だから僕はカクヨムの更新日時にこだわるのを辞めた
当初、カクヨムで文章を公開するに当たって、僕は「一度公開した文章は変更しない」ことを決意していた。曲がりなりにも全世界に公開するのだから、軽々に内容を翻すようなものを用意せず、妥協のない状態にまできっちり仕上げることを自分に課すという意味でもあり、それが自分の文章への責任の取り方であろうと考えていた。
ただ、おそらく誰もが経験したことがあるだろうが、ある程度以上の長さの文章には、「何度も読み返したはずなのに、驚くほど単純なミスが残っている」のが常である。これは、何も小説に限った話ではない。五人の上司の決裁を経た上で、複数人の署名押印までして送付した「超」が付くほど重要な業務上の文書について、送付先から、1ページ目に「約5グラム」とすべき箇所が「薬5グラム」となっている旨の指摘があって、一から作成し直す羽目になった同僚を見たことがある。「やく」という語の単純な変換ミスであり、誰か一人くらい気付いてもよさそうなものだが、意識の狭間にすっぽりと入り込むような瑕疵のリスクは本当にどこにでも転がっている。
そういうわけで、僕は、僕自身の書いた作品の現時点でほぼ唯一のファンなので、暇な時にカクヨムに投稿した作品群に目を通しているわけだが、公開時に気づいていなかったミスが、ざらに見つかってくる。直したくて仕方ないが、基本的には黙認することにしている。それは、「一度公開した文章は変更しない」というポリシーに従ったものだが、何より、ほんのわずかな誤字を直しただけでも、公開日時と異なる「最終更新日時」が記録されてしまうことにプレッシャーがあるからだ。本来、何を更新・変更したのか、説明すべきと考えている。しかし、作品の内容や雰囲気を棄損せずに適切に説明することは難しい。これまで、さすがに目に余るような瑕疵を発見した幾つかの文章については、こっそりと直して、そのままだんまりを決め込んできた。
ちなみに、本シリーズ(『だから僕は〇〇を辞めた』)に関しては、「てにをは」が抜けていたり、パッションで書きすぎて文章の主語に対して述語がおかしかったりするくらいでは修正しない。事実に基づくエッセイということで、事実誤認が発覚した時には直ちに訂正している。日韓ワールドカップの開催年を2000年(正しくは2002年)としていたことに気づいた時には血の気が引いた。また、先日、さすがにひどすぎる変換ミスを見つけて、思わずノータイムで書き直してしまった。「原作未読者」とすべきところが「原作美読者」となっていたのである。奇しくも、その修正が、記念すべき「2023年になって最初のカクヨム更新」となってしまい、僕は自分のダメさ加減に憤りを感じずにいられなかった。
そして、その時「もういっそ、カクヨムの更新日時にこだわるのを辞めたという内容の文章を書いて、将来的に生じるに違いないサイレント修正についても予防線を張っておこう」と思い立ち、この章を書くことを決めた。決めてから、10日間くらい、何もしなかった。本当は、成人の日に合わせて、成人式に行くのを辞めた話も書くはずだったのに、それも叶わなかった。本章の内容が、「更新日時にこだわるのを辞めたわけだし、公開日時にもこだわる必要はない」という開き直りに使えることに気づいてしまったからである。僕は常に、やらないことの理由を探している。
余談だが、僕が最初にカクヨムで公開した作品の更新を行ったのは、公開作品を編集画面で開いて読み直している際、執筆時の癖で、無意識に「保存」ボタンを押そうとして、全く同じ位置にある「下書きに戻す」ボタンを押してしまい、公開取りやめになったという誤操作が発端である。慌てて再度公開したが、この時、何の修正もしていないのに、公開日時と最終更新日時にズレが生じてしまうという事態に陥ってしまった。僕が完璧主義者だったら大声を上げていたところだし、僕は完璧主義者ではないがリアクション芸人に近いメンタリティの持ち主なので、負けじと大声を上げた(独り言では済まない勢いではあったが、僕の奇妙な行動に免疫のある家族は特に何も言わなかった)。
そんなミスがあったのだから、「編集」画面でなく、「表示」画面で読み返せば良いのに、僕は未だに「編集」画面で読むのを辞めない。理由も特にない。シリーズ化するほど様々なことを辞めてきた人間なのに、こういう、辞めるべき習慣だけは何故か辞めない。自覚的であっても頑なに辞めない。
……今年(2023年)もまた、ろくでもない一年を送りそうな予感がする。
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