だから僕は章タイトルで後悔するのを辞めた

 正直、本作品『だから僕は○○を辞めた』は、正当な物語作品を上手く書けなくなった僕が、「カクヨムに何らかの新作を投稿し続けている」という「書くサイド」の人間の体裁を保つために公開しているという側面が一番強い。そんなネガティブな動機で始めてみたものの、作品を書く中で自分のこれまでの人生を振り返る必要に迫られ、改めて自身の人生観のようなものを見つめ直す良い機会にもなっているので、意外と悪くないものだと感じている。

 全力でワナビをやっていた20年くらい前から、僕の作品の熱心な読者はこの世界で僕だけであって、他の人間に読ませた時の反応や評価が気にならないと言えば嘘になるが、「自分の書いたものが誰にも届かない」ということには慣れていたので、本作品についても、僕は積極的に誰かに読んでもらうための工夫をしないことに決めていた。僕自身がふとした時にいつでも読み返せるという、ただそれだけのために全世界からアクセスできる状態になっている感覚だった。

 そんな歪な作品であっても、本作品のページビューがゼロのままということはなく、応援のハートマークや、時にはレビューコメントまでもらえたことは、素直に嬉しかった。ワナビを辞めるに至った経緯を書いた第一話『だから僕は小説執筆を辞めた』には、同じように小説執筆を趣味とするカクヨムの読者層に何かしら刺さる部分があったのだろう、などと分析めいたことをしていたら、最近、どうも風向きが変わってきた。

 何故か、第二話『だから僕は将棋を辞めた』のページビューが伸びてきて、第一話を上回り始めたのである。どうして、あまりにヘボ過ぎて将棋を指さなくなって専ら「観る将」になったというだけの話が人気なのかと考え始め、その要因に思い至った時、僕は咄嗟に公開中止にすべきではないかと迷った。

 常識的に考えて、将棋を辞めたという内容のエッセイを書く強い動機なんて、「プロを目指していた将棋の強豪が、奨励会で夢破れ、実社会に回帰せざるを得なくなった」というケースくらいしかない。丁度、編入試験によって、奨励会を経たことのない異例のプロ棋士が誕生したところでもある。その対比として、奨励会に入ったのにプロになれなかった者の苦しみや辛さ、感動のエピソードなんかが知りたくて、期せずして、章タイトルだけで僕の作品に辿り着いてしまった人がいたのではないだろうか。

 おいおいマジかよ、と思った。これが、文章を全世界に公開した罰だろうか。元奨励会員の独白を期待してアクセスしたエッセイに「アマチュア6級」で辞めたエピソードがのほほんと記載されていたら、僕なら全てに目を通すことなく二秒でブラウザバックする。本作品の第二話は、現在、エッセイのふりをしたまま「貴重な誰かの二秒とマウスをクリックするためのわずかな筋力を無駄にさせる罠」として絶賛機能中なのである!

 意図せずに釣り広告を出してしまったというような後味の悪さがある。僕としては、本作品の章タイトルと内容には結構気をつけているつもりであった。何しろ、例えば途中で辞めてしまったゲームや、読むのを辞めた漫画作品の名称をそのまま章タイトルに用いたら、内容は書きやすいかもしれないが、ただのアンチ活動みたいになって、ファンの人は絶対に良い気がしないだろう。ただでさえクレイジーに分類されがちな思想信条を抱えて現実社会で生き辛さを覚えているというのに、ネットの世界の方で無用な敵を作りたくはない。にも関わらず、この有様である。「重大なお知らせがあります」というタイトルの動画を上げるYouTuberと大体同じようなことを、僕は無意識に仕掛けてしまっていたのだ。


 しばらくの間思い悩んでいたし、章タイトルの変更も検討したのだが、結局は(今のところ)そのまま公開しておくことに決めた。少し誤解を与える章タイトルではあるが、虚偽ではないし、叙述上のトリックみたいなものだということで、許してもらいたいと考えている。何より、本作品には、他の章にも、作為的に章タイトルから想像できないような内容に仕上がっている代物がいくつか紛れ込んでおり、開き直って、こういう「作風」なのだと言い切ってしまうことにする。

 そして、この言い訳を説明するためだけに一つの章を使うことにして、それっぽい章タイトルを考え始めた。


 本音を言えば、本章を公開し始める前から、本章のタイトルを後悔し始めている。

 だけど大丈夫。ふんわりとした言葉遊びでこの場は乗り切れそうなので、いつものように淡々と公開しようと思います。

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