第6話 集会場・Ⅰ
乙海市市長選初日3人の候補者等と共に選挙関係者に支援者団体そして一般参加者がおつみ志岐田製パンドームに集まっていた。乙海市政が始まっておおよそ100年の間市長選や議員選の始まりは党派所属を越えて候補者等が一堂に集まっての演説集会からであり毎回ずっと有力候補者主催で行われてきた。そして有力候補者側はホームチームとして後攻ならぬ後半からの演説といったプログラムでずっとやってきていた。今回の市長選の演説集会は有力候補者滝本鉱太を擁する民政党主催で開かれており演説の順番も今回はどうやら候補者の歳の若い順である。
「それでは乙海市長選演説会を開催します。初めに村田晋司候補どうぞ!」
大観衆の拍手が鳴ると同時に客席から見て右側からスリーピースのスーツを着こなしてるスラッとした若者が真ん中の壇席に歩み寄ってきた。一見モデル風でとにかく場違いにさえ見えた。村田候補は壇席にたって原稿を席上において一礼して開口一番「乙海市のみなさんこんにちは市長選候補の村田です。私は今回この選挙へ挑むのにあたり乙海アルカディア構想を練ってきました」
拍手が鳴っていた時とはうってかわってシーンと静まり返り何やらどこかしこからヒソヒソ話が聞こえているようでもあった。
(何かのアニメでも見すぎたかな?)
対立候補となった流美等をはじめ大体の聴衆はそのように考え始めているように見て取れた。それを知ってか知らずか村田候補は演説を続ける。
「まず第一に私は教職員の待遇改善を図り生徒達としっかり向き合って教育に当たらせる様にします。昨今のいじめの問題について私の私見となるであろうことを述べさせていただきますと最近の惨状は被害者側に抵抗力と忍耐力を求めていることが先行しているのみでそれ以外何ら対策らしい対策をしてないことが元凶だと考えられます。本来はその都度毎に加害者側に対し適度に牽制と抑制をしていけたらいいのですがそれもままならず今日まで悲劇が方々で起きていたと言えます。そこで研修会等の回数を減らして負担軽減を図り今迄以上により現場での業務に精進してもらえるようにします」
「ほうこれはダークホースに化けるかもしれんな」
「そうですね。教職員組合あたりがバックに付きにくるかもわからないですね」
演説が一区切りついたタイミングで太田と蓑田が肩を合わせ頭を寄せ合って話し始めた。まず参謀太田は村田候補をいってみれば競馬で言う穴馬か大穴のようにみていて参謀蓑田も同様であった。因みに2人は自分の担当候補の流美を一応対抗馬のつもりでいるようであった。
「それとこの度・・・」
村田候補は言葉に詰まりながら2枚目の原稿をめくると壇上の幕の裏から今にも歩み寄ろうとせんばかりに支援者らしき人が顔を出していた。その気配を察してか後ろを振り返って手を出して物を止める仕草をして下がらせて演説を始めた。
「この度乙海刑務所が閉鎖となりましたが建物がいらなくなったからと言って手放しで喜べないということは何の反論も出ない事実です。刑務所がいらなくなり始めたのは単に人口減少社会の投影にしかすぎません。おそらくはまず多様な更生プログラムが必要であることからそれに対応するためにもしかしたら中にはリニューアルオープンしたほうがいい刑務所があるかもしれません」
会場は上から下へさざ波が押し寄せたかのように笑い声が聞こえ始めてからもなおも演説を続けた。
「そこで終焉刑務所としてあそこをリニューアルしてくことをこの乙海市をあげて国に提案していきたいと考えてます。まず娑婆で人生を閉じてくことが叶わない人を受け入れてやろうじゃありませんかみなさん」
先程の笑い声がやみ会場は静寂に支配された。話についていけなくなったのであろうか?だが演説はまだ続いていた。
「あの刑務所をリニューアルてなると工事自体は居ぬき工事のようになって費用もさほどかからないはずでおそらく市の負担もないはずです。終焉刑務所で介護業務等が滞りなく行われてくのに対してここ乙海市で他の民営や公営の介護業務もそれについていって滞りなく行われていけばもしかして介護離職やヤングケアラーの問題解決ひいては少子高齢化、人口減少問題と意外なものまで解決に向かうといったように好循環がおこるかもしれないのでは思っています」
話が一段落ついてホッとすると同時に原稿をしまいながら首をかしげてから
聴衆のほうへ顔の向きを直した。
「え~いささか稚拙で突飛な話でしたがみなさん御清聴感謝します。ありがとうございました」
最後締めの挨拶をして村田候補は壇席から後ろの控え席へ戻っていった。
意中の人 荒城吾朗 @goro-8
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