉かさはら とうはに姉君から電話が掛かってきたのは朝の8時だった。


「聞こえなかったの?まさかアンタ難聴系主人公にでもなるつもり?で、まずはアタシを攻略と」

「ストップストップ、マイシスター。聞こえなかったんじゃなくてびっくりしただけだから」


ツラツラと罵倒と気持ち悪い想像をする姉君を静止する。

姉君は攻略されるというより攻略する側の人間だ。

そして誕生するのが奴隷1号こと僕である。

ちなみに今も奴隷みたいなもんだ、だって怖くて逆らえないもん。


「で、姉君。いきなりどうしたのさ」

「アタシ離婚したのよ、昨日」

「へぇ、離婚‥‥はぁ!?離婚!?」


慌ててネット検索するが、姉が離婚したなんてニュースはどこにもない。

むしろ主演している映画の宣伝や感想ばかりまである。


「ニュースなんかならないわよー。ウチの事務所が全力で隠すでしょ」

「あー」


清純派(笑)で知られる姉君のイメージは大切らしく、そもそも結婚していたことすら公開せず10年間隠し通している程である。


「というか義兄さんは?ウチに住めって義兄さんが家を出たってこと?」

「‥‥」


姉君は答えない。

果たしてそれは肯定か、それとも。


「いいからウチに住みなさい。そして、の面倒を見なさい。私がアンタに言うのはそれだけよ」

「娘‥あの子かぁ」


10個年上の僕に対しても辛辣な態度だった少女の姿を思い浮かべる。

嫌いなわけではないが正直、苦手という気持ちがある。


「ウチからならアンタの大学へもそんなに遠くならないでしょ?」

「まあ確かに」


大学2年生というのもあって僕は大学の近くのアパートを借りているが、狭いし古いしでそんなにいい物件ではない。

流石に学校近くのアパートよりは遠くなるが充分通える圏内だ。


「‥ぶっちゃけね」

「ん?」

「アンタ以外に頼れる先が無いのよ。理由も話さずにあの子の面倒を見てくれる人なんかね」

「姉君‥」


どこか辛そうなその声に、ため息をつきつつ口を開く。


「わかったわかった、家に住まわせてもらうよ」

「‥ふっ、返事が遅いわね」

「姉君のことだから悪巧みしてないかと不安なので」


軽口に軽口を返す。

離婚の理由は分からないし納得もしていない。

ただ、なんとなく。


「じゃあ今すぐ来なさい」

「いや、流石に引っ越しの準備させてね」


なんとなく、姉を助けたいなと思ったのだった。

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自称クールな姪っ子にセクハラするだけの話。 橘田 露草 @Tsuyukusa-kitta

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