第5話 候補とバイトと参謀
流美は周りが田んぼと畑ばかりのプレハブ小屋に毛が生えた程度の建物の中で5人目の選挙バイトの面接を始めるとこであった。恵理から選挙参謀を2人よこす旨連絡があり候補となった流美もバイトの人達もできるだけ2人の指示に従ってくようお達しが出ていた。ちなみに党公認なら供託金、活動費用は出してもらえるようだが推薦となった場合選挙参謀等スタッフを党から回してもらえるのみで供託金、活動費用は自腹ということであるようだ。
「大竹昇吾さん。今回この選挙のアルバイトに応募した動機は何でしょう?」
「あっ、はいそのぅあなぁたを・・・」
「なに?ハッキリ話して」
流美は左耳を相手の顔へ近づけようとする仕草をすると昇吾は少々顔を赤らめだして言葉を絞り出しながらも話を続けた。
「あなたを・・・当選させるために全力を尽くすつもりで応募しました。当選したら流美さんの・・下で働きたいと思います」
昇吾はそう言い終えて唾を飲み込むとうなだれるように頭を下へ向けた。
「わかりました。では明日からよろしくお願いします」
アルバイトの募集を出した際はかなりの数の応募はあったが選挙事務所から3キロ
圏内に住んでる人間に絞ってすぐに面接をした。流美はよほどの難がなければ面接に呼んだ人間を全員採用するつもりでいたがただ大竹昇吾についてはまぁギリギリか補欠合格のような感じであった。そうした流美の思惑を露知らずに昇吾は恍惚感に支配されてかぼんやりとした面持ちで帰路についた。
昇吾も大学出て就職した頃は海底から資源を掘り当ててこの日本を世界に誇れる国にしようじゃないかと若者らしい壮大な夢を抱いて社会に出たが現実は厳しかったというより唯々何か違う・・・ある日ふとそう言う思いを抱き始めてからは悶々とした日々が続きそのうち嫌気がさして会社もいつしかやめて実家がある乙海市に帰って家に籠るようになってしまっていた。今回選挙のバイトに採用になったのを機会に今後どうしてくつもりかは定かではなかろう。
蓑田と太田は2人電車に乗って乙海市へ向かっていた。太田はビールを1缶空けて適当につまみを喰らってすぐに鼾かいて寝てしまったが蓑田は太田の鼾がさほど気になるものでないことがあり車窓を見ながら物思いにふけっていた。
(あの娘には悪いが俺にとって今回の選挙はまぁ調整目的のオープン戦かプレ開幕、いや練習試合というべきものだな・・・)
流美の選挙参謀を務めることが決まってからずっとそのように考えていたがしかしこの男決して勝ち筋を探さないつもりでいるわけではないようだ。無党派層と浮動票とりわけその中にある眠れる票を揺り起こし自分達の方へどのくらい取り込めるかが勝利への鍵とも考えているようだ。因みにここでいう眠れる票とは普段まったく選挙にいかな人達が握っている票のことである。
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