第4話 捨てゲーム

 「又ギャンブラーの血が騒ぐんですか?」

 恵理は半ば呆れ顔で聞いてきた。

 「そんなにぼやくことでもないわよ。あぁいう世界にいた子て中々勘がよくて頭いい子多いからこの流美ちゃんて子やってくれそうな気がするわ」

 そう言い終わるや否や参謀長翔子はスマホを片手にどこかへ電話をかけながら机へと向かっていた。選挙参謀蓑田へ連絡をとって党推薦候補に考えた流美につけるためである。

 ここ憲政党には選挙対策部が置かれていてそこの事務室はいわば選挙参謀たちの溜まり場でその中の選挙参謀長が選挙対策部のトップであり数いる選挙参謀たちの取り仕切り役である。ちなみに参謀長の任期は事実上最大限8年である。まぁ党規約に明記されてないがこれも事実上党の中で強い権限を持たせてやらせるからというのが理由である。


 「おぉギャンブラー翔子か、もしもし」

 選挙参謀蓑田浩二は書類の左側に置いたスマホをとるとすぐに応答した。

 「蓑田さんね、今度の乙海市(おつみし)市長選に推薦で出したい子いるんだけど引き受けてくれるわね?」

 「推薦?公認じゃないんですね」

 「そうよ。そこの選挙男を上げるチャンスと言っていいかしら?」

 「それはまぁありたがい話ですな、でどんな子を推薦で出すんですか?」

 選挙参謀の中のトップ参謀長真田翔子は世間や党内ではギャンブラー翔子で名が通っている。現職衆院議員の高野恵理をはじめこれまでギャンブルのような選挙を経て名だたる政治家を世に送り出してきた実績を引っ提げてこの選挙参謀長にまで上り詰めた女傑である。更にいえば刈り上げのボブカットのヘアスタイルが実に爽やかな印象を与えるがまず党内では恵理とキャラが被っている。しかし翔子は通年パンツスタイルでとおしているのに対して恵理は基本スカートでいるので辛うじて党内の人間は区別がついているらしい。

 翌日高野恵理、蓑田浩二にもう1人サブの選挙参謀太田信介の3人は党本部の小会議室で坂本流美の履歴書に政策立案を広げて流美との対面前の打ち合わせを始めていた。時間は世間一般では夕飯時になっていたため3人共1缶ビールをあけてなにかどうかつまんだあとであった。

 「このお嬢さん猪対策に猿害対策なんかはよく勉強してたそうで中々画期的なことを言うね」

 「この大学の農学部とかとタイアップして猪や猿の生活圏を確保して人里へ流れてくるのを止めようてのですかね?」

 「まぁこれが現職の滝本市長ならただただ駆除を考えるだけて言ってるようだしこれについてはあたしも流美を評価できるわ」

 太田に続いて蓑田、恵理と話しはじめた。流美の場合無党派層や若年層が握っているであろう浮動票を一気に取り込めればもしかして当選も難しくないかもしれないがここで懸念材料がチラッと恵理の頭に浮かんできた。運よく市長に就任できたとして1期4年の任期を全うできるかどうかであった。市長や町長、村長あたりは間違えて当選?が考えられないと言い切れない場合があるので、その場合地方議会の空転、行政の空白に混乱ということになるとまず何を差し置いても流美が可哀想と言える。

 「議員には申し訳ないが参謀長からの命だからこの子の選挙に最善をつくすつもりだが保証みたいなのはできないよ」

 「あの子もそれはわかってると思うわ」

 「蓑田、もうこのくらいにして帰ろうじゃないか」

 太田にそう言われると3人共あっという間に帰り支度をして党本部をあとにした。

 蓑田にとって今度の選挙は差し詰め捨てゲームと位置づけられるものである反面勝算の見通しが立たないと言い切れないとも思えた。帰りの通勤電車の車窓から見える街並みを見ながらこの選挙で現場勘を取り戻して次の選挙の勝利につなげようと静かに闘志を掻き立てた。

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